電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第432回

自動車業界は車載デバイスの供給不足でブレーキ


日系OEMは21年度の販売見通しを下方修正

2021/12/17

 21年における新車販売台数は当初、前年比8.2%増の8500万台規模にまで回復すると見込まれていた。しかし、2月には火災やテキサス州オースティンにおける寒波でインフィニオンやNXPの半導体工場が操業を一時停止。3月にはルネサス エレクトロニクスにおける那珂工場の火災が発生するなど、車載半導体の供給不足の懸念にさらに拍車がかかってしまった。

トヨタ 名港センター船積みの様子
トヨタ 名港センター船積みの様子
 その後、さらに5月ごろからは新型コロナの感染再拡大に伴い、ベトナムやマレーシアなどの一部アジア地域においてロックダウンや外出制限が発令され、半導体後工程ラインや車載部品工場などの稼働停止や操業制限を余儀なくされたことも相まって、車載半導体に限らず車載関連部品の供給もタイトな状況となり、今年の新車販売台数は8200万~8300万台規模にとどまる見通しとなっている。

日系OEMの動向

日系OEMの21年度販売台数見通し


 2021年度上期(4~9月)における主要日系自動車メーカーの業績が出揃った。各社とも大幅な増収増益を果たし、トヨタでは過去最高益を達成するなど、収益面では満足のいく結果となったと思われる。しかし、一方では足元の半導体ならびに車載部品の供給不足を受け、主要日系自動車メーカー7社すべてが21年度通期の販売計画を前回発表値から引き下げる状況となっている。それでも、トヨタ、マツダ、三菱自動車の3社の計画は前年度実績を上回る見通しだが、半数以上のホンダ、日産、スズキ、SUBARUの4社は下期に挽回生産を見込むも、先行きが不透明であることから、前年度を下回る予想とするなど明暗が大きく分かれた状況にある。

 トヨタ自動車の近健太CFOは、「当社ではもっといいクルマづくりによる商品力の向上と成長投資を行いつつ、地道な原価低減や固定費の効率に取り組んだことが、過去最高益の達成につながった。しかし、通期見通しでは、円安の影響を除けば資材の高騰などにより実質下方修正。コロナ禍で得た学びを定着させるべく、取り組みを継続したい」とコメント。

 なお、同社では昨今の減産計画などに伴い、トヨタ・レクサス合計の21年度通期の生産台数を従来の930万台から30万台減の900万台へ下方修正。「12月以降も、依然としてリスクがある。900万台は保守的に見た数字となる。土日稼働なども含めて、できるだけのことはやっていく」と近CFOは語った。

 日産自動車では、主要市場の先行きが不透明であることから前回見通しの440万台から保守的に380万台へ修正。「市場に対する半導体の供給不足の影響は想定を上回り、全体需要は9月に前年比19%減、10月は同17%減少している。主要マーケットの米国では、日系メーカーは9月に23%減少し、10月は28%落ち込んでいる。11月には回復すると見ているが、下期も不安定な状況が続く。先行きが不透明な中、全体需要の予想は難しく、当社は21年度通期のグローバル販売台数を下方修正した」とアシュワニ・グプタCOOは語った。

 ホンダは、通期の販売台数を前回計画の485万台から65万台減の420万台へと大幅に下方修正した。「今回は、アジアのロックダウンの長期化により部品供給が一層厳しさを増してきたことから、さらに下方修正した。当初10~12月期から半導体の供給不足が解消すると見込んでいたが、アジアにおけるロックダウンの影響が長期化。年明けからは回復の見込みだが、生産の挽回にも取り組むが今期中の挽回は厳しい」と副社長の倉石誠司氏は語る。

 22年度における半導体の供給見通しについては、依然として不透明な状況ではあるものの、足元では一部の状況に改善もみられる。同社では、同等部品のデュアルソース化による部品調達タフネスの向上や戦略的サプライチェーンの構築を検討するなど、生産の正常化に向けた取り組みを進めている。

車載半導体メーカーの売上高は高水準で推移

 主要車載半導体メーカー4社(Infineon、NXP、ルネサス、STマイクロ)の21年7~9月期の売上高は、各社とも前年同期比で2桁の成長を果たしており引き続き好調だ。受注残についても高い水準で推移しており、ルネサスなどでは「少なくとも22年半ばまでは堅調に推移していく」との見方を示している。また、NXPでは顧客とキャンセル・返品不可の長期供給契約を締結するなど、安定供給に向けた取り組みも推進しており、20年夏に車載半導体メーカーが経験した、急な調整局面を再び迎える可能性は今のところ低く、22年下期以降、緩やかな調整となっていくものと見込まれる。


