商業施設新聞
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第242回

(株)SHIBUYA109エンタテイメント 代表取締役社長 木村知郎氏


40周年リニューアルで成果
リアル・デジタルで新たな仕掛け

2020/8/11

(株)SHIBUYA109エンタテイメント 代表取締役社長 木村知郎氏
 (株)SHIBUYA109エンタテイメント(東京都渋谷区道玄坂1-10-7、Tel.03-3477-6719)は2019年4月、ファッションビル「SHIBUYA109渋谷」(以下109)の開業40周年を機に、リニューアルや新ロゴ採用など、様々なプロジェクトを推進した。その手応え、またウィズコロナにおける施設運営を、代表取締役社長の木村知郎氏に聞いた。



―― 緊急事態宣言での休業中の状況は。市場全体ではEC需要が高まりました。
SHIBUYA109渋谷

 木村 109の主要顧客である20歳前後のEC購買率は低かったが、今回の外出自粛で今まで以上に彼らもECを体験したが、思っていた以上に利益性を感じているということがオンラインアンケートでわかった。一方で、ECでのショッピングやコミュニケーションの限界も感じた。また、服は我慢できるが、おいしいものや大好きなことは我慢できないという意見も多かった。
 休館中、テナント各社は営業できず苦労された。テナントなくして我々の成長はなく、いかに支え合うことが重要かを改めて痛感した。

―― 40周年プロジェクトについて。狙いや成果は。
 木村 40年の感謝と新しい109に生まれ変わっていく思いを込め「REBORN」をテーマに、マーケティング、リブランディング、リニューアルの3つの仕掛けをした。
 マーケティングは、「共感」「確認」「参加」「共有・拡散」のいわゆる「SIPS」をどうつくりだすか。我々が発行する「109ニュース シブヤ編集部」や、SNSのフォロワー数が増えているのは、地味だが時間をかけて共感を増やしてきた成果。若い世代は一人ひとりが情報を発信するメディアであり、それを意識した。
 リブランディングについては、“ギャルの聖地109”だけでは成長が止まる。若い人たちの夢の応援など、「109は変わっていく」という期待感を作りだすもので、その象徴が昨年4月のロゴ変更である。
 それを目に見えるかたちにし、体験していただくのがリニューアルで、その核が昨年6月に新設したスイーツフロア「MOG MOG STAND」だ。

―― 成果は。
 木村 来場者が開業40年で過去最高の年間970万人となった。エンターテインメントを強化する方向に進むことを東急モールズデベロップメントから分社した時からテナントと共有してきた。アパレルだけのファッションビルではなく、若い人たちが求めるすべてを取り揃え、わくわく・ドキドキする空間や時間を作り出す。テナントも共感していただき、半分が移動やリニューアル投資を行った。

―― イマダ キッチンもユニークな取り組みです。
 木村 109にしかできない飲食スタイルで、我々が直接運営する。若い世代が何を求めているのかを知りたいメーカー様や彼らの今のライフスタイルをリードしているインフルエンサーの皆さんとともに新しい今の提案を行い、実際に多くの若い世代に体験して頂くことで、新たな顧客を取り入れたうえで全国展開にもつなげて頂いている。出店者様には新しいR&Dの場としてその価値を感じて頂いている。今後協業する企業も順調に決まるなど、先の展開が見えてきた。
 さらに昨年秋、動画配信スタジオ「SHIBUYA109 LIVE TV ハチスタ」(以下ハチスタ)を立ち上げた。テナントからの配信や、我々からメッセージを発信するなど、ビジネスチャンスが広がっていく。
 このようにエンタメ、ファッション、スイーツ、コスメ、アイドルコンテンツなどを提供する体制を整えた。単にモノを売るだけではなく、“床をメディア化”し、ブランドの世界観を表現し、最終的にモノはECでも購入いただける―というエンターテインメントプラットフォームが整った。これが最大の成果といえる。

―― 渋谷にはスクランブルスクエアや新生パルコが誕生しました。影響は。
 木村 多くの商業施設が開業することで渋谷はさらに、日本を代表する街になった。一部では「渋谷は大人化する」などといわれるが渋谷はすでに、その程度の年代論に収まる街ではない。渋谷に集まる人は、多様化、カオス化している。そのすべてを受け入れるのが渋谷の街のすばらしさ。そのためにそれぞれの施設がそれぞれの役割を果たしていく。109はカオスの中の若い人たちとの接点が多い。いずれ彼らも成長し、「次は渋谷のあの施設に行ってみたい」となれば、街全体の発展につながり、それが109の役割、存在意義ともいえる。

―― ウィズコロナでの施設運営は。
 木村 郊外からお客様を都心に大量に運んで集客するという鉄道会社の商業施設ビジネスモデルが、根本から揺らいできている。リスク回避のために都心にわざわざ行く機会が減ることを考えると、郊外でも買えるものが売っている施設は淘汰されてしまう危機感はある。独自性を追求してきたが、方向性は間違っていないと確信している。リアルでしか体験できない109の価値に、デジタルがさらに可能性を広げる。

―― 具体的には。
 木村 家にいる時間が長いので、自分の部屋を飾ったり、語学学習や料理に目覚めるなど、自分を磨きたいというニーズが増えている。ここにハチスタを使ってデジタルで参加できるような様々なコンテンツを計画している。参加することで、109に行ってみたいと思えるようにリアルの入り口に使っていく。
 また、スイーツやコスメ、アパレル、エンターテインメントを組み合わせて、地方の商業施設にも集客機能としてのパッケージを提供したい。


(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2354号(2020年7月21日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.336

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