商業施設新聞
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No.906

復活 人ごみ


松本顕介

2023/5/23

ハチ公の写真順番待ちで並ぶ人々
ハチ公の写真順番待ちで並ぶ人々
 4月中旬、取材で降り立った渋谷駅。大型再開発で動線が変わったことと、今なお進む再開発工事で所望の出口に思うように辿り着けず、多少イライラを抱えながらハチ公前を通りかかるとその光景に驚いた。ハチ公像に行列ができており、訪日外国人とおぼしき人たちがハチ公と自分をカメラに収めるために並んでいたのだった。目の前のスクランブル交差点では、青信号点灯を待ってましたとばかりに、人の流れる光景をカメラで撮ろうとする訪日外国人の姿が――そんな光景が目に付くようになった。そうなのだ、訪日外国人が戻ってきたのだ。

 2022年10月11日に入国者の水際対策が緩和されてから、街の外国人の数が目に見えて急増した。日本政府観光局(JNTO)の23年4月19日発表の最新統計によると、訪日外客数(23年3月推計値)3月は181万7500人に上り、19年の同月比でも65.8%にまで回復した。個人旅行再開以降では最高を更新しており、3月の訪日外客数は、桜シーズンの訪日需要の高まりやクルーズ船の運航再開などが影響したという。中国本土からの訪日客はもう少し先となりそうだが、米国をはじめとした欧米豪中東地域からが多く、訪日外客数の大幅な増加が全体を押し上げ、当月は22年10月の個人旅行再開以降で最高を記録したのだという。20、21年ごろの人がいなかった渋谷駅周辺を目の当たりにし、この先ずっとこういう光景が続くのではと背筋が凍る思いすらしたのが、遠い幻だったような感覚さえ覚える。

 コロナが始まるずっと前、ちょうどインバウンド客が増えてきた12~13年ごろ、朝の通勤ラッシュ時での東京駅の南改札のコンコースもサラリーマンの澱みない流れが見られた。それはまるで、前述の訪日外国人が感嘆する渋谷スクランブル交差点で行き交う人々がぶつからないあの光景に匹敵する。それを乱している一団への文句をこのコラムでつらつら述べたことがある。一団とは当時にわかに増えてきたスーツケースをガラガラと引きながら乗り場を確認している訪日外国人のことである。その後はどんどん増えて外国人旅行者をうまくかわしながら、乗り場を目指したものだ。こちらもコロナ禍では、コンコースは「深夜?」と見間違うほど人がいない状況が続いた。それが戻ってきた。急ぐこちらの行く手を阻む感覚が懐かしい。心の中でつい「お帰り」といってしまうのは筆者だけではないかもしれない。

 ちなみのこの流れを阻むのは訪日外国人旅行者だけではない。東京駅1階南通路の山手線内回り・外回り(京浜東北線上下線も)間にあるニューヨークパーフェクトチーズ購入の列もそうだ。ここもコロナ禍は店が閉まっていたが、再開され今では朝から長蛇の列である。何重にも列ができて、動線を妨げているが、その光景に目を細めながら前を通り過ぎるのだった。
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