電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第370回

20年iPhone新機種は一部ミリ波対応、AiP市場が本格離陸


カスタム設計品を搭載か

2020/10/2

 2020年のiPhone新機種は10月13日に新製品イベントが開催され、10月末から販売が開始される見通しだ。5G対応のスマートフォンが各社からリリースされるなか、アップルも初めて対応機種を発売、一部はミリ波にも対応するかたちとなっている。

 ミリ波対応機種の登場によって、期待されるのがアンテナ部品をモジュール化させた「AiP(Antenna in Package)」市場の拡大。関連する部材各社も近年、AiP市場の本格離陸に大きな期待を寄せており、iPhone新機種での搭載は市場拡大を後押しする格好の材料となりそうだ。

新機種は4モデル

 iPhone新機種は現状で4モデルが発売されるといわれている。ディスプレーとカメラ、ミリ波対応の有無でそれぞれ差が付けられているほか、全モデルが有機ELディスプレーに切り替わる見通しだ。これまで新機種の一部に液晶ディスプレー搭載モデルを残していたが、今後は廉価モデルの「SE」シリーズだけが液晶モデルとなりそうだ。


 カメラに関しては、従来機種と同様に上位モデルにはトリプルカメラが搭載されているほか、新たにセンシング用途の「ToF(Time of Flight)」方式のセンサーが搭載されており、リアカメラ部は見た目上は「カメラ4つ」となる見通しだ。ToFセンサーを搭載したことで、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのアプリケーションが今後増えてくることが予想される。

 5G対応については、全モデルがサブ6に対応しているほか、上位2機種についてはミリ波にも対応しており、高速かつ低遅延な無線通信を前面に押し出したかたちとなりそうだ。

 なお、新機種の年内生産計画は今のところ、7000万~8000万台が見込まれており、例年に比べて強気な姿勢をとっている。5G対応によるユーザーへの訴求効果に加え、競合のファーウェイが米中対立の煽りを受けて販売が低迷していることも、アップルの強気な計画を後押しする材料となっている。

ミリ波対応でアンテナ部刷新

 ミリ波対応によって、部品レベルで大きく変わりそうなのがAiPの搭載だ。スマホに搭載されるアンテナは従来、MID(Molded Interconnect Device)を使って筐体上部と下部に設置される。5Gのうち、サブ6領域では従来のアンテナ技術が踏襲されるが、28GHzや39GHzといったミリ波領域ではアンテナ技術が大きく変わる。

 ミリ波は一度に多くのデータを流せる特徴を持つ一方、障害物に弱い弱点もあり、アンテナ技術の高度化はスマホなどの端末だけでなく、基地局などのインフラ分野でもカギを握る。具体的には、従来の形態は一線を画す、アレイ状のアンテナパッドを配置した「AiP」が必須となってくる。

 AiPはスマホの筐体側面に配置するため、19×5mmのような特殊なパッケージ寸法を取っており、片面にアンテナパッドが形成され、もう一方にはパワーアンプ統合型のRFICとPMICが実装される。ミリ波はユーザーの「手」さえも障害物となってしまうため、スマホ1台に複数個のAiPが搭載される見込み。これにより、経済的な面からもミリ波対応スマホの登場に期待を寄せる声は大きい。

クアルコムのミリ波対応AiP「QTM052」
クアルコムのミリ波対応AiP「QTM052」
 このAiPで先行していたのが、米クアルコムだ。18年に第1世代となる「QTM052」を発表、19年には対応周波数の拡大と低背化を図った第2世代の「QTM525」をリリース。モデムを含めて、ミリ波のソリューションを一元的にサポートできる体制を整えている。

搭載員数を削減か

 アップルの新機種に搭載されるベースバンド(モデム)チップは、クアルコム製が搭載される見通しだ。アップルは従来インテルから同チップを調達していたが、インテルが同事業から撤退。その事業をアップルは譲り受けているが、ミリ波を含む5Gモデムについてはまだ開発が間に合っておらず、クアルコムを頼らざるを得ない状況だ。

 これに伴って、AiPもクアルコム製が搭載されると見られていたが、新機種には独自設計のカスタム品が搭載される可能性が高まっている。先述のとおりAiPはスマホ1台に複数個搭載する必要があるため、員数削減がニーズとして強い。アップルはここに独自技術を盛り込むことで、搭載員数削減を実現できたとみられている。具体的には搭載員数を2点まで減らしたといわれている。

 一部ではこのAiPは設計や生産の遅れによって、上位2機種の販売時期が後ろ倒しになる可能性も指摘されている。

電子デバイス産業新聞 編集部 副編集長 稲葉雅巳

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