商業施設新聞
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第338回

UDS(株) 取締役 プロジェクトデザイン事業部 執行役員 高橋佑策氏


ホテルを核としたまちづくり標榜
地域コンテンツ活かし魅力発信を

2022/7/12

UDS(株) 取締役 プロジェクトデザイン事業部 執行役員 高橋佑策氏
 UDS(株)は、まちづくりにつながる様々な施設を手がけている。今年4月、東京・渋谷で街のパブリックハウスを標榜するホテル「all day place shibuya」を開業し、新たな交流拠点を目指している。同社の取り組みについて、UDS(株)取締役の高橋佑策氏に聞いた。

―― どのようなまちづくりを目指していますか。
 高橋 当社は地域の未来に貢献できるまちづくりを目指している。そのひとつがホテルを核とした施設づくりだ。ホテルは外から人が訪れ、施設の中にレストランやショップなど機能が入る。生産者、産業を含めたそれぞれの街のパートナーと、地域のコンテンツを活かしたコラボレーションにより、地域の魅力発信に寄与できる。

―― ホテル第1号は東京目黒区に開業した「CLASKA」(2020年閉館)でした。
 高橋 名前のとおり「どう暮らすか」に由来する。当社は92年に(有)都市デザインシステムとして創業し、コーポラティブハウスという住宅事業を10年ほど手がけ、次の新しい事業として、まちづくりにつながることからホテルを選び、CLASKAを03年に開業した。
 当社の強みはエンドユーザー目線を大切にしている点。当時CLASKA周辺にはインテリア・ライフスタイルショップが集積しており、良い雰囲気が醸成され、豊かな生活への意識が高い住民が多かった。この方々に、コミュニティの場としてホテルを利用いただけるのではと考え、コワーキングやギャラリー、トリミングサロンなども併設した。

―― SCなど商業施設分野には参入しませんでした。
 高橋 商業施設の運営実績はあまり多くはない。ホテルは運営まで手がけるが、商業施設では区画一つひとつにテナントに入居してもらいオペレーションするため、プロパティオーナーとして館の運営になる。実事業につながりやすいホテルの方が、まちづくりを目指す我々との親和性が高い。

―― 「all day place shibuya」を開業しました。
 高橋 1階にデンマーク発のクラフトビールブリュワリー「ミッケラー」のビアバーと、日本初進出となるkiosk業態「Mikkeller Kiosk/Bar」、スペシャリティコーヒーを提供する「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS 渋谷一丁目」を、2階にはピッツァ・ダイニング「GOOD CHEESE GOOD PIZZA」を誘致した。坂を上ってくると、細長いビルが見え、これらの店舗の賑わいが街にこぼれ出る。目指したのはできるだけ仰々しくなく、街の日常にある風景。その上にホテルがあるイメージだった。

―― 敷地は広くはありませんが、160室を確保しました。
 高橋 建築基準法で、室内廊下は、延べ床面積に換算される。延べ床面積に換算されると、容積率に対して廊下分が付いてくる。すると、その分専有が減ってしまう。そこを開放廊下にすることで、延べ床面積に換算されないため、その分を専有につけかえられる。廊下分をすべて部屋に変えることで160室を確保できた。ホテルは部屋数、単価、稼働率がカギとなる。仮説を基に検証したところ、雨は入ってこないし、廊下が寒いといっても部屋までの距離が近いので問題はなかった。これも住宅事業から積み重ねてきたノウハウを応用したものだ。

―― 今後の開発として都心と地方は。
 高橋 両方手がけていくが、まちづくりの視点でいけば地方の方が、より寄与できる可能性があると思う。静岡県熱海市に2年前に開業した温泉宿「SOKI ATAMI」では近隣の真鶴でしか採れない本小松石を使っている。石材産業は担い手も少なく、課題を抱えている。ホテルの施設に採用することでお客様に魅力を伝え、地域の産業に気づいていただくきっかけになる。我々は仕入れるだけでなく、お世話になった石材店からご依頼を受け、ブランディングのお手伝いを2年間続けている。その結果、石材店では国内外のデザイナーからの問い合わせや、5つ星のホテルからも受注の機会が生まれている。このほかに「SOKI ATAMI」では静岡の県産材利用や、地域の生産者や漁師から食材を直接仕入れている。
 よくあるのが、開発で地域産を使って、「地域のものを入れました」で終わってしまうこと。まちづくりを目指すホテル事業者として、地域の産業や生産者と相互にフィードバックできる取り組みをコミュニケーションしながら継続することを大切にしていきたい。

―― 今後の展開を。
 高橋 地方には魅力的な温泉地・観光地・自然がまだまだあり、産業や地域ともっと深く関われるような、観光施設や宿泊施設のあり方があると思う。例えばワイナリーの中にホテルがあるように、ブドウ畑が年々育ち、毎年訪れて地域の産業に関わりながら楽しんでいただく。繰り返し訪れることで継続して関わりながら、もうひとつの自分のコミュニティの場や持続的な関係づくりができるような地域づくり・場づくりができる施設やホテルのあり方を追求したい。

(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2451号(2022年6月28日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.380

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