電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第83回

シャープはIGZOとMEMSの組み合わせで画期的ディスプレー実現


~約100億円を投じ米子工場で量産ライン構築、タブレット、スマホに搭載~

2014/5/9

FPD業界世界最大級の展示会「ファインテック」は今年も規模20%増の盛況
FPD業界世界最大級の展示会「ファインテック」は今年も規模20%増の盛況
 わが国の液晶ディスプレーがこんなにも弱くなったというのに、この関連でとんでもなく活況を呈する展示会が毎年東京で開催されている。それがファインテックジャパン(主催:リードエグジビションジャパン)であり、迎えて24回目となる。会場は東京ビッグサイトで、2014年の会期は4月16日(水)~18日(金)。会場はまさにごった返すほどの盛況であり、関連の4つの展示会も合わせれば実に1150社が出展しており、規模は前回に比べても20%は拡大しているのだ。

 「これは一体、日本の展示会場なのか。あちこちで聞こえる言葉は中国語、台湾語、韓国語、英語などの外国語が多く、日本以外のアジアのどこかの都市のイベントではないかと勘違いしてしまうほどだ。それにしても電子ディスプレー業界で世界最大級の展示会がいまだに東京で開催されることに驚きを感じる」

 これは筆者が親しくしている液晶関連の材料メーカー幹部が、かっと目を見開きながら叫ぶようにいった言葉である。筆者もあまり時間はなかったものの会場を一回りしてみた。気がついたことはやはり部品、材料部門における日本勢の強さである。高機能フィルム展には220社、高機能プラスチック展にも150社が出展しており、今回初開催となった高機能金属展でも150社が出展するという盛況であった。何かと話題の多い4Kディスプレーについては、東芝、キヤノン、ソニーのパネルを見ることができた。やはりこの分野で日本が巻き返しを図ろうとしていることが良く分かった。

 「当社の経営状況の厳しさが続くことについてご心配をかけております。しかし、電子ディスプレー技術開発については常に新たな創出を心がけ、今後も頑張ってまいります」
 4月16日に行われた基調講演において、トリを飾る講演を行ったシャープ副社長の水嶋繁光氏のコメントである。水嶋氏の言葉にもあるように、シャープは2012年3月期および2013年3月期に多額の営業損失を出し、一時期は経営クライシスまで囁かれた。しかして2014年3月期は3期ぶりに黒字化し、営業利益も約1000億円となったようだ。また、2015年3月期についても2年連続で1000億円以上の収益を上げる見通しであり、ようやくにして最悪期を脱してきたのだ。

 さて、水嶋氏の講演のなかでとりわけ注目を集めたのは、IGZO技術を応用したMEMSディスプレーであった。IGZOは電子移動度が高く、電荷が漏れず、生産性が高いという特徴を持ち、高精細・低消費電力を実現するパネルとしては世界で一番優れていることは間違いない。この技術を応用し、MEMSディスプレーを試作したが、まさにオールマイティーとも言うべき特性を示した。偏光板もカラーフィルターもいらない、というデバイス構造であり、画期的な低コストが図れる。また、光の利用率は5倍であり、バックライトを効率よく使えるため超省エネルギーが実現できる。電子ディスプレーにとって重要なファクターであるコントラスト、色再現性、消費電力、使用温度範囲のいずれにおいてもこれまでの液晶や有機ELを大きく凌いでいる。

 「試作したMEMSディスプレーは画面サイズが7型、画素数1280×800というものであるが、MEMSシャッターで光のオン/オフ制御を行うフィールドシーケンシャル技術を実用化した。この量産が本格化すれば、大きなインパクトになる。ただし、解像度についてはまだまだつらいところがあり、さらなる技術のブレークスルーが必要だ」(水嶋副社長)

 シャープは約100億円を投じ鳥取県米子工場にこの新型MEMSディスプレーの量産ラインを設置することを決めている。今秋をめどに生産開始の見込みであるが、自社製品のみではなく他社のタブレットやスマートフォンにも搭載していく考えだ。ちなみに、同社は米クアルコム社と開発したタブレット端末向けパネルにこのMEMSディスプレー技術を使うわけだが、日光の下でも見やすいという点が従来製品に比べ大きく差別化する要素になるのだ。

 まさに超満員に膨れ上がった基調講演の会場においては、シャープの開発を食い入るように見ていた人たちの眼が印象的であった。「従来の技術の延長線では勝負できない。あくまでもフロントランナー技術で戦う」と明言する水嶋副社長のラストの言葉に大きくうなずいている人もいた。商業化された液晶を産み出し、育て、常に最先端技術の先頭を走ってきたシャープが、不死鳥のごとく蘇る日を願う人も少なからずいるのだ、と確信した。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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