サッポロ不動産開発(株)(東京都渋谷区)は、これまでグループが保有する「恵比寿ガーデンプレイス」や「サッポロファクトリー」(札幌市中央区)の運営が事業の柱だった。一方で事業領域を広げるため、2023年9月に投資運用事業本部を設立し、東京・恵比寿や札幌・創成エリアで物件取得や再開発を進めている。執行役員で投資運用事業本部長の藤原聡氏に聞いた。
―― 投資運用事業本部を設立しました。意図や体制は。
藤原 当社は恵比寿ガーデンプレイス・GINZA PLACEやサッポロファクトリーなどのアセットを持ち、賃貸運営しているが、資本効率が求められる昨今の株式市場において大きな資産を直接保有し運用する形では市場の期待に応えられず、積極的にアセットを増やすだけではなく、売買などを通じて効率的に収益を上げていくことも期待されている。
体制としては、恵比寿事業本部と札幌事業本部が従前からあるが、新体制では札幌事業本部はサッポロファクトリーと「サッポロガーデンパーク」を、恵比寿事業本部は恵比寿ガーデンプレイスと「GINZA PLACE」を主に運営する。それ以外の物件は投資運用事業本部が担い、さらに物件の売買やエクイティ投資業務なども担う。
当本部では、25年4月1日現在で23物件を運用する。恵比寿12、札幌7、銀座に1、名古屋、川口、川崎に1物件ずつある。取得は、日本全国を対象とするが、当社は大きな会社ではなく経営資源にも限りがある。知見のないエリアに出て行くよりも、得意とする札幌と恵比寿での物件取得に注力する。
―― 札幌での開発は。
藤原 札幌駅から南側に駅前通りが延び、その先に大通が東西に延び東側に創成川が流れる。創成川の東側にサッポロファクトリーやサッポロガーデンパークが立地し、エリア全体が創成イーストと呼ばれている。かつて一帯は工場地帯で、現在でもまだ遊休地も豊富だ。新幹線新駅が創成川をまたいで現在の札幌駅の東端にできるし、付近を流れる豊平川から創成川に挟まれたエリアで札幌市は容積割り増しを行うなど、開発を進める意向であり、当社は経営資源を投下する。
―― 恵比寿の開発は。
藤原 恵比寿はまとまった土地が少なく、恵比寿ガーデンプレイスのような大規模再開発が難しい状況にある。そのため、外部の不動産を活用した取り組みにも力を入れている。今年4月には西武信用金庫恵比寿ビルの1フロアを賃借し、自社物件で培ったノウハウを活かして「セットアップオフィス」に改装し、スタートアップ企業に転貸する。これは、自社物件での豊富な実績とテナントニーズ把握を活用したノンアセットビジネスの一例だ。今後は、オーナーの高齢化などで運営が難しくなったビルを取得・賃借し、恵比寿の不動産価値向上につながる取り組みも行いたい。日ごろから恵比寿の街を歩いて情報を収集し、町会や商店会との関係を深めていることも強みだ。
―― 恵比寿は飲食店の立地の需要も高いです。
藤原 ビルの1、2階は飲食店が多く、新業態の1号店は恵比寿、という需要も強い。恵比寿で勝負したいという個人から大手チェーンまで様々だが、資金が豊富ではない個人事業主が出店できる環境をどうつくるか。また最近多いのが戸建て住宅の活用。古くなってきた住宅を売却するなかで、飲食店に転換する事例も多く、こういうマッチング機会も作りたい。アパレルや宿泊施設のニーズも開拓したい。
ただ、何でも誘致すると街の価値を損ねる懸念もあり、地域に合う業種業態を求める声も強い。その点は地元とのコミュニケーションを密にしている。
―― 今後の抱負を。
藤原 当社は既存施設の運営にとどまらず、中長期的には「はたらく、」「あそぶ、」「ひらめく。」をテーマにまち全体の魅力や機能、価値を高める取り組みに力を入れてく。そうした取り組みによって人や企業が集い、新たなニーズや経済活動を生み出すことで、事業成長と企業価値の向上につなげていきたい。
恵比寿は、古き良き下町の側面があり、高齢者や古いビルも多い。単に大規模再開発を行うのではなく、街に根差すからこそ見えてくる地域課題を解決することで街の価値を上げていく「地域デベロッパー」を我々は標榜する。
加えて、他社にはない強みとして、サッポロビールは恵比寿と札幌で140年間事業を行っているビールメーカーであり、「サッポロ」ブランドは知名度の点からも安心感を与えられる。
恵比寿南には防衛省の広大な土地が広がり、政府はこのうち約8000坪に「グローバルスタートアップキャンパス構想」を持つ。ディープテック分野の研究所を新設するもので、国内外の大学や事業会社、ベンチャー企業が集結し、一大研究拠点をつくるものだ。
恵比寿にはかつてビール工場があったが、30年前に恵比寿ガーデンプレイスができて、美しい街並みに変わり、感度の高い飲食店が増えた。また、恵比寿南や長者丸など高級住宅街もある。新たに先端研究所ができることで、街がさらに変化を遂げるだろう。地域デベロッパーとしてそこにどうコミットするかが、今後の大きなテーマだ。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2600号(2025年6月17日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.466