電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第102回

ようやくにして国内の大型設備投資に火がついてきた


~航空機産業は新工場ラッシュ、ファナック、東芝なども大型計画浮上~

2014/9/26

 アベノミクスによる経済効果は、確実に出てきている。為替レートは今やサプライズの1ドル109円前後という円安に大きく振れており、輸出企業には超追い風だ。また株価も1万6000を超える水準にあり、今のところ大きく下振れする懸念はないといわれている。消費税導入後の一般消費の回復が鈍いが、一方で待ち焦がれていた国内の大型設備投資が一気に浮上してきた。

国産小型ジェット機第1号のMRJ(模型)
国産小型ジェット機第1号のMRJ(模型)
 とりわけ、日本の航空機産業は新工場建設ラッシュに突入し始めたといえるだろう。三菱重工業は広島製作所においてボーイング777の機体などの増産を決定し、年産100機分の体制を整えていく計画だ。また、同社は国産ジェットのMRJの量産を想定しており、これが本格テークオフすれば、数百億円の大型投資が発表されることは必定と見られている。IHIもまた300億円を投じエンジン部品の新工場を福島県相馬に建設する一方で、富岡工場においても新棟建設を考えている。

 富士重工業は100億円を投じ、愛知県半田市にボーイング777Xの中央翼など年産100機分の新工場建設に踏み切る。川崎重工業はエンジン部品を生産する神戸の西神工場が完成し、ボーイング787のエンジン生産を請け負う。同社は別の計画で新工場建設もさらに考えているといわれる。航空機産業は現状で世界市場が50兆円程度といわれているが、この20~30年のうちに300兆円まで伸びると予想されている。航空機の数でいえば、2030年には3万4000機になると予想されており、2012年の約2倍に膨らむ。航空機の部品点数は平均的に200万点を超えるといわれ、自動車の100倍程度になるが、単価も高く品質にもうるさい。世界トップクラスの素材力と部品供給力を持つ日本勢に対する期待は大きく高まっているのだ。

 航空機以外の業界においても大型投資の波は広がってきた。FA大手のファナックは、栃木県壬生町の工業団地約70万m²を取得することを決めた。これは2014年に入ってからの最大の新規立地面積になる。計画では同社の主力製品であるCNC、サーボーモーター、サーボアンプなどの生産能力を大きく増強させるために新工場を建設する。着工時期は2015年に入ってからになるだろう。

 半導体分野においても盟主ともいうべき東芝が四日市工場内に5000億円を投じ、次世代フラッシュメモリーの新工場を建設することを決めている。半導体業界における大型投資が久方ぶりに発表されたことになる。一方で、東芝は300億~400億円を投じ石川県の加賀東芝エレクトロニクスで量産している白色LEDの一気増強を図る考えだ。8インチシリコンウエハーにガリウムナイトライドを成膜する量産ラインは、世界でも初めてのものになる。2016年度にはLEDの世界シェア10%獲得を目指したいという。

 ソニーもまた半導体事業への14年度設備投資を当初計画の650億円から800億円に引き上げ、山形、熊本、長崎などのスマートフォン向けCMOSセンサーラインを拡充する。長らく低迷していたシャープも2014年度に800億円の設備投資を計画するが、これは前年度の500億円に対し大幅に引き上げたものだ。スマートフォンやタブレット向けの液晶の旺盛な需要に対応する。

 「最近の国内における設備投資の動向は、やはり知財権流出を恐れてマザー工場の拡大を国内で行うという傾向が強い。また、ファナックやシチズンのようにほぼ完全自動化が進んでいる工場は、全くもって海外に作る必要がないのだ。政府も国内設備投資を加速するための法人税引き下げなどを用意しており、また、各地方自治体が手厚い補助制度を充実させていることも国内投資を拡大させていくのだ」

 こう語るのは国内の大手有名証券会社の幹部アナリストである。アベノミクスは金融緩和に始まり、これが呼び水となって円安、株高を推進することで日本経済回復につなげていった。もちろん本格的な回復は第3の矢といわれる「女性、医療、環境」などの成長戦略を具現化することにあるが、その前触れとして国内投資が戻ってきたことの意味は大きい。

 特にこの10年間にわたって大惨敗を重ねてきた電機産業に復活の兆しが出てきていることは、明るい材料といえるだろう。投資を控えてきたパナソニックも2014年度は前年度比18%増となる2250億円の投入を決めている。三菱電機もまた2013年度の設備投資実績の1739億円を大きく上回る2100億円の設備投資を実行する。全く目立たないメーカーではあるが、兵庫県姫路の西芝電機も船舶向けの大型回転機の増産を狙いに、14億円を投じ本社工場内に新工場を建設する。大手から中堅、中小にまで投資再開の動きが急速に広まってきたといえるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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