電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第482回

マウンター業界、「つながる」工場実現に邁進


完全自動化・半自動化の両輪で

2022/12/9

 2020年夏場以降、新型コロナ禍におけるDX化が爆発的に加速したことに加え、脱炭素化社会の実現に必須となる車のEV化やADAS(先進運転支援システム)などの電装化の進展で、様々な電子機器の需要がグローバルレベルで拡大した。このため基板実装を請け負う主力装置である高性能チップマウンターの市場が一気に拡大している。

 一方、ローカル5GやAI(人工知能)技術の普及でSMT生産工程も大きく進化を遂げようとしている。極力、ヒューマンエラーや生産コストを減らすための省人化対策はもとより、装置連携(M2M)を強化しようと、マウンターメーカー各社による「つながる」装置開発が活発化している。従来は、人手が頼りとなっていた異形部品などのインサーターでも、徐々に自動化対応装置の市場投入が加速する。基板実装プロセスで、主力工程を押さえている実装機メーカーが主導権を発揮、新たな成長機会が到来している。

 新市場の台頭にも期待する。システム製品の高度化に伴い、モジュール製品やパワーデバイス向けなど、半導体や極小電子部品を直接実装できる高精度な装置のニーズも高まっている。

「つながる」装置の導入が加速

 ローカル5Gなど高速通信技術の普及や人手不足対策として、本格的なSMT工程における完全自動化に向けた取り組みが加速している。可能な工程から逐次、自動化を進める動きが広がりつつある。生産管理システムを導入して外部からでもリアルタイムで生産調整したり、部品在庫の確認が可能になる。極力、人手に頼らない生産工程を実現、特に車載向けのボード実装ではトレーサビリティーの導入により生産の歩留まりや品質向上につなげている。部品切れや装置のダウンタイムを極力なくした「止まらない工場」、いわゆるスマートファクトリー化への対応を着々と進めている。

パナソニックコネクトは高精度のモジュラーマウンター「NPM-GH」を開発へ
パナソニックコネクトは高精度の
モジュラーマウンター「NPM-GH」を開発へ
 パナソニックコネクトは、「つながる」ことを前提にした新製品を順次投入する。22年9月には印刷工程の自動化機能を備えたスクリーン印刷機を発売した。また、22年度内~23年度初頭には±10μmの超高精度を実現したモジュラーマウンターNPM-GHを投入する。実装部品を自動供給するオートセッティングフィーダー(ASF)を搭載し、業界最高性能と自動化機能を両立する。

 これらの装置を22年2月に投入した生産実行AI「APC-5M」と連携させる。人(huMan)や機械(Machine)、材料(Materials)などの生産現場での変動要素を構成する「5M」をリアルタイムで監視し、良品率、生産性の向上やトレーサビリティーを実現する。

FUJIはスマートローダーを搭載した最新実装機「NXTRシリーズ」を拡販
FUJIはスマートローダーを搭載した最新実装機「NXTRシリーズ」を拡販
 FUJIも独自のSMTラインの自動化を推進中だ。他社の装置であってもマシン連携を図ったり、フロア全体のSMTラインの最適化を目指す。すでにAMR(自律型搬送ロボット)や自動倉庫などとも連携、フィーダー交換なども自動化できるシステムを構築済みだ。メンテナンス作業の効率改善も支援し、不良要因の分析も行い、歩留まり改善につなげている。また、車載や産業機器向けなどでは異形や大型部品などの挿入型実装機である「sFABシリーズ」も伸長している。従来、手で挿入していた工程も自動化対応を進めており、引き合いが増加中だ。

 部品供給や段取り替えの完全自動化は少量多品種工程で効果を発揮する。その下地はできており、AI技術を使いこなし、最終段階となる第3段階では25年ごろまでに一部の顧客でこのシステムを搭載した工場が稼働し始めることに対応する。

 ASMPTもスマートファクトリー化には非常に注力してきた。製造実行システム(MES)では業界最大手のクリティカルマニュファクチュアリングを傘下に入れ、特に欧米・中国の顧客に多数の納入実績を誇っている。平均して3割ほどの省人化が図れるという。

 この流れは今後より一層加速し、アジアや日本でも広がっていくと考えており、実際に日本でも本格攻勢をかける。

 ヤマハ発動機は、最適なSMTの生産ライン構成やフロアづくりを提案する。いわゆる「止まらない」「不良を作らない」「オペレーターフリー」を実現する、スマートファクトリー化の構築を目指す。データの一元管理も行い、稼働状況を常に外部からでもモニタリングする。

 ロボティクス事業部にはマウンター装置をはじめ、はんだ印刷機や検査機などのSMT関連機器のほか、スカラロボットなどのFAロボットも展開する。さらにYRHが取り扱っている各種ボンダー/モールディング成型装置などの半導体組立装置とあわせて、一貫提供できる体制が整っており、最適化した生産ラインの実現に貢献する。

 JUKIもSMT生産ラインの最適化を目指している。マウンターや挿入機の生産プログラムの作成から、印刷機や検査機を含めたM2M連携を図り、不良の出ない生産の構築を実現し、さらに遠隔サポートや不良解析サポートにも対応させている。SMTラインの前工程における部品倉庫の管理においても、自動倉庫ISMシリーズで電子部品のスマート管理をしている。電子部品や材料の管理などをISMで担い、X線リールカウンターやAMRなどの装置とも連携して、さらなる自動化を推進している。

 各社、当面は生産ラインの全自動化と半自動化の2本立てで進める。進めていけるところからまずは実行する。無理して進めてもコスト増や生産の非効率化につながるからだ。そして将来的にはAI技術も積極的に活用してM2M連携をさらに進化させ、生産ラインの見える化を進めていく。

半導体と電子部品も一度に実装

 新市場にも期待する。システム製品の高度化に伴い、高生産性を誇るマウンター機能に、半導体部品を直接実装する高精度な装置のニーズも高まりそうだ。RFデバイスや化合物半導体など異種材料などの実装も求められており、SiP(システムインパッケージ)など様々な半導体パッケージやモジュールが登場してきている。各社は多様なニーズに応えるべく、装置のさらなる高速・高精度化を進めていく。

 FUJIはウエハーから直接ベアチップをピックアップしたり、リール部品などのSMDを±10μm単位で高速に実装するNXT-Hシリーズを市場投入済みだ。足元ではRF系やIGBTなどパワー半導体といった市場において電子部品と半導体チップを1台で高速に実装できる同マウンターの需要が存在している。

 ASMPTもシェア拡大を図る。特に最近は、Cuクリップをはじめとするパワーデバイス/パワーモジュール向けで多くの顧客に採用されており、高いシェアを誇る。半導体パッケージやSiPなどの極小部品・狭隣接への高速・高精度実装に優位性を持っており、これらアプリケーション向けに受注が増えると想定している。

 FUJIやヤマハ発動機らはかつて、半導体後工程装置を手がける企業を相次いで買収している。ようやくその成果が出始めているようだ。


電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広

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