商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
No.832

取材から感じた新たな「贅沢」の定義


北田啓貴

2021/11/16

 百貨店などの商業施設、飲食店、ホテルなどを日々取材していると、「人間にとって、贅沢とは何なのだろう」ということを考えてしまう。贅沢という言葉を広辞苑(第五版)で調べると、(1)必要以上に金をかけること。分に過ぎたおごり、(2)ものごとが必要な限度を越えていること、というネガティブな意味が出てくる。ただ、実感としての「贅沢」は限度以上のお金をかけた分、体や心をリフレッシュできたり、幸せな気分に浸ることができたりもする。

 例えば百貨店に行き、ハイブランドの衣料品やバッグ、宝飾品を見たときに、「贅沢して身に着けたら、おしゃれで幸せな気分になれるのだろうな」ということを妄想したり、飲食店で、贅沢して地元産や最高級の食材を使用した料理に舌鼓を打って、幸せな気分に浸ったり。そしてホテルでは、広々としたリビングゾーンや風呂があるスイートルームを観察して、「贅沢して泊まって、心身ともにリフレッシュさせたいな」と思ってしまう。筆者自身も、取材を通じて多種多様な「贅沢」を感じている。

 ただ筆者の中では、やはり「贅沢=お金を消費する」ということであり、それで完結すると考えていた。一方で最近、大阪を拠点に不動産開発などを手がける(株)日本ユニストが和歌山県で進めている宿泊施設や取り組みを取材し、筆者自身の中で、「贅沢」の定義に新たに「時間」という要素が加わった。日本ユニストでは、熊野古道の参詣道の一つで、コロナ禍前には欧州から訪れる人も多かった「中辺路ルート」(滝尻王子~熊野那智大社)沿いに、22年9月までに計4つの町宿を整備する。背景にあるのは、宿泊施設不足だ。熊野古道の参詣は、「中辺路ルート」でも約100kmあり、巡礼には約4~5日間を要する。そのために、複数の宿泊施設を確保する必要があるが、周辺には1組限定の民宿などが多く、春や秋の人気のシーズンになると宿の確保が困難となり巡礼できないという課題があった。そのうえで、日本ユニストは、中辺路ルート沿いに町宿の開発を通じて観光業による賑わいや雇用を創出し、地域の活性化を図っていく。

10月にオープンした町宿「SEN.RETREAT TAKAHARA」
10月にオープンした町宿
「SEN.RETREAT TAKAHARA」
 筆者自身も、10月にオープンした第1号の町宿「SEN.RETREAT TAKAHARA」の内覧会に参加してきた。最寄り駅から車で約1時間かかる山奥にある施設だが、視界を遮るものがなく周辺は青々とした木が生い茂り、鳥のさえずりを聞きながら、その場所にいるだけで快適な時間を過ごすことができた。

 そして取材を通じて1日ではなく、約4~5日間という「時間」を要して自然豊かな山の中を歩いて巡礼することに、「消費」では得られない豊かさ、違う意味での「贅沢」を感じた。仕事を通じて、「贅沢」という感覚をアップデートできる記者という職業の面白さを改めて学んだ。
サイト内検索