(株)中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに、全国の商業施設を中心に64店の小売店を展開している。直近は自社物流施設を開発するなど製造小売業として流通を安定させる取り組みを推進すると同時に、2030年を目安に海外での旗艦店開業を計画しているという。同社販売部部長である古谷奈々氏に聞いた。
―― 国内店舗で注力していることは。
古谷 最近出店する店舗の売り場づくりでは、吉野桧や漆喰など有機的な什器を取り入れて、内装でも日本の工芸を感じられるようにしている。店内のBGMも以前はポップな音楽を流していたが、工芸産地の環境音を生かしたオリジナル音源に変更し、工芸の現場に来ている雰囲気を感じてもらえるように工夫を凝らしている。
そのほか、従業員の制服についてもワークエプロンから、オリジナルの白いシャツへと変更した。当社の店舗で販売する商品は10万円以上するものもあるので、清潔感のあるものにすることで、接客も含め商品価値をしっかり提案できる取り組みを進めている。
―― 店舗開発について。
古谷 既存店のリニューアルに注力しており、中川政七商店の「アトレ吉祥寺店」(東京都武蔵野市)、「エキュート上野店」(東京都台東区)、「ルミネ北千住店」(東京都足立区)は、広さが10~25坪弱だった区画から35坪前後の区画へ移転オープンし、店舗内装もリニューアルした。衣食住フルラインアップで幅広く提案できるようになり、特にグロッサリーやプロダクトの売上比率が高まり、新規顧客を獲得でき、業績も好調に推移している。
新店は旗艦店の開発に取り組んでおり、9月12日にはニュウマン高輪に、全国で4店目となる旗艦店をオープンしている。約80~90坪クラスの旗艦店があることで、工芸に関する様々な提案や間口を広げる取り組みを実施することができる。
ただ、当社の商品ラインアップとしては、広さが35坪程度あればフルラインアップで提供できるので、立地環境に合わせて1店1店魅力ある店舗づくりを施し、拡大できればと思っている。
―― 海外展開も計画されていますね。
9月9日にオープンしたイギリス・ロンドンのポップアップストア
古谷 当社は工芸の出口を作るという思いのもと、18年ごろにコンサルティングとセットで台湾にポップアップストアを展開し、これをきっかけに海外進出にも取り組むようになった。23年ごろからはポップアップストアを開催する頻度やエリアを拡大し、24年には中国や韓国にも進出した。さらに、9月9日にはイギリス・ロンドンにポップアップストアをオープンした。欧州への進出は初めてで、営業期間は約1年の26年7月までを予定している。
今後も当社は世界各地でのポップアップストアの展開を通じて、テストマーケティングを積み重ね、30年の旗艦店開業を目指して海外展開に取り組んでいく。
―― 24年は奈良県に自社物流施設も竣工しました。この狙いは。
古谷 製造小売業をやる中で、毎日の出荷ができなくなってはいけないので、物流までカバーしたいと以前から思っていた。この施設は、店舗数の拡大に伴う物流コストの抑制に加え、唯一自前でできていなかった倉庫業を担うもの。自社物流の確立によって、事業継続における大きなリスクヘッジにもつながる。稼働後は出荷準備に加え、検品から什器や生地の保管、返品対応も一貫してできるようになったので生産性が向上している。工芸品を卸すメーカーにとっても、当社に物流機能があることで、ものづくりに集中できると好評だ。
―― 今後の展開は。
古谷 25年の出店は、9月12日にオープンした「ニュウマン高輪店」(東京都港区)以降も2店の新規出店と1店のリニューアルが決定しており、8店で着地する見込みだ。今後はリプレイスやリニューアル含め毎年6~8店ペースで拡大できればと考える。
小売業のさらなる取り組みとしては、接客力の強化を進めている。お客様の心に接し好感を得る接客ポリシー「接心好感」を一層進めるほか、販売員が作り手の場所を訪れ、作業工程や話を聞いて接客に生かす取り組み「さんち修学旅行」や、社員が自主的に産地を訪れることを支援する「産地視察支援金」を推進している。そうすることで、お客様に工芸の良さが伝わって売り上げが上がり、作り手に還元されて日本の工芸が元気になっていくと思うので、この取り組みを強化していきたい。
(聞き手・北田啓貴記者)
商業施設新聞2613号(2025年9月30日)(5面)