電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第532回

電動車、オートメーションを支える「コネクター」


大電流・高電圧、高速伝送、自動化へ匠の技

2023/12/15

 2023年は長かったコロナ禍が一段落し、再びリアル展示会が息を吹き返した一年だった。記者の立場としては、プレスリリースの活字やオンライン説明会とは異なり、実際の製品やデモ実演、日頃は出会えない各社技術者などから直接話を聞きながらのリアル展示会取材からは、業界の「今」を把握し、「未来」をイメージするうえで非常に貴重な機会であることを改めて実感させられた。

 電子デバイス産業新聞の紙面向けにすでに執筆・掲載済みの案件以外で、23年秋以降に足を運ばせていただいた展示会の中から、まだ書き切れていないテーマの1つが電子部品の「コネクター」だ。そこで今回は、10月に開催された「CEATEC2023」(主催:JEITA、会場:幕張メッセ)と12月に開催された「2023国際ロボット展」(主催:日刊工業新聞社、会場:東京ビッグサイト)で筆者が目にした「コネクター関連」の情報を振り返り、電動車(xEV)や産業機器向けへの大電流・高電圧化対応の技術革新、高速伝送対応、自動化へのアプローチなど、日進月歩で進化するコネクターに焦点を絞ってみる。

 ちなみに、JEITAが発表した「電子部品グローバル出荷統計」における「コネクターの年度別世界出荷統計」を見ると、世界コネクター市場規模は2019年を底に右肩上がりの成長を続けており、22年度世界コネクター市場規模は6552億円(前年度比6%増)、世界電子部品市場全体の約15%を占める存在にある。

xEVへ大電流、BMS向けなどで技術進化

JAEはxEV向け各種コネクターを一括展示
JAEはxEV向け各種コネクターを一括展示
 xEVへのアプローチでは、CEATEC2023において日本航空電子工業(JAE)ブースで、xEV車両1台を想定し、キーとなる各種コネクターの一括展示を拝見した。そこから浮かび上がってきたキーワードは、「大電流」「BMS(バッテリーマネジメントシステム)」「ECU」「インフォテインメント」だ。

 大電流向けでは、グローバル向けに開発中の最新製品、EV向け2極大電流コネクター「MW05シリーズ」「MW03シリーズ」も展示されていた。MW05シリーズは急速充電向けで定格電流は440A、MW03シリーズはモーター駆動向けで定格電流は300Aであり、説明員の話によれば前者は24年後半あたりから、後者は25年後半あたりから量産予定のようだ。まさに大電流対応ながら、シンプルな端子構造と樹脂ハウジングで小型・軽量化が実現していることなどを特徴としていた。省スペース化、航続距離延伸を邪魔しない軽量化を実現しつつ、大電流にも対応を要し、かつ車載グレードを満たすコネクターを製品化し、提供できる技術力の高さが今回拝見したJAEのほか、車載向け比率の高いイリソ電子工業など日系勢の強さなのだろうと感じ入った。

 xEV特有の主要パーツの1つであるBMS向けでは、ジャンクションボックス内のBCU(バッテリー制御ユニット)およびBMU(バッテリーマネジメントユニット)向けの各製品アプローチが実物とともに紹介されていた。なかでも目を引いたのが、BCU向けの最新製品である高電圧低電流コネクター「MY05シリーズ」だ。現状では定格電圧400V帯にあるが、すでに欧州をはじめ海外では800V帯へのシフトが始まっており、今後の拡大が見通されている。そのため、定格電圧を1000V帯対応とする高電圧化を図り、CPA(Connector Position Assurance)、CPA無し、HVIL(High Voltage Inter Lock)という3つのソケット形状を用意して国内外へ拡販を見据える。また、「ワイヤーがつながると重量が重くなることから、ワイヤレスBMS用のアンテナタイプが必要とされるケースもある」(説明員)として、2.4GHz帯アンテナ「AN01/AN02シリーズ」も紹介された。ロバスト性のあるアンテナ特性や、高効率・等方性のある放射パターンなどを特徴としていた。

 また、BMU向けではセルの電圧を検知する、温度を測定するなど様々な役割に合わせたコネクターを要するもようで、目的によって低背なのか、材料なのか、多彩なコネクター製品が使い分けられていることが感じられた。例えば、JAEの展示品では、基板対電線、中継接続、1列/2列型など多彩なバリエーションの小型・高密度コネクター「MX34シリーズ」(タブサイズ0.64mm)、インシュレーター材料に内燃性に優れるUL94 V-0材を使用したコネクター「MX84シリーズ」、ピン側を省スペース化に貢献するSMT実装タイプとし、かつタブサイズは0.4mmの超小型・低背を実現するコネクター「MX77シリーズ」がBMU向けラインアップとして披露されていた。

自動運転見据えた開発も進行

 さらに、将来の自動運転を見据えたコネクターでは、ECU用の基板対基板高速フローティングコネクター「MA02シリーズ」(開発品)、車室内向けに車載インフォテインメント用USB3.2対応コネクターの新製品「MA07シリーズ」なども見受けられた。車載インフォテインメント用では、今回はディスプレーの高解像度化をつなぐ技術を紹介すべく、完全シールド構造のEMI対策品を実物披露した。一方、ECU用では高速伝送対応が必須だといい、JAEでは16Gbps対応をMA02シリーズで開発。基板と基板をつなぐコネクターの位置ずれ吸収には、フローティング量をXY±0.8mmとしていた。また、多点接点で接触信頼性を確保する必要もあることから、2点接点構造にしたという。温度も車載グレードに適する125℃対応、これ以外にも細やかな技術ポイントが様々存在する。

