商業施設新聞
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第373回

(株)東急ホテルズ 取締役執行役員 運営統括本部 副本部長 武井隆氏


23年は新宿、札幌に出店
運営方式、新体制で反転攻勢

2023/3/20

(株)東急ホテルズ 取締役執行役員 運営統括本部 副本部長 武井隆氏
 2022年10月、新型コロナウイルス感染症の水際措置見直しで、インバウンド客が戻ってきた。ホテル業界はこの3年、コロナ禍で苦しんできたが、東急ホテルズ(株)はその間、新商品や体制づくりを進めており、この追い風に乗って反転攻勢をかける。同社取締役執行役員で運営統括本部副本部長の武井隆氏に聞いた。

―― コロナ下での振り返りから。
 武井 20年は客室稼働率が落ち込み、利用目的をつくり宿泊につなげることや、19年までの高稼働・高収益だった際の労務体系や人員体制を見直し、低収益下でも経営を支えられる体制づくりを進めた。この間、グループ企業内に当社のスタッフを派遣することで人件費を圧縮するなど、東急のグループ基盤に支えられた一年でもあった。
 ビジネス需要は停滞したが、「宮古島東急ホテル&リゾーツ」は21年10月、11月に開業以来過去最高益を記録し、20年開業の「富士山三島東急ホテル」もマイクロツーリズムの恩恵を受けるなど、厳しい中でも個人のレジャー需要は活況であったことを受け、ワーケーションなど需要を喚起する商品を投入し、裾野を広げてお客様の獲得に特化した。

―― この取り組みが今後に生きてきます。
 武井 そのとおりで、東急(株)が運営する定額制宿泊サービス「ツギツギ」は、一泊あたりの単価は安いが、連泊のメリットや、時間と金銭に余裕のある層への新商品投入の機会にもなり、今日のV字回復の前に、新しいお客様を獲得できたのは大きかった。

―― 現在の市況は。
 武井 水際対策緩和と、全国旅行支援の2つの追い風が同時に吹いたので、22年10~12月は19年水準、あるいはそれを上回るホテルもあった。特にラグジュアリーカテゴリーの「ザ・キャピトルホテル東急」「セルリアンタワー東急ホテル」は、円安効果で、大幅な単価アップができた。
 また、「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」は、インバウンド獲得の戦略拠点として日本の窓口である羽田空港に顔をつくることを意識したライフスタイル型ホテルで、多摩川スカイブリッジが開通したこともあり、稼働も単価も上がり、同ホテルの真価を発揮している。「羽田エクセルホテル東急」もあり、両者は羽田空港の両極に位置する格好となっている。

―― 人材確保は。
 武井 極めて深刻で、多くの若い人材が他業界に流れた。従ってDX導入や新しい働き方に積極的に取り組む。注力するのは「ハイブリッド」、いわゆるマルチジョブ型の推進だ。セルリアンのような大きい客室部門は部門内でマルチに、小型店舗は宿泊や料飲をマルチにこなす。店舗特性や規模に応じて進めることで、より筋肉質な体制をつくり上げていく。

―― ほかに変革は。
 武井 事業スキームを変更する。これまで賃料を保証する賃借を中心としたスキームでチェーン展開を果たしてきたが、これを我々が成果を出すことで、オーナーも固定賃料よりも収益が上がり、下がった時は互いにリスクをシェアする運営受託を中心としたビジネスモデルにしていく。
 またフランチャイズ、マネジメント人材の提供など、柔軟なサポートスキームを提案してチェーンの形を幅広に整えていく。さらに昨年開業した「吉祥寺エクセル東急」は第一ホテル退店跡に出店した。吉祥寺は2店となったが、エリアの供給規模は変わらないこともあり、吉祥寺駅前にあったREIホテルも非常に安定した稼働率を維持している。エリアのドミナント運営を可能とするメリットも訴求できる。
 このほか運営改善依頼や、集客強化のため当社のネットワークに加盟できないかといった相談が増えている。

―― 4月に開業する「東急歌舞伎町タワー」に「HOTEL GROOVE SHINJUKU」「BELLUSTAR Tokyo」を出店します。
 武井 インバウンド復活機運の中で、この2店のオープンは非常に良いタイミングだ。問い合わせや予約も好調な滑り出しのようである。歌舞伎町タワーは東急100周年事業であり、あの場所でしかできないことに挑戦したい。このほか今秋、札幌・すすきの駅前の複合施設に出店する。

―― 抱負を。
 武井 コロナを通して身につけたハイブリッド運営と利用する目的を創出する企画力を強みに展開する時だ。ラグジュアリーからビジネスカテゴリー、複数ブランドを運営しているのも強みだが、ブランドの考え方を見直す時期に来ている。従来のブランドルールや形式にとらわれず、ブランドや運営の裾野を縦横に広げてステークホルダーの要望に柔軟に応えられる体制を整え、我々の仲間やパートナーを増やし、成長させていく。

―― 今期の業績見通しは。
 武井 22年度の命題として下期営業黒字化に取り組んできた。第1四半期は稼働率が低く、取り返せなかったが、下期は目標を上回りそうだ。特に目的性を高めてお客様を集められたことと、単価を上げられたことが効いた。働き方も変革でき、損益分岐点を下げることができた。新たな運営手法などをベースに、武器にして来年度以降戦っていく。

(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2486号(2023年3月7日)(7面)
 再浮上!!ホテル業界 No.2

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