電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第103回

特許世界一の国ニッポンの生命線は強固な知財権防衛である!!


~国際訴訟で存在感を増してきたUBICというカンパニーに注目~

2014/10/3

 『なぜ特許世界一の日本が国際訴訟で苦戦するのか?』という本を書かせていただいた。筆者にとっては実に23冊目の執筆となる本である。版元は東洋経済新報社、定価は1600円+税、9月末から全国書店で発売されている。

 さて、知財王国ニッポンは、実に年間33万件の特許申請を行っており、何と世界の20%を占有している。もちろん、世界一の申請件数である。また、個別企業においても特許国際出願数の世界トップはわがニッポンのパナソニックである。それでは、世界最大の知財権団体はどこにあるのか。それは、東京にある日本知的財産権協会であり、設立は実に1938年(昭和13年)、何と太平洋戦争の前にニッポンはこうした知財の機関を発足させていた。

 その知財権大国ニッポンが揺れている。米国からの知財権訴訟に関連する日本企業への攻撃がここにきて一気に急増しているからだ。何しろ米国には数万件を超える特許を取得して、この特許権を武器に収益化を行うパテントトロールという事業体が、まるでゴジラのように荒れ狂って跋扈している。パテントトロールは特許をライセンスする、または売買することで収益を得ており、特許権侵害請求などの訴訟を起こし、これまた巨額の金を奪ってしまうのだ。米国のオバマ大統領ですら、パテントトロールカンパニーの活動を公的に批判しているのだ。

 特許出願件数で上位を行くキヤノンは、米国における出願件数でトップを走っている。しかして、同社は米国でパテントトロールによる10件以上の特許訴訟を抱え、被告として戦っている。ソニーもまた新たに39件の特許訴訟を米国で起こされている。パテントトロールが多額な和解金を目当てに日本勢を雨あられのごとく攻撃しており、その手を緩める気配は全くない。

 一方、米国の司法省は日本の自動車部品業界に対し、価格カルテルの徹底的な摘発に乗り出している。2013年9月に日本の自動車部品企業9社に対し、実に730億円を超える罰金の支払いを命じた。しかして、米国司法省の捜査を受けた企業は9社どころではない。驚くなかれ、何と27社がやられている。最も高い罰金を払わされた企業は470億円を失い、実際のところ会社の財務に与える衝撃は凄まじいばかりだ。

 中国からのサイバー攻撃もまた、日本の知的財産権や豊富な金融資産を狙いに激しさを増しつつある。何しろ、すでにウイルスに感染したスマホが60万台も出荷されているのだ。電源を入れて、何かを作動させただけで、あなたの預金口座は空になってしまうかもしれない。

 2010年には突然にしてロシアはパソコンやテレビなどの売り上げに対して1%の著作権料を課す法律を導入した。ところがこれは著作権のコピーに全く関係のないビデオカメラ、カーオーディオ、パソコン、スマホなどのIT製品を幅広く対象に指定するという暴挙なのだ。このデタラメなロシアの著作権の徴収に屈して、泣く泣く多額の著作権料を払った日本の大手企業は数多いだろう。

 そしてまた、アジアの多くの国がジェームスボンドのようなスパイを送り込み、日本の政府や企業の情報を盗み取っていく。コピーされまくった日本の電機産業は10年前の26兆円規模からいまや半分の13兆円まで一気に凋落していった。この裏には、大切な知財権や技術のノウハウが海外に流出していったことが大きな要因となって横たわっているのだろう。

UBIC 守本正宏社長
UBIC 守本正宏社長
 なかでも国際訴訟に巻き込まれた日本企業が莫大な和解金を払うといった状況に対し、「このままではいけない。日本は訴訟強国になるべきだ」を叫び、企業の海外戦略防衛を旗印に立ち上がった男がいる。その名は守本正宏氏という。訴訟大国の米国で不利な状況に追い込まれたアジア企業を救うには、電子証拠データを見つけ出すスペシャリストが必要だ。守本氏はこの思いを胸に2003年8月、UBICというベンチャー企業を立ち上げる。この会社は国際訴訟に絡む電子証拠データの開示サービス、および情報漏洩、不正調査などに絡む最新のデジタル解析技術を提供するのがコンセプトなのだ。

 UBICは国際訴訟において、アジアのグローバル企業をサポートする日本唯一の専門企業として飛躍し、2007年6月には設立4年目にして東証マザーズに上場を果たす。そして、2013年5月には米国NASDAQ上場を果たし、国内外をあっと言わせるのだ。守本氏は筆者の取材に対し、多くの事を答えていただいたが、その彼が常に口にする言葉は次のようなものだ。

 「知財を守れ。情報を守れ。企業を守れ。そして何よりもわが国ニッポンを守れ。」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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