商業施設新聞
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第372回

東神開発(株) 代表取締役社長 倉本真祐氏


今秋、京都高島屋S.C.開業
コロナ回復を見据えた運営が不可欠

2023/3/14

東神開発(株) 代表取締役社長 倉本真祐氏
 高島屋グループで商業開発業を担う東神開発(株)は2023年秋、高島屋京都店の隣接地で増床工事中の「京都高島屋S.C.」の開業を控える。新型コロナからの経済回復期に入った今、どういった商業施設運営をするのか。代表取締役社長の倉本真祐氏に聞いた。

―― 千葉県の「流山おおたかの森S・C(以下流山)」での開発が目立ちます。
 倉本 流山は07年に開業した本館を皮切りに駅周辺を面開発してきた。昨年6月、ANNEX2が開業、大小合わせて10館体制となった。合わせて、街のブランディングを進めることで、多様な人たちがさらに流入し、商業施設が潤うという好循環が生まれた。

―― この後は。
 倉本 施設間の相乗効果を一層高めることに重点を置く。その次は第2ステージとして外周の開発ビジョンがあるが、具体的な検討はこれからである。街にどのような機能が必要かを見極めながら、エリアをどこまで広げるかを検討することになるだろう。

―― 首都圏以外でこうした開発は。
 倉本 なかなか良い立地が見つからないが、機会があればぜひ取り組みたい。様々な自治体からやって欲しいとのお声がけもいただいている。

―― 今年は京都を開業しますね。
 倉本 高島屋京都店は高島屋創業の地であり、伝統的ないわゆる「ザ・百貨店」として、地域の方々から愛されている。しかし今のままではお客様の高齢化が進むため、次の世代も取り込まなければ持続性がない。今回の増床により今まで百貨店を利用されなかった新しいお客様を呼び込むテナントやコンテンツを導入する。それにより新しいお客様が来館し、買い回ることで百貨店の魅力を再発見するきっかけになることを期待する。
 若い人は「百貨店は敷居が高い」という印象が強いという意見がかねて多かったが、昨年高島屋がZ世代に意識調査を実施したところ、より若い世代、いわゆるSNSネイティブ層は百貨店に対する抵抗感が少なかったり、百貨店の新しい使い方を自分たちで楽しんだりする傾向があるという結果が出た。そういう人たちに向けた受け皿をつくる必要がある。

―― テナントの顔ぶれは。
 倉本 4月ごろの発表予定だが、すでに蔦屋書店が決まっている。蔦屋書店を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブと高島屋、当社の3社でTTCライフスタイル(株)を設立し、京都には同社が出店し運営も行う。その後は国内外にある高島屋グループの商業施設への出店も視野に入れた検討や、新しい業態、コンテンツの企画も行っていく。今回の蔦屋書店はアートに力を入れた編集となるが、そのほかにも「アート&カルチャー」を切り口にしたテナントが複数出店する。今までの高島屋グループの商業施設にはなかったテナント構成により百貨店との対比を意識しつつ、サービス面などでは高いレベルで調和した専門店を形成していく。
 なおレストランゾーン「京回廊」は高島屋が運営していたが、専門店ゾーン開設を機に当社が運営することになる。

―― 立川高島屋S.C.の位置づけは。
 倉本 立川駅周辺は商業施設過密地帯。しかも百貨店が近接して2つあるが、高島屋は駅から遠い立地にあり業績にも影響していた。あの場所に百貨店が2つあることが街にとって良いことなのか、違うものの方が地域の利便性は高まるのではないかなど検討を行っていた。また、建物は高島屋と当社でほぼ半分ずつ所有しており、資産価値に見合った収益獲得のためには全館を専門店化することが必要との結論に達した。

―― MDは。
 倉本 高島屋立川店は1月31日で百貨店の営業を終了したが、すでに70%が専門店区画であり、残り30%の百貨店区画にどのようなテナントを配置するかは検討中である。また、JR立川駅側のみでなく、北、西側にも「顔」を創るよう検討を進めている。

―― 中計の進捗は。
 倉本 コロナ禍から3カ年で回復するシナリオをつくり、23年度は最終年度。コロナ禍前の水準に回復させるのが大きなテーマだ。

―― 求められるSC運営は。
 倉本 コロナ禍で多数のテナントが退店したが、行動制限解除以降も一定程度の退店は発生している。契約満了まで我慢したがこれ以上続けられないというのが主な理由だ。テナントの出店戦略も変わり、店舗数の拡大をそれほど望まないテナントが増えてきた。今後はコロナ禍から回復しても厳しい経営環境が続くことを前提にSC経営を考える必要がある。
 一方で、昨今ECサイトがリアル店舗を持つ動きが目立っている。この店舗では、売ることを主目的にしておらず、お客様とのリアルな接点を持つことによる「ブランディング」や「双方向のコミュニケーション」「行動データの収集」などを目的としている。今後のリアル店舗はこうしたマーケティング拠点としての機能がより色濃くなるであろう。テナントが自分たちの世界観の表出や、情報収集などをリアル店舗に求めるのであれば、我々デベロッパーは、それらのニーズに対して何を行うべきかを真剣に考え、出店するにふさわしいSCに自らを変革していくことが極めて重要になる。

(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2485号(2023年2月28日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.398

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