東武鉄道(株)(東京都墨田区)は、浅草と東京スカイツリー(R)を結ぶ鉄道高架下で展開する複合商業施設「東京ミズマチ(R)」を運営している。同施設は2020年6月の開業から5年を迎え、誘引力あるテナント揃えでエリア一帯に賑わいを創出している。同社の生活サービス創造本部沿線価値創造統括部運営担当課長の早野雅史氏に話を聞いた。
―― 施設の概要から。
東京ミズマチの外観と東京スカイツリー((C)TOKYO-SKYTREETOWN)
早野 東京ミズマチは、浅草駅からとうきょうスカイツリー駅間の高架下を活用した複合商業施設で、隅田川に合流する北十間川沿いに位置する。全長は約634mで、東京スカイツリーの高さになぞらえた。延長線上には、同時に開設した隅田川にかかる歩道橋「すみだリバーウォーク(R)」が続き、一体的な道になっている。すみだリバーウォークと東京ミズマチを歩いていくことで、日本有数の観光地である浅草エリアと「東京スカイツリータウン(R)」を直線的に結ぶ。
店舗は14区画で開業し、現在は15区画で構成される。業種は幅広く、飲食店やカフェをはじめ、ホステル、パデルコート、トリミングサロンなどバラエティ豊かなテナントが並ぶ。パデルコート「パデル東京ミズマチ」は社有地を活用し22年に加わった区画で、偶然にも敷地面積がぴったりコート3面分だった。
―― 開発経緯や特徴は。
早野 東京スカイツリーとその周辺施設「東京スカイツリータウン」の開発当時、東京都による隅田川の河川耐震補強整備や、墨田区による景観整備の計画が同時に動き出しており、東京スカイツリーの周辺インフラを整えていこうという機運が高まっていた。その流れで、当社は高架橋の耐震補強整備と東京ミズマチの計画に取り組んだ。
東京スカイツリーと浅草エリアの連動は、当社がずっと求めてきたもの。人が集まり歩いて楽しめる、河川と一体の空間作りを目指した。施設は一つの建屋に複数の店舗を設ける構造にせず、各店舗間に通路を設け、路地とテラスの行き来をしやすいウォーカブルな構造にした。この工夫は米国ポートランドなどの水辺空間をモデルにしたものだ。
―― 滞在型の機能も目立ちますが、どのようなコンセプトで開発しましたか。
早野 東京スカイツリータウンと浅草エリアは毎年4000万人ずつほどが訪れる観光地であることから、ホステルはおのずと選択肢に入っていた。コンセプトのひとつに「Live to Trip(旅するように過ごし、暮らすように旅する)」があり、観光を軸に据え、住む人も訪れる人も異国情緒を感じられる施設にしていこうという意識があった。
飲食店が多めなのも、行き交う人が多く腰を休められるような場所を作るため。東京ミズマチの目の前には、当社グループが指定管理を務めている区立隅田公園があり、公園とのつながりも見据えた。
―― バラエティ豊かな店舗ラインアップですが、MDや利用者は。
早野 駅前ではないトラフィックを踏まえ、チェーン店ではなく、店自体がお客様を連れてくるような、集客性ある店を中心にリーシングを進めた。バッド・ロケーション戦略で知られるバルニバービグループにカフェダイニング「ランド・エー」を運営していただいているのはわかりやすい例だ。ランド・エーをはじめとして駅から距離はあるが、各店とも賑わっている。
感度の高いエリアにしたいという意識もあった。東京ミズマチという施設として大きな括りになってはいるが、個店が一つ一つ並んでいるイメージ。コンセプトに共感してくれて、どの店も熱いパッションを持っている。
ペットトリミングサロン「Salon de BIOGANCE」や、和菓子「いちか」は地元向けに誘致し、順調に地元客がつき賑わいを見せている。ホステル「WISE OWL」は稼働率が高く、利用者は海外客が多め。観光のほかワーケーションにも利用されている。サーフブランド「デウス・エクス・マキナ」は多くの海外客を集めている。
―― エリアの開発による街の雰囲気の変化や賑わいの増加は。
早野 すみだリバーウォークができたことで、周辺の回遊性が大幅に向上した。以前は浅草エリアから東京スカイツリーへは大きく遠回りをしなければならなかったが、現在では徒歩20分ほどで、歩く人が多い。
雰囲気も大きく変わった。従前は東京ミズマチ周辺から隅田川を渡って浅草へは歩いて行けず、行き詰まった構造で、高架下は倉庫だった。現在では多くの人が行き交うエリアとなり、相撲部屋、カフェ、美容室などができ、出店や進出したいと思える場所になった。
―― さらなる賑わいに向けて、今後はどのようなことに取り組みますか。
早野 東京スカイツリータウンの東西両側で社有地を活用した再開発を計画しており、東京ミズマチに接する場所でも再開発が予定されている。また、隅田公園と東京ミズマチが一体で行うイベントもやっていきたいと考えている。特に、お子様など地元の人も遊べるような企画を検討している。
(聞き手・編集長 高橋直也/サリョールサラ記者)
商業施設新聞2610号(2025年8月26日)(5面)
高架下の賑わいを探る (上)