電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第468回

半導体封止材各社、車載用途などに照準


需要拡大で生産体制も強化

2022/9/2

 住友ベークライト(株)(東京都品川区)や昭和電工マテリアルズ(株)(東京都千代田)らの半導体封止材メーカーは、車載デバイスなど高信頼性が要求されるアプリケーション向けの製品開発・事業拡大に注力する。ECU(エレクトロニクスコントロールユニット)向けの一括封止など新市場の本格開拓にも乗り出す。SiCなど次世代パワー半導体向け高耐圧・高耐熱性の製品開発でもしのぎを削る。足元でスマートフォンやPC向け半導体市場が弱含むが、中長期的には高性能CPUやメモリー市場の拡大も期待されるため能力増強も進める。

車載向けが倍々ゲーム

 半導体封止材のシェア4割を占める業界最大手の住友ベークライトは、高耐圧・高耐熱の半導体封止材ならびにECU向け一括封止材料など、車載用途向けを中心に事業拡大に邁進する。販売量は倍々ゲームで伸長しており、海外拠点での能力増強により旺盛な需要に積極的に応える。

 インバーター向けのIGBTパワーモジュール用途など、車載向け半導体封止材の主力製品は、EME-G720シリーズとEME-G780シリーズを展開する。後者は、Tg200℃前後の高耐熱性ならびに高絶縁耐性を持ち、SiCやGaNなどのWBG半導体向けも対応する。需要は活発に推移している。

 パワーモジュール向け封止材のなかで、車載用が全体の3割程度を占める。4年前に市場投入したG780シリーズは、年々市場が拡大している。特にEV用途向けなどに強い引き合いがきており、当初見込みよりも速いペースで市場が拡大しているという。欧州を筆頭に、日本や中国で旺盛な需要が継続している。

 さらに同社の好調を支えるのが、EVモーター磁石固定向けのエポキシ樹脂封止材料やECU向けの一括封止材である。ここ最近、EVなどのエコカー需要に牽引されて、一気に拡大してきている。

 現在、シンガポール工場から欧州向けの出荷対応に追われているが、中長期的には欧州市場でさらなる需要拡大が見込めるとして、ベルギーの生産子会社で関連材料の能力増強を実施している。生産能力は年間数千tを計画する。

 モーター磁石固定用エポキシ樹脂は、EVやHVに搭載されるモーターローター内の磁石を固定する材料として、従来は液状樹脂が使用されてきたが、同社製の封止材はより強固に固定できるのが特徴。モーターの高速回転につながり、高出力化と小型化を両立できるため需要が急拡大しているのだ。なお、ベルギーでの生産は、サプライチェーンの混乱により増設工事が遅れているが、22年後半には稼働できる見込みだ。モーター磁石固定用のほかに、ECU一括封止材向けも量産する。ベルギーでの生産以外にも北米での生産も検討する。

 同社では、これらパワーモジュール用封止材をはじめ、モーター磁石固定用とECU一括封止材の3製品を中心に、25年度までに120億円の売上高を計画する。足元の需要が前倒しで動いているため、25年度を待たずに計画数値を達成する可能性も出てきそうだ。

 なお同社の封止材ビジネスは、全方位でやっていくというのが基本方針。先端分野では、モールディングアンダーフィル(MUF)ならびに顆粒タイプのコンプレッションモールド材にも力を入れている。MUFは、SiPとDRAMで需要が伸びてきている。DRAMはもともとBoC構造が採用されていたが、フリップチップへの移行が進んでおり、MUFの需要が増えている。結果的に、現状ではDRAM向けがMUFのなかで一番比重が大きくなっている。顆粒材ではNAND向けが伸びている。今後はSiPとWLPが増えてくるとみている。

 一般的な半導体向けの封止材料も好調に推移しており、中国の生産子会社である蘇州住友電木(SSB)では、25億円を投じて従来比1.5倍に生産能力を高め、月産1800t体制を構築。22年頭から稼働させた。

 台湾でも半導体封止材の能力増強を実施する。生産子会社の敷地内に建屋を新設し、23年半ばの稼働を目指す。一連の投資額は33億円を見込み、生産能力は倍増する見通しだ。

 同社は、半導体封止材の市場シェア4割を占める業界最大手で、半導体市場の一層の拡大を見据えて封止材の供給体制をさらに強化する。

昭和電工マテも車載向けは20%成長

 半導体用封止材業界2位の昭和電工マテリアルズは、パワーデバイスならびにメモリー向け関連製品の開発を強化する。特に車載向け半導体用封止材が前年比20%増(物量ベース)の勢いになるなど、21年の事業業績は好調だった。22年も引き続き2桁前後の成長を目指す。

 同社の半導体用封止材は液状封止材のほか、BGAやCSPなどの封止材やパワーデバイス・モジュール向けトランスファーモールドなどの封止材を幅広くラインアップする。特にICなど高信頼性デバイスや車載用デバイス全般に高シェアを誇る。

