電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第441回

SKハイニックスの成功物語


10年で時価総額6倍に

2022/2/25

 2月14日は、SKハイニックスがSKグループ傘下に入って満10年となった日だった。2012年にSKグループが買収する直前のハイニックスは、数年間に及ぶ熾烈な半導体チキンゲームに喘いだ結果、中国系メーカーへの売却が取り沙汰されているほどであった。こんな最中、崔泰源(チェ・テウォン)SKグループ会長は、社内外から多くの反対にもかかわらず、果敢な買収決定という経営手腕を発揮した。

メモリー市場No.2を堅持

 当時、ハイニックスの営業利益率は買収前の11年に0.4%、買収後の12年には2000億ウォン(約194億円)という営業赤字を余儀なくされていた。日韓の半導体専門家や経済界などからはSKグループの半導体産業に対する専門性の欠如をはじめ、系列会社とのシナジー効果の不足やメモリー市場の競争激化など、様々な理由でハイニックス買収に反対されていた。実は、筆者さえも半導体アナリストや専門家などの取材の下、メモリービジネスは「熱いジャガイモ(リスクが大きすぎる)の不幸」という論拠を並べて、買収反対の論調でコラムを書いた覚えがある。

 だが、SKグループはハイニックスの買収に続いて果敢な設備投資を決行。多くの半導体メーカーが設備投資を縮小した12年に、同社はむしろ10%増の3.9兆ウォン(約3786億円)を投じた。

 その結果、過去10年間のSKハイニックスの時価総額は、16兆ウォンから21年末基準で95兆ウォン(約9.2兆円)に膨らんだ。また、サムスン電子とともに世界メモリー市場シェア71.3%、NANDフラッシュ52%強を獲得している。つまりはメモリー半導体市場ではサムスンに次ぐNo.2を堅持しているのである。





 こうした目覚ましい成長と迫力は、新型コロナの長期化に疲弊した産業界にも大きな試金石になっている。特に、グローバル・サプライチェーンの見直しを迫られている半導体業界において、同社の活躍ぶりに勇気づけられる企業は少なくなかろう。

サムスンを凌ごうと奮闘

 1990年代後半、いわば韓国のIMF金融危機の渦中、当時の現代電子産業とLGセミコンの合併で誕生したハイニックス。将来は非常に不透明な状況であった。崔会長は「ハイニックスを世界的な半導体メーカーに成長させるため、当グループの力量と私個人のネットワークなど総力戦で挑む」と公言したことがある。

最新鋭M16ラインの完成を祝う崔会長(2021年2月)写真:SKハイニックス
最新鋭M16ラインの完成を祝う崔会長(2021年2月)写真:SKハイニックス
 以降、SKハイニックスは世界半導体市場で注目すべき新技術をアピールしつつ、メモリー王座のサムスンをも凌ごうと奮闘している。例えば、21年に半導体業界で初めて開発した高付加価値・高性能製品であるHBM3 DRAMや業界最大容量の24Gb DDR5、特に22年2月に公開した演算機能を持つメモリーのPIM(プロセッシング・イン・メモリー)などが挙げられる。

 また、積極的なM&Aを通した競争力アップにも積極的に取り組んでいる。17年にキオクシア(当時の東芝メモリー)に持ち分投資を執行しており、21年にはインテルのNANDフラッシュ事業部門(中国大連工場)買収に対する第1段階の手続きを完了している。

 12年にハイニックスを3.4兆ウォン(約3301億円)相当のCD(譲渡性預金)で買収した同社は、当時の法人税額はゼロであったものの、その10年間総額10兆ウォン強の法人税と1兆ウォン強の地方税を収めている。また、21年売上高、営業利益はそれぞれ43兆ウォン(約4.17兆円)と12.4兆ウォンを達成するというグローバル企業へ飛躍している。
さらに、買収前の従業員は1万9000人から現状では約3万人と大幅に増加した。今後、大規模プロジェクトの龍仁(京畿道)半導体クラスターが完成すれば、協力企業を含めてさらなる雇用創出が期待されるところだ。

次世代半導体のPIMを公開

 SKハイニックスの成功物語は、未来成長動力に向けたさらなるグローバル投資につながっている。親会社のSKグループは現在、新成長動力のための事業機会を見込んで欧州への巨額なリチウムイオン2次電池(LiB)への投資をはじめ、遺伝子の細胞治療剤や中枢神経系の新薬開発投資などを進めている。

SKが今年2月に公開したPIM半導体 写真:SKハイニックス
SKが今年2月に公開したPIM半導体
 写真:SKハイニックス
 特に、22年2月に同社は演算機能を持つ次世代メモリーのPIM開発に成功したと明らかにしている。PIMは人工知能(AI)とビッグデータ分野において、データの処理能力を大幅に改善できる半導体である。また、データを貯蔵するメモリーと演算機能を担うロジックとの境界がなくなる次世代半導体でもある。


 同社は、このPIMが搭載されたGDDR6 AiM(アクセルレーター・イン・メモリー)のサンプルも公開した。1秒あたり16Gbpsの速度でデータが処理できるGDDR6上に演算機能を加えた。さらに、GDDR6の作動電圧である1.35Vより低い1.25Vで駆動することから、自主演算できるPIMがCPUやGPUへのデータ移動を減らし、電力の消耗が最小化できる。

 SKハイニックスは、ハイニックが買収された当時は韓国株式市場ランキング10位圏外であったが、現状の時価総額はサムスン電子とLGエネルギ・ソリューションに次ぐ第3位に大きく飛躍している。確固たる企業家精神を貫きつつ、価格の浮き沈みが激しいメモリービジネスのジレンマを乗り越えたSKグループの崔会長と経営陣に拍手を送る。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長・嚴在漢

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