電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第43回

進撃のソーラーフロンティア


3GWの生産体制視野、世界市場に挑む

2014/5/2

 太陽光発電市場が急速に拡大している。例えば、2010年の導入量は09年比で2.3倍、11年は10年比で1.7倍になるなど、10~11年の2年間は急激な伸び(IEA調べ)を示した。12~13年は前年比1割増に留まるなど、成長スピードは鈍化したが、それでも12年の導入量は31.9GWとなり、この時点で世界累積導入量が100GWに達した。そして、13年は36GW(NPD Solarbuzz調べ)の導入を果たす(EPIAは37GWと算出)など、安定した成長を続けている。


 13年の大きなトピックスは、これまでのドイツ依存、欧州依存からの脱却が加速したことだ。ドイツは12年に7GW超を導入したが、13年は3.3GWと導入量が半減した。一方、13年に導入量が増えたのが日米中の3市場である。13年は中国、日本、米国にドイツを加えた4カ国で市場全体の3分の2を占めた(IHS調べ)という。そして、ドイツに代わって最大市場に躍り出たのが中国で、13年の導入量は12GW(Bloomberg調べ)に達したもようだ。ところで、太陽光発電の導入量は14年も大幅な増加が見込まれている。NPD Solarbuzzが4月に発表した統計では、14年1~3月の導入量は9GW超となり、年間導入量は49GWに達すると試算している。

生産は中国勢が席巻

 急増する需要に合わせて、太陽電池の生産&出荷量も順調に拡大している。13年の太陽電池生産量は39.7GW(NPD Solarbuzz調べ)で、このうちトップ10だけで18GWを出荷するなど、トップ10のシェアが拡大傾向にある。ちなみに、13年は中国のYingli Green Energyが3.2GWを出荷し、12年に続き2年連続でトップを守った。かつては、シャープをはじめとする日本メーカーが上位を独占していた太陽電池の生産だが、近年ではYingliを筆頭にTrina Solar、JA Solar、Canadian Solar(本社はカナダ)、ReneSola、Jinko Solarといった中国勢がトップ10の常連組となり、日本勢ではシャープ、京セラがかろうじて追随するかたちとなっている。

 ちなみに、13年の出荷量は、Yingliが3234MW、Trina Solarが2580MW、JA Solarが1173MW、Canadian Solarが1894MW、ReneSolaが1728MW、Jinko Solarが1765MWだったが、14年は、Yingliが4.0~4.2GWの出荷を見込むほか、JA Solarが2.7~2.9GW、Canadian Solarが2.5~2.7GW、ReneSolaが2.3~2.5GW、Jinko Solarも2.3~2.5GWといったように、各社とも積極的な出荷計画を打ち出している。

 出荷量では上位を独占する中国勢だが、事業収益に関しては、どこも台所事情は苦しい。ただ、13年度(13年12月期)は売上高の増加、粗利益の改善などで、収益回復の兆しが見えている。13年度は、主要太陽電池メーカーの多くが売上高を伸ばしたが、なかでもReneSolaとJinko Solarは前年同期比で5割前後の大幅な増収となり、Trina Solar、Canadian Solar、Yingliも2~3割の増収を達成した。営業利益については、Canadian SolarとJinko Solarは黒字化を果たしたが、Yingli、Trina Solar、JA Solarは営業赤字が残った。ただ、前年に対しては赤字額を大きく圧縮している。


 相対的に市場シェアが低下する日本メーカーだが、13年度は太陽電池事業の収益性が大きく改善している。シャープの13年度第3四半期累計(13年4~12月)の太陽電池事業売上高は2768億円で、前年同期比で85.5%の増加となった。営業利益も157億円に達した。販売量は1363MWで、前年同期に対して7割弱の伸びとなった。13年度通期(14年3月期)では売上高4300億円、営業利益240億円、販売量2100MWを計画している。
 京セラも13年度第3四半期の太陽電池事業は大きく伸びた。太陽電池事業を含むファインセラミック応用品関連の累計売上高は過去最高の1958億円(前年同期比4割増)、事業利益は228億円(同130%増)だった。13年度通期では、1200MWの販売量、2710億円の売上高を計画している。パナソニック、三菱電機は太陽電池事業の詳細を公表していないが、パナソニックは太陽電池モジュールの出荷量は前年同期比で50%増加しており、三菱電機は太陽電池事業の売上高が前年同期比で1.6倍に拡大し、販売量も前年同期比で約6割増えたという。