 そして、車載の未来をイメージした展示の11つとして、「自動車でも光ネットワークの活性化をしたい」とJAEの製品開発担当者が力を込めるアイオーコア(株)との共同開発品「車載用AOC(Active Optical Cable)」にも出会った。この製品開発の担当者の話では、車載向けに光ファイバーを用いることで、電波影響が無縁なためノイズの心配がなくなることや、電気に比べて大容量が可能なこと、軽量化や消費電力面でも優位性があるほか、量子ドットレーザー使用で高温対応も可能など、高信頼性が求められる自動車業界にも最適だという。「各ゾーンコントロールユニットをつなぐという点でも光が適切」(担当者)と力強く語っていただいた。「2年後にはサンプルを出したい」(担当者)との意気込みも聞かれた。ただし課題は、OE(オプト/電気)変換を伴うことによる高額なコスト。自動運転車両が本格化するまでにはまだ時間がある。今後、様々な技術改善を重ねながら、実用化に向けた挑戦が続く。

産機向けでは「自動化」へのアプローチ

 産業機器向けでは、2023国際ロボット展に主要コネクターメーカー数社が出展していた。筆者自身は、TE Connectivity(本社=スイス、日本法人=タイコエレクトロニクスジャパン合同会社)、イリソ電子工業、ヒロセ電機、前述のJAEの各ブースへ立ち寄らせていただいた。各社に共通していたのは「自動化」へのアプローチだ。

TE Connectivityの「ENTRELECダイナミック プラガブル DINレール端子台」展示品
 世界市場で豊富な実績を有するTE Connectivityも、「労働人口が減少していく中で、より簡単に使え、自動化しやすい製品が求められている」(説明員)として、従来は嵌合時に人間の手でロックしていた状況から自動でロックがかかる「HDC H3A TIC-LOQハウジング(ワンタッチロック)」や、片側に既存のプッシュイン端子の端子台、もう片側にダイナミック圧着端子の端子台を設けて複合したハイブリッド端子台「ENTRELEC(アントワレック)ダイナミック プラガブル DINレール端子台」などを展示していた。特に後者は、ダイナミックプラグに連結機構を採用し、複数ピンを一括嵌合・抜去が可能なため、顧客側での設置効率、生産効率が向上し、生産現場において一度に複数の極数を連続圧着、連続生産、連続嵌合することを可能にするという。

オートメーション化へ既存技術・製品で貢献

 イリソ電子工業、ヒロセ電機では個々の新製品や開発品の披露ではなく、既存の技術や製品が生産現場などで進むロボットを用いたオートメーション化にどう貢献できるか、という目線での展示であった点が興味深かった。

イリソ電子工業の「オートメーションコネクタ」を用いたPLCの自動組立実演の様子
イリソ電子工業の「オートメーションコネクタ」を用いたPLCの自動組立実演の様子
 21年度に日本機械学会優秀製品賞の受賞実績をもつイリソ電子工業は、「自動組立を実現するオートメーションコネクタ」をコンセプトとし、①フローティングコネクター、②Auto I-Lock構造、③2点接点構造という同社お家芸の3つの技術で顧客のロボット生産ニーズに対応できることを、デモ機による実演(イリソ電子工業の「オートメーションコネクタ」を用いたPLC(Programmable Logic Controller)の自動組立実演)も交えながら一貫で披露していた。①ではコネクターの可動により基板位置ずれの吸収、はんだ接合部へのストレス軽減かつクラック抑制や、同一基板上で複数個のコネクターを使用できるなどの利点がある。そのため、ロボット組立時にも嵌合時のずれを吸収するなど自動化に貢献できるという。また、②はFPC/FFCコネクターで、FPC/FFCカードを挿入すると自動でロックされる構造を特徴とし、不完全嵌合を防止し、確実な嵌合が実現する点が最大のメリットだ。また、独自の端子構造によりデジタル信号の高速伝送も可能にするという。さらに、同一線上に2つの接点構造を持つ③では、接触不良が防止され、嵌合時の異物除去なども可能なため、接触信頼性が向上。歩留まりの改善でトータルコストダウンにつながるようだ。

エトキオートメーションコネクタで自動組立したPLC(イリソ電子工業展示ブースより)
 ヒロセ電機も同様に、自動化の未来をつなぐコネクター各種製品群を「ロボット/コントローラー」「産業用イーサネット対応」「マシンビジョン」「モーター/サーボドライブ」「FAコントローラー(IPC/PLC)」とテーマ別に一貫で紹介していた。多彩かつ幅広いコネクター製品群から何をチョイスするのが適切なのか、という意味で来訪者にヒントを与えるものと感じた。

 命に直結するxEV、製品製造の要となるオートメーション化による生産工程では、「つなぐ」という役割を担う「コネクター」においても接触不良やクラックなどは許されない。半導体やエンドのシステム機器、xEVの進化と一体で技術革新が進み、10年以上という長寿命・高信頼なハイエンド領域のこうしたコネクター製品では、今回触れた各社を含む日系勢や、欧米勢などが存在感を示し、強みを発揮している。ただし、CEATEC2023では中国のCWBも大型ブースを構え、EV・HEV・PHEV関連製品、新エネルギー関連コネクターなどを実物とともに展示披露するなど、アジア勢も日本市場へのアプローチに積極姿勢を見せ始めていることは注視される。

 24年もあらゆる角度にアンテナを張り、取材活動を通じてあっと驚く技術、製品、コンセプトに出会えることを楽しみにしている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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