何かとお騒がせの高市早苗首相は、またもや驚くべき発表を行った。何と2040年度までにAI・半導体の官民投資を102兆円とすることを決めたという。このうち、半導体分野については68兆円の投資を想定しているようであり、国内で生産される半導体の売上は30年に15兆円、40年に40兆円を目指すというのであるからして、ただ事ではない。
こうしたサプライズの102兆円の官民投資で、40年度までには経済波及効果443.3兆円を見込むとおっしゃるのだ。はてさて、これはいかがなものであろう。日本のGDPは600兆円であり、米国、中国、ドイツに次ぐ世界第4位なのである。この政府の経済効果が順調に行けば、40年段階では1000兆円を超えるGDPが見込まれるわけであり、「本当にこんなことができるのか!」と半導体業界の著名アナリストは訝るのだ。
筆者もまた、疑問のある政策だな、とは思っている。ただし、40年度までの見通しであるからして、その時点で高市早苗首相はもう政府のトップにはいないだろう。それゆえに「言ったもの勝ち」というところは確かにあるのだ。
それはともかく、政府が本気になって半導体分野に大注力すれば大きな成果があるということはすでに証明されている。古い話であるが、1976年に官民協力で超LSIの開発を急ピッチで進めたことがある。700億円を投じ、「超LSI技術研究組合」を発足させて世界に最先行する半導体の製造装置の開発を進めたのである。そしてほぼ同時期にNTTもまた超LSI開発プロジェクトを進めており、こちらはメモリー半導体の開発に総力を挙げて推進していった。当時としての世界トップクラスの64Kb DRAMの開発に成功し、新たな半導体時代をリードしていく。
1975年当時の国内の半導体売上高は1000億円程度であったが、経産省とNTTが主導する2つのプロジェクトはトータルで1000億円を大きく超えてくる金額であった。半導体生産額を上回るほどの巨額を次世代の半導体に賭けるという政府の姿勢は民間の半導体企業を大いに鼓舞したのである。
政府はAIや半導体分野に積極投資(写真提供:首相官邸)
そして、1980年から日本企業の半導体の生産額はうなぎ登りに上がっていく。1990年には、半導体の世界シェアは日本企業がトップとなり、50%を占有するという凄まじさであった。しかして、周知のようにこの三十数年間のニッポン半導体は、負けて負けて負けて負けて負け続ける。こうした状況に対し、高市早苗首相は、働いて働いて働いて働いて働いて参ります、と就任の折りにコメントしたのである。
確かに、政府が本気になれば国内半導体設備投資も一気に盛り上がってくるのだ。とりわけ、メモリー投資は大型のものになってきている。岩手県北上においては、キオクシアが第2製造棟で第10世代品の立ち上げを進めるべく、積極的な設備投資を実施している。広島県東広島市では、マイクロンテクノロジーがクリーンルーム拡張に向けてこれまた大型投資を実行する。そしてまた、北海道ラピダスは超巨大投資を断行しており、ニッポン半導体復活に向けて大きな流れができてきたとは言えよう。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 執行役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。