2023年の太陽光発電(PV)は導入量が300GWを大幅に超える見通しで、過去最高を更新した22年をさらに上回るペースで普及拡大が進んでいる。米国ではIRA(インフレ抑制法)を追い風に、PVの生産投資が急増しており、ペロブスカイト太陽電池(PSC)と結晶シリコン(Si)を積層したタンデム型の開発も活発化している。今回は23年の10大ニュースを選出するとともに、24年の市場および技術動向を展望する。
(1)23年の導入量300GW超
IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、22年のPV世界導入量は236GWで、21年比では35%の増加だった。中国が105.5GWを導入するなど、引き続き世界市場を牽引しており、2位は米国(21.1GW)、3位はインド(18.1GW)、4位はブラジル(9.9GW)、5位はスペイン(8.5GW)だった。
23年のPV市場は成長がさらに加速しており、SolarPower Europeでは、ミディアム・シナリオとして、23年の導入量を341GW(BNEFは392GWと予測)と見積もっている。24年以降は成長率が鈍化するが、2桁成長は維持する見込みで、24年には年間導入量が400GWに達し、27年には600GWを超えると予測している。
(2)First Solar、米国で相次ぎ新工場
米国First Solarの生産増強が加速している。同社は現在、米国、マレーシア、ベトナムにCdTeモジュールの生産拠点があり、22年末の生産能力は9.8GW。23年には、米オハイオ州とインド(タミル・ナードゥ州)の新工場(いずれも生産能力は3.3GW)が稼働し、米アラバマ州では、24年の完成を目指して米国で4番目となる新工場(生産能力3.5GW)を建設中だ。
ただ、PVモジュールの受注残が80GWを超えていることから、さらなる生産能力の増強を図るため、米国で5番目となる新工場をルイジアナ州に建設することを決めた。生産能力は3.5GWで、26年前半の完成および生産開始を予定している。
順調に行けば、23年の生産能力は16.5GW、24年には21.2GWとなり、ルイジアナ州の新工場がフル稼働する26年には、全体の生産能力が25.2GWになる。米国で新工場が相次ぎ立ち上がることで、米国の生産比率は23年の35%から、26年には56%まで上昇する。
(3)タンデム型で変換効率33.9%
結晶Siの上にPSCを積層したタンデム型は22年7月にスイスのEPFLとCSEMの研究グループが世界で初めて30%の壁を突破したが、その後も変換効率の改善が進んでいる。22年末にHZB(ドイツ)が1cm²のタンデムセルで32.5%を達成し、23年5月には、サウジアラビアのKAUST(アブドラ王立科学技術大学)が33.7%の変換効率を達成した。
PSC/Siタンデムで変換効率33.9%(LONGi)
一方、PVメーカーもPSC/Siタンデムの開発を強化している。HZBと協業するHanwha Q Cells(韓国)は2端子構造のタンデムセルで変換効率28.7%を達成し、早ければ、26年からタンデム型の量産を開始する計画。LONGi(中国)は23年6月にPSC/Siタンデムセルで33.5%(ESTIで認証)を達成したが、同年11月には33.9%(NRELで認証)に向上し、世界記録を更新した。
(4)インドがPV生産増強を加速
IEA-PVPSの調査によると、22年におけるインドのPV年間導入量は18.1GWで、中国、米国に次いで世界3位だった。また、累積導入量は79.1GWで、中国、米国、日本に次いで世界4位となっている。30年までの導入目標はロー・シナリオで189GW、ハイ・シナリオでは280GWとなっている。
PVの大量導入を見据えて、インドでは国内の生産能力を拡大する取り組みが活発化している。PVの国内製造を後押しする施策として、PLI(Production Linked Incentive)、BCD(Basic Customs Duty)、ALMM(Approved List of Module Manufacturers)があり、例えば、PLIでは、生産能力10GWの工場を建設する場合、5年間で7億ドルの支援が受けられる。
現在のPV生産能力は、セルが4.3GW、モジュールが18GWで、ポリシリコン(ポリSi)とウエハーの生産拠点はないが、24年にウエハー、25年にはポリSiの生産を開始し、26年末には、PVサプライチェーン全体の生産能力が110GWになる計画だ。さらに、26年以降はPV輸出ポテンシャルが年間60~70GWになると試算している。
(5)OPVで世界最高効率
Fraunhofer ISE(ドイツ)とフライブルク大学の研究グループは、有機薄膜太陽電池(OPV)で変換効率15.8%を達成した。1cm²のOPVセルでは世界最高効率になる。両者は長年、OPVの高効率化技術の開発に取り組んでおり、20年に1cm²のOPVセルで変換効率15.2%を達成したが、23年7月には、効率が0.6%改善し、自身の世界記録を塗り替えた。
研究グループは可視光に対して非常に透過性の高い光吸収層および表面&裏面電極の材料開発を開発し、試作した半透明OPVは開発したコーティング技術を用いて反射率を低減したほか、電極開発にも活用した。裏面電極に光活性有機層を用いたOPVセルは、可視光を透過しつつ、近赤外光を反射して光吸収層に戻すことで変換効率が改善した。
(6)PSC開発で国が追加支援
