電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第104回

世界の電子回路産業の市場は2020年に9兆円まで伸びると予測する!!


~JPCA会長の小林俊文氏が語る将来像はインターネット・オブ・シングスなどに期待~

2014/10/10

 かつてプリント基板またはプリント配線板と呼ばれたエレクトロニクス分野は、現状では総じて電子回路産業として国内では統一名称が使われている。世界の電子回路基板生産額は、リーマンショックで一時的に落ち込んだが、その後回復してきており、2012年では約6兆円となっている。これは過去最高金額なのである。

 ところが、わが国のお家芸ともいうべき電子回路の生産額は、2011年に日本と台湾が逆転し、世界No.1の座を台湾に奪われてしまい、その後は少し離されるという有様なのだ。また一方で問題となるのは、2013年段階で電子回路については日本国内生産額が7442億円となり、ほぼ海外生産と並んでしまったのだ。つまりはワールドワイドの生産額は、全体として堅実な成長が見込めるものの、国内生産額が落ち込み、なおかつ台湾をはじめとする海外メーカーにもシェアを奪われつつある現状がそこに横たわっている。

 「電子回路産業の課題は、何としても海外に奪われた領域を取り戻さなければならないということだ。ちなみに世界の製造業の総生産額は約1000兆円であるが、IoT(インターネット・オブ・シングス)によって得られる新市場は約30兆円といわれている。30兆円のうち、電子回路基板製造業が占める割合を3%とすれば、約1兆円の新市場が創出されることになる。2020年までの予測を考えれば、自然増で2兆円+新市場で1兆円が加わるわけであり、期待値として9兆円は考えられるのではないか」

 こう語るのは一般社団法人日本電子回路工業会(JPCA)の会長を務める小林俊文氏(日本メクトロン代表取締役社長)である。小林会長によれば、日本メーカーはこれまで品質、コスト、スピードの3点セットで頑張ってきたが、今や世界に誇れるのは品質のみであり、世界の加速する流れと低コストに負かされている状態なのだ。最近の電子回路基板業界ではとりわけアジアメーカーの要求条件は厳しく、見積もりは24時間以内、試作は3~5日で対応しなければ仕事が取れないというのだ。中国のユーザーなどは「4時間で見積もりをもってこい」と言い放つほどなのだ。

JPCA小林会長(左) 元経産大臣の茂木氏(中) JPCA山本副会長
JPCA小林会長(左) 元経産大臣の茂木氏(中) JPCA山本副会長
 JPCAは小林会長が旗振りをするなかで「ダントツものづくり」を提唱してきた。それは、とりもなおさず世界で最高の品質を維持するだけではなく、徹底した現場改善で生産効率を上げ、コストとスピードで負けない、という体質を身につけるということなのだ。最近では、台湾や中国の人件費も上がっているだけに、日本の生産改善が奏功すれば決して不可能ではない、と小林会長は指摘する。何しろ中国は10年間で人件費が5倍になり、タイは3倍、台湾は1.4倍に上がっている。日本の賃金水準はまさに伸び悩み状況にあるからして、生産改善を進めていけば、総合力として復権を図ることが充分にできるというのだ。

 小林会長が代表取締役社長を務める日本メクトロンはFPC(フレキシブル基板)の最大手であり、スマートフォン、タブレットの時代にあって大きな存在感を示している。しかし、小林会長はサムスンやアップルのスタッフが24時間戦っているという現状のなかで、日本企業はハングリー精神、危機感、熱意に欠けるところがある、と手厳しい。24時間戦えますか、という80年代バブルのころのリゲインのコマーシャルに代表されるように、かつての日本人はそれこそ悲しいぐらいに働きづめであった。もう、そうした時代は2度と戻ってこないのであろうか。それなら負けても仕方がない、とため息をついて、かつての働き蜂たちはつぶやくことだろう。

 「ただ一方で、日本の武器は忠誠心の高い勤勉な人材だともいえるだろう。日本メクトロンは10年前にタイ工場を作り、海外生産を加速してきた。しかし、中国工場などでは1年に10%の人が辞めていく。数年間のうちにほとんどの人員が入れ替わってしまう。安定した生産とものづくりの技術を伝承しようと思ってもできない。その意味では、やはり日本国内の生産に回帰するという流れもどこかで必要になるだろう」(小林会長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索