 足元ではエポキシ樹脂系のMUFを開発、市場投入を開始した。特にSoC向けで高評価を得ている。チップ剥離も発生せず、パッケージングの信頼性を確認している。ハイエンドのメモリー向けに拡販を図る。一方、車載対応製品では車載IC向けの各種信頼性試験の規格となるAEC-Q100にも対応済みという。

 今後、さらに注力するのがパワーデバイス向けの高耐熱特性に優れたCEL400シリーズだ。ガラス転移温度175℃に対応する。同製品は、半導体メーカーなどティア2メーカーにおいて、数多くの採用事例があるという。

 次世代のSiCなど、高温動作可能な高効率のパワーデバイス向けには、さらにガラス転移温度200℃に対応したCEL420シリーズを展開する。既存のエポキシ樹脂ベースに新たな高耐熱性の樹脂を混ぜあわせて実現した。すでにパワーモジュール構造のデバイスに採用実績があり、450~600Vの高耐圧向けの材料となる。応力緩和にも優れており、次世代パワーモジュール用途の主力製品として販促を強化する。

 半導体封止材料の用途別構成比をみると、高耐熱・長寿命の車載向けが全体の2~3割を占めており、続いて家電、PCやスマートフォン用途などとしている。

 生産体制は、12年に日東電工の半導体用封止材事業を買収したこともあり、国内2カ所(佐賀、下館事業所南結城)、海外3カ所(中国・蘇州、マレーシア・ペナン/セランゴール)の5拠点で展開中だ。開発拠点を兼ね備えたマザー工場が下館事業所南結城となる。特に高信頼性が要求されるパワーデバイス向けの製造は全拠点で展開中だ。

 半導体用封止材は基本的に地産地消をベースに展開している。旺盛な需要が継続しており、中国に新工場を建設して半導体封止材料の能力を引き上げる。中国・蘇州工場内に新棟を建設、23年内の稼働を目指す。

信越化学も車載向け注力

ECU向けなど一括封止材(写真は信越化学のMLQシリーズ)
ECU向けなど一括封止材
(写真は信越化学のMLQシリーズ)
 信越化学工業(株)(東京都千代田区)のパワーモジュール向け高耐熱・高耐圧の車載向け半導体用封止材事業が好調だ。コロナ禍の影響でいったんは受注が落ち込んだものの、21年夏場にはコロナ禍前の水準(出荷量ベース)を回復、それ以降、月次ベースで過去最高を更新している。特に車載向け製品を中心に、高耐熱性で高信頼性の半導体用封止材の受注が好調だ。21年度は年間通じて車載用封止材は前年度比3割の物量拡大となったもよう。

 中長期的にも、車載用途を中心に家電用パワーデバイスをはじめメモリー用途など、半導体市場の拡大が見込めるとして、需要は堅調に推移するとみている。その背景には、コロナ禍や米中の貿易摩擦によるサプライチェーンの混乱継続などを想定して、顧客サイドは当面、ある一定量の在庫確保を前提に動くとみているためだ。

 同社の半導体用封止材の主力製品は、トランスファーモールド製品のKMCシリーズを筆頭に、車載用途向けなど高性能製品の割合が高い。ほかにもコンプレッションモールドタイプの封止材で、メモリーをはじめ高性能ロジック向けなどの製品も扱う。

 また、最近強化しているのが2液ポッティング材料で加熱硬化型のSMC-8750。同製品は、IGBTモジュールなどの封止材料として、従来品と比較してより低応力性を強化したエポキシ樹脂ベースの封止材で、市場投入を始めている。車載向けIGBTモジュール用途に開発されたグレードは、耐振動や応力緩和により信頼性を大幅に向上させた。出荷量は徐々に拡大している。

 さらには、ラミネート方式などでECU向け大型基板などの一括封止材料として注目される製品も上市した。シート状のエポキシ樹脂ベースのMLQ-7700シリーズで展開する。実装基板上に、高背部品や低背部品などの不規則な実装形態にも容易に対応でき、必要な部位に必要なだけ封止することが可能だ。また金型作成も必要としないため、トータルコストの削減につながると期待されている。

 今後、SiCなどWBG半導体デバイスの普及を見据え、より高耐熱性・高耐圧性などに配慮した次世代パワーデバイス用封止材としてKMC-8000シリーズをラインアップ。業界から課題解決に資する材料として新たに注目を集めている。同製品は、次世代の車載グレードのジャンクション温度200℃クラスの温度保証を見据えた製品で、25年前後にかけてさらに需要が拡大するとみられる電動車向けパワーデバイスの市場拡大に備える。

 群馬事業所(安中市)は最先端の試作や研究開発の中心として位置づける。量産拠点である海外工場との連携により、短時間で多彩な新製品を立ち上げて多様化する顧客のニーズに応え、新たな事業機会の創出につなげていく。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広

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