電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第423回

透明になる太陽電池


光透過と発電を両立する高機能ガラス

2021/10/15

 太陽光発電(PV)の市場が拡大している。IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、2020年のPV世界導入量は139GWで、前年比では2割以上増えた。PV市場は2021年以降もプラス成長が続き、22年には年間導入量が200GWを突破する見込みだ。

 PVの導入が加速している最大の理由はコストの低減である。この10年間でPVの発電コストは急速に下落しており、すでに、補助金がなくても原子力や化石資源よりも安価な電力ソースになっている。また、多くの地域では風力よりも安価になっている。

 米投資銀行のLazard社の調査では、大規模PV発電所のLCOE(均等化発電原価)は50ドル/MWh以下で、補助金フリーでも原子力や化石資源より安価になっている。20年には、ポルトガルのプロジェクトで入札価格が1.32セント/kWhの最安値を記録した。

様々な透明化技術

 コストが下がり、導入量も順調に拡大するPVだが、安定成長を図るには、さらなる用途拡大が不可欠となっている。なかでも、十分な土地が確保できない都市部でPV導入を拡大するための技術開発が求められており、建物に設置できる軽量&フレキシブルPV、さらには窓と一体化した透明PVなどが注目されている。

 透明PVは無機系が先行して開発が始まった。03年には、産業技術総合研究所(AIST)が酸化亜鉛と銅アルミ酸化物を組み合わせた透明PVを試作した。変換効率は2~3%と低いが、可視光を採光に、赤外光を温度調整にそれぞれ利用することができる。
 物質・材料研究機構(NIMS)も08年に窒化ホウ素薄膜を使ったBN/Siへテロ太陽電池の試作に成功しており、BN薄膜のpn接合型で透明PVができることを示した。

 その後、有機系材料を用いた透明PVの開発も進んだ。発電層の膜厚がナノオーダーの有機薄膜型(OPV)や、酸化チタンのナノ多孔膜と電解液を使う色素増感型(DSC)は構造上、透明PVを作りやすい。

 Heliatek(ドイツ)が透過率40%で変換効率7.2%の透明PVを開発したほか、米国UCLAも近赤外に多くの吸収を持つ高分子材料を使用した透明PVを開発し、70%の透過率で変換効率4%を実現した。

 神奈川大学は、ガラスなどの基板にn型の無機半導体層とp型の導電性高分子層を積層したヘテロ構造の透明PVを提案しており、試作した2cm角のセルは光透過率が80~90%で、開放電圧(Voc)は0.588V、出力は0.16mW/cm²となっている。東北大学は、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)という材料に着目し、同材料を用いたショットキー型の透明PVで変換効率0.7%を達成した。

 東京大学はチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)とルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)をヘテロ積層した素子で光起電力が発生することを発見した。紫外線を遮断しつつ、その紫外線で発電できる透明PVへの応用が期待できるという。

ペロブスカイトも透明に

 商業化に向けた開発が加速するペロブスカイト太陽電池(PSC)も透明化技術の開発が活発化している。

PSCを用いた「サーモクロミック・ウインドウ」(NREL)
PSCを用いた「サーモクロミック・ウインドウ」(NREL)
 米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)は、太陽の熱で色が変わり、発電も行う「サーモクロミック(熱変色性)・ウインドウ」を開発した。反射防止や日中に不要な太陽熱を遮断できるほか、ガラスの間にPSCを組み込むことで発電もできる。高い遮熱効果と発電を併用することで、建物の消費電力低減が期待できるとしている。

 ローレンス・バークレー国立研究所(米国カリフォルニア州)もPSCを用いたサーモクロミック・ウインドウを開発した。開発した無機ペロブスカイトは温度が変わることで結晶構造が変化し、電気的な特性を維持しつつ透明から非透明になるという。

 PSCは短波長の光は効率よく吸収する一方で、長波長の光吸収が弱いという課題がある。東京大学は長波長の吸収効率を高める方法としてプラズモン共鳴による「アンテナ効果」に着目し、長波長の変換効率を向上することに成功した。高い光透過率を維持しつつ、約10%という高い変換効率を達成しており、窓ガラスなどへの応用を目指している。

商業化が始まる

 透明PVの開発が活発化する一方で、一部では実用化も始まっている。NTT-AT(東京都新宿区)は、inQs(東京都港区)が開発した透明PVを活用した発電ガラスの販売を21年9月から開始した。inQsは11年の設立で、極低照度型光発電素子(SQ-DSSC)を応用して、IoTなどの自立電源として無色透明型光発電素子のSQPV(Solar Quartz Photovoltaic)を開発している。

 SQPVは二酸化ケイ素の微粒子(Solar Quartz)を電極材料に使うことで、一般的なガラスと同等の可視光透過を維持しつつ、遮熱や発電(紫外光から赤外光を吸収)といった機能がある。SQPVの遮熱効率は複層ガラスの約2倍(赤外線透過が半分)で、ビルや建物、自動車などの窓として利用することで、発電・採光・遮熱などの機能を発揮する。

発電ガラスの取り付けイメージ(NTT-AT)
発電ガラスの取り付けイメージ(NTT-AT)
 NTT-ATは4年前からinQsと協業してきたが、20年5月に日本国内の独占販売契約を締結し、今回、商品化の第1弾として、海城学園のサイエンスセンター(理科館)に発電ガラスを導入することになった。発電ガラスの発電性能は28cm角サイズで数十mW程度で、21年11月までに、センターの屋上の温室の壁面に120枚の発電ガラスを内窓として取り付ける予定という。

 ENEOSホールディングス(東京都千代田区)は、日本板硝子(東京都港区)と共同で透明PVを用いた発電ガラスの実証実験を開始した。実証実験は日本板硝子の千葉事業所(市原市)内に設置した施設で行う。今後1年かけて、発電性能や遮熱効果などを検証する。

 発電ガラスは米国のUbiquitous Energy(米国カリフォルニア州)が開発したもので、主に紫外線と赤外線を吸収して発電する。一般的な窓と同等の透明性を維持しつつ、遮熱性と断熱性に優れている。

 なお、日本板硝子は19年5月にUbiquitous Energyと発電ガラスの共同開発で合意しており、ENEOSは21年3月、Ubiquitous Energyに出資している。ENEOSと日本板硝子は、発電ガラスをPV活用の新たな選択肢の1つとして、事業化する予定という。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

サイト内検索