会場入りした人たちは、何となく上気していた。それなのに、なぜか和やかな空気が流れていた。久方ぶりのライブによる大型カンファレンスであったからであろう。そう、満を持して開催された「第7回電子デバイスフォーラム京都」(2020年10月29~30日)の会場の雰囲気である。
主催は日本電子デバイス産業協会。昨年よりは減ったものの、延べ1000人を動員することに成功していた。挨拶に立たれた京都府の山下副知事は「このテレワークの時代にあってソフトは早く進むが、デバイスは時間がかかる。しかして、すべては半導体などのデバイスに始まる」という趣旨の発言をされ、京都市の門川市長は「綺麗な舞妓はんのいる京都の夜も忘れないで」みたいなことを言われ、会場の笑いを取っておられた。
基調講演のトップを飾ったのは、国立研究開発法人 科学技術振興機構の上席フェローである木村康則氏のSIPプログラムに関する話であった。タイトルは「フィジカル空間デジタルデータ処理基盤の構築に向けて」というものであった。
「我が国が提唱するサイバーフィジカルシステム、つまりCPSはエッジコンピューティングをベースとするものだ。これまでのクラウド一本槍の時代を超えて、超自立分散、協調型制御による新たなデータ処理時代を切り開く」
力強くこう述べられた木村氏は、この実現のためにはどうあってもセンサーをはじめとする電子デバイスの開発がキーであるとして、さらに重要な発言をされたのだ。
「GAFAに席巻された過去を認識し、センサー、デバイスで勝負したい。これがニッポンの強いところであるからだ。そして、オールジャパンで戦う」(木村氏)
SIP、すなわち戦略的イノベーション創造プログラムは毎年20億円を投入し、2018年から5年間にわたる計画なのである。超低消費電力IoTチップは、遠藤哲郎教授率いる東北大学のスピントロニクスグループが開発する。
超高感度センサー技術は東芝が担当する。パーソナルモビリティーの分野はパナソニックが担当し、そしてエッジコンピューティング基盤はNEC、九州大学が重責を担う。さらに、三菱電機、ルネサス、富士通なども参戦を決めた。
日本発のこのプロジェクトの成功を心から祈りたい。そして何をやっても米国には勝てないという負け犬根性を払拭してもらいたい、と心から願っている。
ちなみに、基調講演の二番手としては、堀場エステックの代表取締役社長である小石秀之氏が「先端技術を支え未来へつなぐHORIBAの『はかる』技術」と題して興味ある講演をされた。堀場エステックは、ガス流量計測技術の分野で世界トップシェアを持つ堀場製作所の子会社であり、実質的な量産拠点である。HORIBAグループは、2019年に総売り上げを2002億円とし、大台に乗せてきた。
HORIBAの売り上げのうち40%は自動車、23%は半導体である。エンジン排ガス計測システムでは世界シェア80%を持ち、半導体向けのマスフローコントローラーでは60%の世界シェアを有している。半導体製造プロセスを支える計測制御機器においては、いまや先端をいくEUVの7nmプロセスに対応している技術力を持つ。京都企業を代表する1社であるHORIBAの語る将来像には、ダイバーシティー推進、持続可能な開発などが盛り込まれており、聴衆は深くうなずきながら聞いていた。
この基調講演の最後には、筆者がまたも放言しまくりのお話をさせていただいた。タイトルは「ポストコロナの世界経済は半導体産業が最大ドライバーだ!!」というものであったが、久方ぶりの大人数を前にしたライブであるだけに「やっぱり生(なま)がいい。どんなことでも生がいい。生でなければ感触が悪い」などと訳の分からないことを言い、またも失笑を買ってしまった。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。