PSCの実用化を加速するため、経済産業省は150億円の追加支援を決めた。PSCの開発については、グリーンイノベーション基金において、「次世代型PVの開発プロジェクト(498億円を計上)」を立ち上げており、「次世代型PV実用化事業(21~25年度)」では、実用サイズのPSCモジュール(900m²以上)の製造技術の確立や発電コスト20円/kWh以下を実現する要素技術の確立に取り組んでいる。
開発成果としては、パナソニックが30cm角の大面積モジュールで変換効率17.9%を実現し、積水化学工業、東芝、エネコートテクノロジーズ、アイシン、カネカなど、グリーンイノベーション基金の支援(支援規模は154億円)を受けた企業も製造技術の確立に向けた技術開発に取り組んでいる。
ただ、世界でPSCの開発競争が激化していることから、支援を拡充しPSCの実用化を後押しすることにした。これまでの支援額は498億円を上限としていたが、これを150億円積み増し、648億円まで引き上げた。
(7)変形ウエハーが新たなトレンド
PVセルの新たな規格として、rectangular waferと呼ばれる長方形のウエハーが注目されている。rectangular waferは縦と横の長さが異なるのが大きな特徴で、例えば、210Rと称するrectangular waferは縦210mm、横182mmで、182Rは横182mm、縦199mmになる。rectangular waferでは、カットするサイズを変えることで、モジュールの大きさや出力の自由度が増すという利点がある。
中国のPVメーカーの多くがrectangular waferの開発に取り組んでいるが、各社がrectangular waferに着目する最大の理由は、システムコストが下がり、最終的にはLCOE(均等化発電原価)の低減が期待できるからだ。
一方で、ウエハーの安定供給や材料の利用効率を高めるため、ウエハーやモジュールのサイズを標準化する動きも出ており、Trina Solar、Canadian Solar、Risen Energy、JA Solar、Jinko Solar、LONGi、Tongwei、DAS Solar、Chintの9社が規格統一に合意している。長年の課題だったモジュールサイズの乱立に終止符を打つとともに、超高出力かつ高性能なPVモジュールの開発が加速すると期待されている。
(8)ソーラーカーの計画見直し相次ぐ
自動車の電動化に伴い、車体にPVを設置したソーラーカーの開発が進んでいるが、製造コストの壁は依然として高く、計画を見直す企業も出てきた。Sono Motors(ドイツ)はPVモジュールを車体全面に張り付けたEV「Sion」を開発していたが、市場環境の悪化を理由に、23年2月に同プログラムを終了し、自社生産を断念した。ただ、車載用PVの技術開発および用途開発は継続するという。
Lightyear(オランダ)もソーラーカーの量産計画の見直しに迫られている。22年末から世界初の量産モデルとなる「Lightyear 0」の一部生産を開始したが、その後、同モデルの生産を停止し、次世代モデルとなる「Lightyear 2」の開発および生産に経営資源を集中することを決めた。「Lightyear 2」は航続距離が800km以上、価格は4万ユーロで、すでに、4万超のサブスクリプションと約2万の購入予約を獲得している。
(9)PVモジュールの価格急落
PVモジュールの価格が急落している。Dow Jones傘下のOPISの調査によると、中国の単結晶PERCおよびTOPConモジュールの価格はいずれも0.14ドル/W前後まで下がっている。ポリSiやウエハーなど、PVサプライチェーン上流の価格下落と中国企業の輸出低迷が価格下落に拍車をかけているという。
Gessey(中国)の調査では、23年上期の両面発電型PERCモジュールの平均価格は1.35~1.36人民元/Wとなっており、年初以来、平均価格は3割下落したという。
今後もモジュール価格は下落傾向が続く見通しで、PVの供給能力拡大と価格下落により、PVメーカーの価格競争がさらに激化し、業界の再編が加速する可能性が指摘されている。
(10)国内でPSCの実証加速
PSCの実用化に向けて、国内でも様々な実証試験が進んでいる。積水化学工業は23年から東京都やNTTデーと共同で実証試験を実施しており、自社の本社ビル壁面に建材一体型のPSCパネルを設置したほか、JR西日本が25年に開業する「うめきた(大阪)駅」でも発電量などの実証試験を行う。最近では、都内で建設予定の再開発ビル壁面に1MWのPSCを設置する計画を発表した。
パナソニックは神奈川県藤沢市のモデルハウスでガラス建材一体型PSCモジュールの実証を開始しており、東芝エネルギーシステムズも福島県大熊町でフィルム型PSCの実証実験を計画している。ノウタスは桐蔭横浜大と共同で、農業分野におけるPSCの実証実験を24年春から開始する。
京都大発スタートアップのエネコートテクノロジーズは22年にマクニカと共同でPSC搭載のCO2センサー端末を開発したが、両社は23年6月に東京都と実証事業に関する協定を締結し、第2本庁舎でPSC搭載のIoTセンサーの実証試験を実施中。マクニカは桐蔭横浜大などと共同で、横浜の港湾部でもPSCの実証試験を計画している。
フレキシブルPSCモジュール
(エネコートテクノロジーズ)
さらに、エネコートテクノロジーズはトヨタと共同で車載用PVの開発に着手したほか、三井不動産レジデンシャルとマンションでの実証試験を予定している。また、24年春から、日揮と共同で北海道の物流施設でも実証試験を開始する。
電子デバイス産業新聞 記者 松永新吾