商業施設新聞
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第146回

協同組合江釣子ショッピングセンター 理事長 高橋祥元氏


地元商店集めた地域密着で37年
顧客主導のイベントなどで集客

2018/9/11

協同組合江釣子ショッピングセンター 理事長 高橋祥元氏
 高齢化、人口減少という問題を抱える日本では、地方の商店やSCの多くが苦境に立たされており、撤退する店舗も多い。しかしそのような中でも、1981年に開業した「江釣子ショッピングセンター パル」(岩手県北上市北鬼柳19-68)は今年で37年目を迎え、単館SCでありながら業績は堅調に推移している。同施設を運営する、協同組合江釣子ショッピングセンター理事長の高橋祥元氏に話を聞いた。

―― 組合と「パル」の沿革から。
37年目を迎えた「江釣子ショッピングセンター パル」
37年目を迎えた
「江釣子ショッピングセンター パル」
 高橋 私がSCを作ろうと思ったのは77年の秋だ。当時は大規模店舗の波で既存の商店街消滅の見通しが語られるなど、将来の危機が予測されていた。そのころ近辺に高速道路のICができることから、江釣子村(当時)にもSC建設のチャンス到来と考え、村の商店一軒一軒を訪ねて勧誘し勉強会を開き、地元の商店を集めたSCを作る協同組合を設立した。
 問題となったのは、大型核店舗の誘致だ。当初地元の商店主の間では、大型店舗の誘致に反対する声が多かった。しかし私は、活気ある街としてのSCを作るには大型店が不可欠だと考え、皆を説得した。こうしてジャスコ(現イオン江釣子店)が核店舗として出店することとなり、現在まで37年続く江釣子ショッピングセンターが開業した。

―― パルのこれまでと現況について。
 高橋 世間の一般的な小売店の業績と同じような傾向だ。開業からバブル期を経て成長し、ピークの96年には135億円を売り上げた。しかしその後は競争の激化などがあり、現在は100億円程度で推移している。
 しかしそういった中でも、テナントはほとんど撤退していない。開業から20年目までテナントの撤退はなく、20年目で初めて出た撤退も後継者の問題によるものだった。これは協業思想に基づき、テナントの皆が共に努力し協力してきたからだと思う。

―― 競争が激化するなか、単館SCで生き残ってこれた理由は。
 高橋 色々あるが、何よりもお客様が「また来たい」と思えるような店であることだと思う。例えば館内のトイレは、あらゆる人が安心して使えるだけではなく、それぞれ異なるコンセプトを持たせ、ギャラリーを設置するなど魅力あるものにしている。
 また、我々は日本ショッピングセンター協会の第1回地域密着大賞を受賞するなど、地域密着を徹底している。展覧会やスポーツ、健康増進などについてのイベントを多数開催しているが、これは我々が企画したものだけではなく、地元の方々の主導で行っているものも多い。地元の方々からしてみれば、パルは人が集まり知名度もある、対応も親切で貸し出し料金も安いということで広く使っていただいている。こういった面では全国的な巨大SCとは違う、単館SCならではの地域主導の小回りの良さ、地元との距離感の近さがあると思う。
 こうした地域住民の支持があるからこそお客様が集まり、さらに魅力が高まるという好循環の構造だ。地域密着を超えた、「顧客主導型SC」とでも言うべき状況があるからこそ、厳しい競争の中でもお客様に繰り返し利用していただけるのだと思っている。

―― 特に好調なテナントは。
 高橋 「食彩工房」を核とする「フレッシュフィールド」だ。石垣島ラー油のような、一般の店舗では取り扱わない高品質で珍しい食品が人気を集めている。地元の方々だけではなく、近隣都市からも食への関心が高い層が来ている。広域集客力のある店舗で、第2の核テナントとも言える存在だ。

―― 岩手県や北上市といった周辺商圏の今後をどう見ていますか。
 高橋 東北、また岩手県全体で見れば、やはり人口の減少は避けられない。しかし北上市では近年、工業団地の開発で労働人口が増えつつある。トヨタの工場に続き、直近では東芝メモリの進出で1000人規模の雇用が生まれ、人口は1万人近く増えるかもしれない。パルでも今までは見られなかったお客様が増えており、関係企業の家族の方々の来客を実感している。決して楽観視しているわけではないが、あまりネガティブに見ているわけでもない。

―― 今後の計画、目標などを。
 高橋 我々はこの地域を、皆が幸せを感じられるような地域にしたい。パルを中心に、病院や福祉施設、幼稚園や学校、銭湯やアミューズメント施設などが集まり共生する、「ここに来ればゆったりできる」と感じられるような地域だ。
 しかしそれを実現するには、現在のパルでは力不足だ。そのため我々は今後、施設の増床、拡大を計画している。新施設には現在不足しているレストランや、市民の方々による文化教室のスペースなどを設ける。また集客の核となる大型専門店も誘致したい。屋外には洗練され、憩いの場となる公園や子どもの遊び場も作っていく。
 この拡張計画はすでに具体的なプランを用意しており、また一部の土地は取得済みだが、現在はオリンピックや復興需要で建築費が高騰しており、工事には着手できていない。いつ工事に取りかかるかは不透明だが、できるだけ早く実現したい。

(聞き手・山田高裕記者)
※商業施設新聞2257号(2018年8月14日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.271

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