 旺盛な国内需要に支えられ、国内太陽電池メーカーの生産拠点はフル稼働が続いているが、生産増強については各社とも消極的だ。シャープはすでにモジュールの外部調達率が5割に達しており、パナソニックや三菱電機も自社生産を上回る需要については、外部調達したセル&モジュールを活用している。一方、大手のなかでは唯一、京セラが自社生産にこだわっている。「国内の雇用確保のためにも、太陽電池の国内生産、自社生産は続ける」(同社幹部)としているが、それでも、さらなる生産拡大には慎重な姿勢を崩していない。確かに、固定価格買取制度を背景に旺盛な需要が続く国内市場だが、利益率が低下したモジュールの生産&販売競争に巻き込まれるよりも、システムを含めたソリューション事業で差別化を図りたい、というのが各社の共通した戦略だ。

 JPEA(太陽光発電協会)がまとめた2013年における太陽電池セル・モジュール出荷統計でも、国内生産の縮小が見て取れる。統計によると、13年のモジュール総出荷量は7676MWで、内訳は大半が国内出荷(7505MW)だった。そして、国内出荷のうち国内生産・国内出荷は3436MW、海外生産・国内出荷が4069MWとなっており、すでに海外生産比率(日本メーカーの海外生産分含む)が半分を超えている。

成長路線歩むソーラーフロンティア

 こうしたなか、国内勢で唯一、積極的な生産拡大を打ち出しているのがCIGS太陽電池を生産するソーラーフロンティアである。ソーラーフロンティアの親会社である昭和シェル石油は、1978年から太陽電池の開発に着手し、93年のNEDOプロジェクトへの参画を機に、CIGS太陽電池の開発を本格化させた。07年1月に宮崎県内に第1プラント(20MW)を建設し、CIGS太陽電池の量産を開始した。その後、09年春に第2プラント(60MW)、11年2月には第3プラント(国富工場、900MW)がそれぞれ稼働を開始するなど、年産1GW規模の生産体制を確立している。12年末には、第1および第2プラントを閉鎖したが、旺盛な国内需要に対応するため、13年7月に第2プラント(現生産能力80MW)が再稼働し、現在、第2、第3プラントはいずれもフル稼働が続いている。


 ところで、ソーラーフロンティアが立地する九州エリアは00年代以降、薄膜系太陽電池メーカーが相次ぎ進出したことから、俗に“薄膜アイランド”と呼ばれた。02年には三菱重工業が長崎で薄膜シリコン(Si)太陽電池の量産を開始したのを皮切りに、07年にはソーラーフロンティア(宮崎)のほか、富士電機(フレキシブル薄膜Si)とホンダソルテック(CIGS)が熊本にそれぞれ量産工場を建設するなど、薄膜太陽電池の一大集積拠点となった。ところが、11年に三菱重工業が台湾企業に技術を移管し、同事業から撤退。また、ホンダソルテックも13年10月に事業終了を発表し、14年春に会社を清算した。そして、富士電機も生産設備、技術、ブランドをニュージーランド企業に譲渡し、14年3月末で同事業から撤退した。今では唯一、ソーラーフロンティアのみが事業を継続し、成長路線を歩んでいる。


 CIGS太陽電池は、銅、インジウム、ガリウム、硫黄を主原料とする化合物薄膜太陽電池である。直接遷移型半導体のCIGSは、現在主流の結晶Si太陽電池と比較して光吸収係数が1桁以上大きいため、2μm程度の膜厚で太陽光を吸収することができる。成膜方法は多元蒸着法とセレン化法に大別できる。基板からモジュールまで一貫ラインで生産するため、バリューチェーンの簡素化、品質の一元コントロールが可能、といった特徴がある。

 CIGSの開発の歴史は、1974年の米ベル研究所による蒸着法から始まった。80年にはBoeingが蒸着法、84年にはArco Solarがセレン化法を発表。Boeingの技術はその後、米NRELを経て、欧州での産業化のベースとなる。一方、Arco Solarの技術は昭和シェル石油に引き継がれ、現在は子会社のソーラーフロンティアがCIGS太陽電池の商業化に取り組んでいる。(参照:ソーラーフロンティア資料)

