電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第526回

加速する核融合の挑戦


日本では発電試験プラントの建設も

2023/11/2

 次世代の核エネルギー利用技術、核融合の研究開発が活発化している。核融合とは、水素など軽い原子核同士の衝突、融合で重い原子核ができ、大きなエネルギーを生む反応のこと。発電の過程でCO2を排出しないほか、原料となる二重水素は海から得られるため資源枯渇の心配がないなどエネルギーと環境課題の解決に貢献できると言われており、そのため世界各国の研究機関が技術開発を続けている。核融合炉の実用化は、早ければ2030年代ごろだと予想される。

英米中心に各国が産官学で取り組み

 米英を中心に政府主導の核融合戦略に大きな進展が起こっている。英国では、核融合開発で産官学連携、AIなどのデジタル技術活用も進められている。また、日本でも政府により22年9月に有識者会議が発足した。

 国際プロジェクトITER(国際熱核融合実験炉)では、25年の運転開始を目指し、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7カ国が取り組みを進めている。日本国内の大手企業では、(株)日立製作所、三菱重工(株)、(株)東芝らも核融合に関連した取り組みを行っている。ITERへの機器や装置の提供のほか、ベンチャー企業への出資などだ。

海外スタートアップに巨額の投資

 政府機関に加え、スタートアップの設立も進んでいる。Google(アルファベット)やニコン、KDDIなどの大手民間企業の投資のほか、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツ氏ら個人投資家が積極的に出資するなど期待が寄せられている。

 核融合発電の商業化に取り組む民間企業で構成される非営利団体Fusion Industry Association(FIA)が23年に発表した「The global Fusion Industry in 2023」によると、23年は核融合産業では現在60億ドルを超える投資を集めている。22年よりも14億ドル増加し、27社が資金調達レベルを引き上げている。23年はインフレ、金利上昇により前年よりも成長率は低いものの、核融合投資総額は一定期間で27%増加した。また、米国のTAE Technologiesが2億5000万ドル、中国のENNが2億ドルの資金を調達した。

 5月には、米核融合スタートアップのHelion Energy(ヘリオン・エナジー)が、28年までに核融合反応で発電した電力をマイクロソフトに供給する契約を締結したことも話題となった。

世界のフュージョンエネルギー民間企業マップ
世界のフュージョンエネルギー民間企業マップ

日系スタートアップの取り組みも活発化

 日本国内では、スタートアップの3社が順調に資金調達を進め、開発を加速している。なかでも京都フュージョニアリングは、23年に105億円を調達した。同社は、フュージョンエネルギープラントの周辺装置やシステムの開発を行っている。核融合反応そのものを開発するスタートアップ企業は増えているが、機器の開発に注力している企業は珍しい。

 主力製品は、磁場閉じ込め方式の核融合炉においてプラズマ状態を作り出すために必要な加熱システムであるジャイロトロンだ。高周波数の開発や出力時間の長期化など、産業転用に向けた取り組みを進めている。また、核融合炉から熱を取り出す「ブランケット」や、燃料サイクルシステムの開発なども活発に行っている。

核融合プラントUNITYのイメージ
核融合プラントUNITYのイメージ
 9月には、機器やシステムの統合的な研究開発や実証試験を行う研究開発拠点を京都府久御山町に設置した。24年末の発電実証試験開始を目指し、世界初となる核融合発電試験プラント「UNITY」の建設を進めている。


日本は磁場閉じ込め、レーザーの両方にフォーカス

 核融合の方式には、先述の磁場閉じ込め方式とレーザー方式がある。核融合反応を起こすには高温のプラズマ(原子が電子と原子核に分離した状態)を作ることが必要だ。磁場閉じ込め方式は、磁場を作って中に反応が起こるプラズマ状態を作り、高温、高圧環境を作る。

 日本のベンチャー企業3社のうち、磁場閉じ込め方式、なかでもねじれたコイル(ヘリカルコイル)を使ってプラズマの閉じ込めに必要な磁場を作るヘリカル核融合炉の実用化を目指しているのが、(株)Helical Fusionだ。同社は10月に、文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業に採択され、20億円の補助金交付が決定した。コア技術である核融合炉用高温超伝導導体の技術成熟度の引き上げを目指す。

 また、ヘリカル方式と似た手法には、ITERなどで採用され、欧米のベンチャーが数多く取り組むトカマク方式がある。一方、レーザー核融合は(株)EX-Fusionが取り組みを進めている。2035年までに商業用レーザー核融合プラントの稼働を目指している。

 レーザー方式では、高温・高圧の磁場ではなくレーザーの圧力を使用する。光を応用して核融合反応を起こす。レーザーを水素に約10回/秒のスピードで瞬間的に照射し、高温、高圧状態を持続させる。磁場閉じ込め方式とは異なり、外部から圧力を加えるのが特徴だ。

 商用化に向けてはさらなる高効率化が課題となっているが、レーザー核融合は、レーザー技術が産業用途で応用できるのも強みで、EUV光源やレーザー加工、水素生成や医療など様々な用途への展開が期待できる。

電子部品や半導体産業へも期待が高まる

 昨年取材した京都フュージョニアリングの代表取締役 最高経営責任者 長尾昂氏に電子部品や半導体産業に期待することを伺ったところ、「核融合の装置には制御性に優れた高電圧電源が必要となるため、特に高耐電圧、低損失の高周波特性を持つパワーエレクトロニクスなどに期待したい。核融合機器全般では、耐熱性、耐放射性に優れた部品が重要だ」との回答をもらった。核融合発電に活用できる半導体や電子デバイスに期待されることは大きい。将来的には、関連各社で核融合発電関連の部品や機器が、新たな事業の柱になる可能性もあるのかもしれない。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下千穂

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