 Infineon Technologies(ATV事業)は、サイプレス・セミコンダクターの買収により、NXPを抜いて19年に車載半導体のリーディングサプライヤーとなった。20年も引き続きトップシェア(20年:13.2%)を堅持している。21年7~9月期におけるATV事業の売上高は、マレーシアのマラッカにある後工程工場の操業停止があったにも関わらず、前年同期比21.2%増の12億6700万ユーロの2桁成長を果たした。同工場については、直近の2カ月は操業を行っているが、引き続き、コロナの感染拡大を注視していく必要がある。昨今、急速に市場が拡大しているxEV関連では、インバーター用のSiCベースのモジュールを中国のOEMが採用を決定。さらに、IGBTベースのインバーターの設計を、日本のOEMで獲得しているもよう。

 なお、半導体需給の逼迫については22年まで継続する見通し。このため10~12月期も従来の季節性を上回り、全社売上高としては約30億ユーロを見込む。ATV事業の売上高については、1桁後半での成長と予測している。

 NXP Semiconductors(Automotive事業)の7~9月期における売上高は、前年同期比51%増の14億5500万ドルと高成長を記録した。21年における同社の手元在庫は、長期目標である2.5カ月を約1カ月下回り、一貫して需要が供給を大きく上回る状況が継続している。なお、同社の場合、車載半導体の約75%のリードタイムは52週間を超えている。このため顧客はNCNR(No Cancel No Return:キャンセル・返品なし)で長期的な供給を確保することとなっている。

 一方、同社ではクルマの電動化が、今後の業績拡大に寄与する見通しを示した。xEVの平均半導体搭載金額は900ドルを超え、これは同等の内燃機関車両の約2倍となる。これにより、過去3年間で車両1台あたりの車載部品の搭載金額は年間10%増加している。同社では、77GHzのミリ波レーダーやバッテリー管理用IC、新しいドメインコンピューティング・ゾーンコンピューティング向けのSoCやマイコンなど、成長分野にフォーカスした製品ポートフォリオで、さらなるシェア拡大を狙う。

 ルネサス エレクトロニクス(自動車向け事業)の7~9月期における売上高は、前年同期比52.5%増(直前期比14.3%増)の1213億円となった。20年7~9月期から5四半期連続で直前期を上回り成長を遂げている。同社の前工程の稼働率(ウエハー投入量ベース)を見ると、7~9月期は300mmで那珂工場の生産回復が寄与し大きく増加。200mmは引き続き高い水準の稼働率を維持しており、全体で85%を若干超えるレベルとなった。

 同社では那珂工場の300mmライン(N3棟)の火災を受け、代替生産の対応に注力してきたが、「ウエハーで比較的成熟したものを自社の他工場でつくるケースと、いわゆる300mm系の特にハイエンドを社外のTSMCで代替生産する取り組みを進めてきた。それにより現在、供給のフレキシビリティー/サステナビリティーが向上している。バランスを取りつつ、デュアルファブ化することで、お客様への供給をきっちり確保していく」と執行役員兼オートモーティブソリューション事業本部長の片岡健氏は語った。

 なお、車載半導体の需要について22年半ばまでは堅調との見通しを示した。現在、OEMのクルマの在庫水準は非常に低く、少なくとも22年3月までは可能な限りの増産を計画しており、それに合わせて同社でも40nm製品などを中心に増産投資を行っていく考え。

 STマイクロエレクトロニクス(ADG事業:Automotive & Discrete Group)の7~9月期の売上高は、前年同期比18.1%増の10億500万ドルの2桁成長となった。旺盛な需要は継続しており、受注残は依然として約18カ月分の需要をカバーする水準にある。

 成長が著しいxEVにおいては、エアコン向けコンプレッサー用SiC MOSFETの新たなデザイン・ウィンを獲得。そのほか、高電圧および定電圧のSi -MOSFET用ソケット、バッテリー管理システム向けマイコン、トラクションインバーター、MOSFETインバーターなど多くのデザイン・ウィンを獲得しているもよう。

 一方、同社はビジョンベースのAIソフトウエアと車載用センサーフュージョンのサプライヤーであるアイリス社(米カリフォルニア州パロ・アルト)と、車室内モニタリング向けのセンシング・ソリューションの開発で協力すると7月に発表。この協力では、アイリス社のディープ・ニューラル・ネットワークのポートフォリオを活用して、STマイクロのグローバル・シャッター機能付き車載用イメージ・センサーを車室内センシング・アプリケーションに拡張し、車室内全体の視覚的な空間認識を実現する。

電子デバイス産業新聞 編集部 清水聡

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