 CIGS発祥の地である米国では、90年代後半以降、カリフォルニアを中心に多くのCIGS太陽電池メーカーが立ち上がった。90年代後半に設立されたGlobal・Solar・Energyを皮切りに、00年代に入ると、HelioVolt、Nano Solar、MiaSole、Solyndra、Ascent Solar、Stion、SoloPower、AQTといったベンチャーが相次ぎ産声を上げた。こうしたベンチャーに対し、政府資金や民間のファンドが事業化を後押ししたが、本格量産に移行したメーカーはなく、結果的には、ほとんどが経営破綻もしくは事業売却に追い込まれている。また、欧州でも、ドイツで相次ぎCIGSベンチャーが立ち上がったが、その多くが経営破綻もしくは事業撤退している。

 欧米勢が後退するなか、近年、勢いづいているのが中国と韓国で、欧米の技術を積極的に獲得し、CIGS太陽電池事業への参画を伺っている。なかでも中国のHanergyグループ(北京市)は、Solibro(旧Q-Cellsの子会社)、MiaSole、Global Solar Energyの3社を相次ぎ買収し、将来的には3GWの生産体制構築を目論んでいる。ソーラーフロンティアは現在、CIGSメーカーとして唯一、年産1GWの生産規模を誇るが、これを支えているのがプロセスから装置、デバイス、パッケージに至る統合技術である。

 太陽電池ビジネスに参入して以来、ソーラーフロンティアは長年、収益確保に苦しんできたが、13年度は収益構造が大きく改善した。12年度第4四半期(12年10~12月期)には、事業開始以来、四半期ベースで初めて黒字転換を果たした。そして、13年度は全四半期で黒字を確保した。昭和シェル石油が発表した13年度のエネルギーソリューション事業売上高(CIGS太陽電池事業含む)は前年同期比2倍の1412億円で、営業利益についても、収益性の高い国内市場にシフトしたことで、175億円の黒字となった。ちなみに、12年度は154億円の赤字だった。モジュール販売量は12年度比約2倍の900MW強となり、全体の9割が国内市場向けだった。


米国での生産検討

 CIGS太陽電池は、ラボレベルではすでに変換効率20%超を実現するなど、世界規模で効率競争が加速している。CIGSの世界最高効率はZSW(ドイツ)の20.8%(5mm角)だったが、14年4月、ソーラーフロンティアが20.9%(5mm角)を達成し、世界記録を更新した。ソーラーフロンティアでは、スパッタ成膜した金属プリカーサ(Cu-Ga&In)をセレン化/硫化することでCIGS薄膜を形成しているが、セレン化/硫化法による光吸収層の改良と透明導電膜の高性能化を実現したことで、変換効率が改善したという。また、同社は30cm角のサブモジュールでも18.2%の効率を実現している。現在の量産モジュールの出力は170W(モジュール効率13.8%)だが、すでに180W(同14.6%)の技術も確立している。将来的には、200W(同16.3%)の高出力モジュールの量産を目指している。


 ソーラーフロンティアでは、好調だった13年度に続き、14年度はさらに販売量、売上高の増加を見込んでいる。そして、14年度は売上高の増加に加えて、製造コストが13年度比で1割程度下がるため、営業利益も190億円を確保できる見通しだ。また、国内市場は14年以降も年間3~4GWの安定した需要が期待できることから、さらなる生産増強を図るため、4番目の生産拠点となる東北工場を建設することを決めた。東北工場は宮城県黒川郡大衡村の第二仙台北部中核工業団地の一角で14年3月から建設が始まっている。敷地面積は7万m²、工場の延べ床面積は1万5000m²となる。生産能力は年間150MW、従業員は100人、設備投資額は130億円を見込んでいる。


 東北工場は15年春から稼働を始める予定だが、製造装置の小型化や生産速度の向上などで、既存工場に対して、高い投資効率を実現しているという。そして、この新工場を将来の海外展開を見据えたモデル工場に位置づけ、国内外で増産投資を進めていく方針だ。現在の生産能力は1GWだが、トップ10の上位を狙うには、最低でも3GW程度の生産能力が必要としている。海外の生産拠点については、需要地に近い、地域の支援がある、高い稼働率を維持するための質の高い技術者、といった要件を満たす候補地の選定を進めている。最近では、米国ニューヨーク州立大学ナノスケール理工学カレッジ(CNSE)との協業を発表しており、ニューヨークでのCIGS太陽電池の共同開発&量産の検討を開始している。一方で、「国内生産でも、世界市場で競争力を維持することは可能」と付け加える。いずれにしても、継続した製造コストの低減が成長のカギを握ることになりそうだ。

半導体産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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