電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第96回

「医工連携で関連機器生産額前進し、開発案件も110件浮上!!」


~広島県商工労働局長の寄谷純治氏が語るプロジェクト~

2014/8/15

 広島県は中国エリアの中心を担う存在であり、なおかつ四国エリアの各県にもそれなりの影響を与えている。関西エリアと九州エリア、さらには四国エリアの三方をつなぐほぼ真ん中に位置しているだけに、重要な都市機能、さらには企業集積が進んでいるのだ。

 その広島県が最近になって注力しているのが、医工連携による壮大なビジネス創出プランである。湯崎英彦知事がぶち上げた医療における産学官連携プロジェクトは、県下で活躍する各企業の意欲を大いに刺激したのだ。医工連携に関する研究会を立ち上げたのは、2011年11月であるが、この時は45社の参加でスタートした。ところが現状では287の会員数に一気増大し、このうち企業は246社に上っている。

 広島県庁にあって商工労働局長の要職にある寄谷純治氏は、医工連携プロジェクトの盛り上がりについて次のように語るのだ。
 「広島県下における医療機器関連の生産額は、2010年段階で90億円にとどまっていた。しかし、その後2012年には117億円、2013年には125億円(見込み)となり、徐々にではあるが、成果は目に見えて出てきている。県下の企業がこのプロジェクトに本気で取り組む姿勢が見えてきた」

広島県 商工労働局長 寄谷純治氏
広島県 商工労働局長 寄谷純治氏
 さて、寄谷氏は広島県庄原市出身で、三次高校を出て同志社大学法学部を卒業後、県庁入りする。交通対策、地域振興、財政、政策企画などを経て、2013年4月にこの重要ポストに就いたのだ。
 「商工のスタッフに対しては、常に具体的な目標感を持って戦略を立てろ、と言っている。おうおうにして我々公務員は、制度を作ったことで満足して終わってしまうことが多い。制度は使ってもらうためにある。それゆえに、自分たちの作った制度を活用してもらうための方法論と、県民に対するコミュニケーション力が問われている」(寄谷局長)

 広島県が進めている医工連携プロジェクトは、自動車などのものづくり産業とメディカル産業がクロスオーバーするところに特徴がある。この県にはマツダが拠点工場を構えており、最近ではスカイアクティブなどでさらに同社の人気は出ている。自動車部品メーカーが自動車部品で培った技術を医療におけるステントの技術につなげていく、という面白さがある。また、自動車のゴムやシートなどの技術が皮膚に優しい介護用ベッドに結びついたりする。広島市内には広島大学病院、県立広島病院、広島赤十字・原爆病院、広島市立広島市民病院の4つの大きな病院があるが、様々な技術が出てくるたびに、この4病院連携で治験・臨床試験を行うとしている。このことで県下の企業が作り上げていく医療ビジネスのマーケットインにスピードがついていくのだ。

 広島には大手の医療機器メーカーであるJMSがあり、また三菱重工業広島は高精度の放射線がん治療装置に注力しており、いずれも増強を図っている。特にJMSは新たな工場の建設プランも打ち出した。
 「こうした県内企業の医療ビジネスに関する活性化を図る一方で、やはり医療関連の企業誘致にも全力を挙げていきたい。特に日本の総合電機メーカーや様々な製造装置メーカーが医療分野を拡大しようとしており、このウエーブを広島にも持ってきたい」(寄谷局長)

 一方、広島県はイノベーション立県を目指す方向を打ち出している。ベンチャー創出と人材育成をコアに、創業支援サポートセンターを設け、本格スタートさせている。創業支援のための専門チームを12人のスタッフで作り上げ、明日を担う人材とベンチャーが出てくる環境作りを推進していく。ワークショップを開く一方で、ベンチャーキャピタルを呼んでの講演、さらには各企業のやる気のある人材が国内外の研修にいった場合、最大でその費用の3分の2を補助するという制度も立ち上げている。

 「ベンチャー立ち上げ、人材育成、さらには企業誘致などを積極的に推進をしていくうえで重要なことは、それぞれの政策の意図がどこにあるのかをはっきりさせることだ。モニタリングも必要であるし、結果として何が生まれたという総括も必要だ。形ばかりを作る、という姿勢ではいけない」(寄谷局長)

 さて、広島県が進めるユニークな医工連携プロジェクトにおいては、何と110件の開発プロジェクトが上がってきているという。これらが本格的なメディカルマーケットに出ていけば、実に面白いことが起きるだろう。アベノミクス成長戦略にいう医療産業を県のテーマにした広島県のトライアルに対し、注目している人は意外と数多いのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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