商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第366回

イオンモール(株) 代表取締役社長 兼 海外本部長 岩村康次氏


平塚、自由が丘、横浜で新規開業
モールづくりは実証から実装へ

2023/1/31

イオンモール(株) 代表取締役社長 兼 海外本部長 岩村康次氏
 イオンモール(株)は2025年度に営業利益900億円を目指しており、主要施策としてアジア35モールを50モールとする。これに向け23年度から新たな中期経営計画に入る。足元はウィズコロナで、ライフスタイルが変化するなか、モール開発の先駆者であるイオンモールはどのようなSCをつくり、どう運営するのか。代表取締役社長兼海外本部長の岩村康次氏に聞いた。

―― 昨年を振りかえって。
 岩村 秋ごろからコロナの感染が落ち着きを見せたこともあり、売り上げはコロナ前の19年比92~93%まで戻った。我々は15%のお客様を失いながらも、地域のお客様の安全・安心を確保するため2年半、防疫などに努めた。一方で、“顧客創造”という取り組みを止めてしまったことが響いている。社内には「お客様はそのうちに戻って来る」と、淡い期待を寄せる空気もあるが、そんなことはなく、今一度お客様を創造していくことが必要だ。

―― アジアでの展開は。
 岩村 イオングループはベトナムを最重要投資国と位置づける。現在はベトナム国内で我々が出店の意思を示すと、行政から手厚いサポートがあり、我々は街が発展するために出店してきたが、出店地は当初に比べ、考えられないほど市街地化した。その理由はイオンモールが進出することで周りも動くからだ。

―― アジアのモールは日系テナントで固めますか。
 岩村 やはりアジアでも人気のユニクロと無印良品は核店舗となり得るし、キッズ・アミューズメントも人気が高い。
 しかし、ベトナムはアパレルの生産地であり、街には良いブティックが多く物件説明会では五百数十人が参加するなど、ローカル企業のイオンモールへの出店意欲が旺盛だ。他の国に比べて専門店が多く、自国の製品に対する意識も強い。
 我々は現地の企業と共にモールをつくっていきたいという想いで、9割以上をローカル店舗で固める。これこそが究極のSCづくりだと思う。ローカルの良いものを発掘し、現地企業はイオンモールに出店することで、デジタル化、支払いのシステムなど運営面でのサポートを得ることができる。また、環境面、廃棄物の問題なども一緒に考えていける。

―― 新しい国への進出は。
 岩村 今、新たに広げる考えはない。現在展開している国でも新しい取り組みを進めている。
 3号店を出店したカンボジアではイオンモールロジプラスを建設中だ。保税倉庫として同国での製造業を支援するとともに、海外の商品を配送できる仕組みに取り組む。そして飲食店や受け取りができる店舗を集めたNSC的な機能を持つトランスファーセンターを地方に設ける。保税倉庫、イオンモールの3店を全体的な大きな倉庫と見立て、全国に商品を届けるアプローチを試みている。
 インドネシアではデルタマスを建設中だ。インドネシアのモールは大半が固定賃料。収益面で見れば我々がイベントを開催する意義は小さいが、人が集まる楽しさ、リアルのよさを訴求できる。ESGの取り組みでは社員自ら講師を務めたり、ごみ処理の仕組みなどをともに創っている。
 インドネシアには大型SCが多数あり優勝劣敗も起きて、我々に運営を委託したいとの声も少なくない。当社の強みでもある運営力を売っていける会社にすることが新しいモールづくりにつながっていく。

―― 23年の国内計画は。
 岩村 「ジ アウトレット湘南平塚」「イオンモール豊川」「自由が丘2丁目計画」「横浜西口」だ。

―― 「ジ アウトレット」はアウトレットらしからぬアウトレットですね。
 岩村 まさしく我々が目指しているところ。アウトレットはブランドが並び、それがショッピングエクスピリエンスであり、気に入ったブランドに出会えることが価値だ。ただ、アウトレットではない商品もあることはお客様には便利で、需要に応えるのではないか。例えば、ラグジュアリーブランドを求めるのであれば所謂アウトレット施設で1年に1回の価値を楽しんでいただければいいと思う。我々はスポーツやゴルフ、雑貨や食など、普段使いができる施設づくりに取り組んでいきたい。
 また、「湘南平塚」は公園を目指している。当社が運営受託する公園があり、Jリーグの湘南ベルマーレと組むなど日常があるのがジ アウトレットの姿。

―― 生活様式の変化でSCに求められるものも変化しているのでは。
 岩村 これまで「イオンモール」をつくるための土地を取得していた。施設も自分たちがつくりたいものでなく、つくらねばならないものが先行していた。我々はデベロッパーだが、基本的にはフロービジネス、開発から運営まで携わる。その意味で我々は究極のサービス業だと思っており、BtoBではなく、WITH BtoCとの認識。そのためには、自分たちが求められる形に変化する必要がある。「自由が丘」は施設が主張しない、街に溶け込んで、イオンモールに来た感覚はなく、何気なくある街の商業ビルでいいし、「横浜西口」は新たにファッションをメーンとするような施設ではない。従前は、老朽化した建物をダイエーが運営していたのだが、我々はデベロッパーとしてオーナー企業のメリット、我々のグループのダイエーが出店できる仕組みを実現した施設となるだろう。

―― 最後に抱負を。
 岩村 23年度は新たな中期経営計画が始まるが、“コロナ”という言葉をいかに使わないかを心がける。社会情勢は常に変化し、人の行動や価値観も変わる中で明かりを見出す。やるべきことは何か。行動して、それを完成させる。例えばESGでは自己託送方式による低圧・分散型太陽光発電や「V2AEON MALL」の実証実験を実施してきた。今年はこのような取り組みを実装に移して提供価値に変えていく時だ。

(聞き手・特別編集委員 松本顕介/副編集長 若山智令)
商業施設新聞2480号(2023年1月24日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.393

サイト内検索