商業施設新聞
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第237回

(株)徳山物産 代表取締役社長 洪棟基氏


韓国食文化のパイオニア的存在
おいしい物に国境なし

2020/7/7

(株)徳山物産 代表取締役社長 洪棟基氏
 日韓関係は政権が変わるたびに良くなったり、悪化したりを繰り返してきたが、最近の日韓関係は過去と比べ物にならないほど悪化している。このようななか、日韓関係の融和のため最前線で奮闘する企業家がいる。本シリーズでは2回に分けてインタビューする。第1回は、(株)徳山物産(大阪市生野区新今里3-3-9、Tel.06-6755-5000)の代表取締役社長の洪棟基(ホン・ドンギ)氏に、同社の日本におけるビジネスの取り組みと日韓関係の最前線で臨む事業戦略などについて、お話を伺った。

―― 徳山物産創業の経緯から。
 洪 当社は1948年にハルモニ(前会長の母)が押車を使い、トック(お餅)を製造・販売したことから始まる。以来、70年以上にわたり、常に「日韓の食文化の架け橋として貢献する」をモットーに、あらゆる韓国食材の企画、開発、製造、販売を網羅して取り組んでいる。トックは在日韓国・朝鮮人にとっては、お正月やお盆には欠かせないものである。
 そして65年に大阪・鶴橋コリアタウンに現在の徳山商店(本店)を設立、75年に徳山商店鶴橋駅前店をオープン。95年に(株)東京徳山物産、99年に(株)班家食品を設立。01年に本社ビル新築移転(大阪生野区新今里)、03年にコリアタウン班家食工房(日韓文化交流施設)を開業、08年に韓国麺工場を設立した。現在、大阪市生野区にある大阪本社をはじめ、東京都台東区の東京支社や大阪市生野区の班家食工房、群馬県太田市のマルシゲ食品(株)でキムチと珍味製造を行っている。
 在日コリアンが最も多く暮らし、日本の中で独特な文化を育み、創出してきた大阪・鶴橋コリアタウンで生まれ、愛され、育まれて72年目を迎えている。

―― ご自身の経歴は。
 洪 私は在日4世でソウルに5年間留学したことがある。当社は、私の祖父が創立者であり、私で3代目となる。1979年に広島県で生まれ、大阪で育ち、高校卒業後、渡韓し、1年間語学を学んだ後、2000年に高麗大学へ留学したが、諸事情で中退し日本へ帰国。ウェブデザイン会社に勤務し、07年に徳山物産に入社、15年から取締役副社長を経て、18年から現職にある。

―― いわゆる大阪鶴橋コリアタウンの生き証人ともいうべき歴史があります。
 洪 大阪鶴橋コリアタウンで韓国伝統餅と冷麺を製造・販売する商店としてスタートし、韓国食材総合商社のパイオニア的な存在といっても過言ではない。そして日本と韓国の食文化の最前線を走りつつ、素材や製法にこだわり心を込めた製品を提供している。

―― 業績と日韓関係は密接のようですね。
 洪 当社は創業当時、国内の在日コリアンの方々を主な顧客としてきたが、1988年のソウルオリンピックを契機に日本における韓国という国への興味や関心が高まり、顧客層が日本の消費者に変化していった。以来、冬ソナの「ヨン様」ブームやK-POPなど、国内の韓国への関心度に比例し売上高は右肩上がりを続けてきた。
 しかしながら、市場は当時まだまだ日韓の外交関係に敏感で、関係悪化の煽りを受けることもしばしばだった。特に12年に李明博元大統領が独島(日本名:竹島)に上陸した際には、その煽りを受けて、厳しい経営を余儀なくされた。そんな中でも市場は縮小することなく、多くの企業が参入してきて現在もそれが続いている。

―― 韓国食品の輸入割合などについて。
 洪 当初韓国からの食材輸入割合は全体の70%であったが、これからは30%以下に下げて、本場の味をより日本の食卓に身近なモノにしていくべく国内製造する割合を増やしていきたい。それがパイオニアを自負する当社の次のミッションと考えている。

―― 昨今の日韓関係についてどう思いますか。
 洪 徳山物産のビジネスは日韓関係に非常に敏感な業種なのだが、最近は全くそれを感じない。政治と経済、文化を分けて考える人が多い。大阪市生野区のコリアタウンはいつも日本の若者で賑わい、週末ともなると若者で埋め尽くされることもしばしば。近年の若者は日韓の政治関係とは異なる文化的アイデンティティーを主張しているようだ。私は在日4世として生まれ、先人たちの想いを伝えていく責任を感じながらも、今の状況を非常に喜ばしく思うと同時に、市場の可能性がまだまだ十分にあることを確信している。

―― 徳山物産の未来像を聞かせて下さい。
 洪 当社は「おいしいものに国境はない!!」という信念のもと、日本の中での韓国食材の開拓者として、常に一番前を走り、またその誇りを持ち続けていきたい。そしてまた、日本にお住まいの方々だけでなく、世界の人々に愛される、「おいしい韓国」をこの日本の地、大阪鶴橋の地から大阪鶴橋コリアタウン発として発信し続けていく方針だ。さらに、在日5世となる私の子供たちにも、今後、日本で在日をどう表現していくかを教えていきたい。

※このインタビューは4月7日の緊急事態宣言発令前に取材したものです

(聞き手・ソウル支局長 嚴在漢)
※商業施設新聞2338号(2020年3月24日)(5面)
 シリーズ 日韓融和の架け橋目指す (上)

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