電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第560回

半導体市場は25年に100兆円突破で経産省予想より5年も前倒し


東大・武田ホールで講演し、新たな時代の胎動を感じる

2023/12/15

アドバンテスト創業者の武田郁夫氏
アドバンテスト創業者の武田郁夫氏
 12月6日のことである。東京大学の武田先端知ビルの武田ホールで講演させていただく機会に恵まれた。このビルは、半導体テスターの世界最大手であるアドバンテストの創業者である武田郁夫氏の寄付により建設されたものである。武田氏は「経済活動で得た富を生活者のための研究活動に還元し、より豊かな社会を創りたい」という高邁な考えのもとに同ビルを東大浅野キャンパスの中に設けたのだが、これは実に素晴らしいことをされたと感銘を受けたのである。

 筆者も何回か武田氏を取材させていただいたが、知見がありながらも腰の低い方であったと記憶している。私財を蓄えることに躍起になる創業者が多い中で、半導体産業の将来を担う人たちのために施設を作る方は、そうあるものではない。

 さて、今回の講演は日本学術振興会のRO25先進薄膜界面機能創成委員会が主催するフォーラムに招かれたものである。同フォーラムは、若手技術者・若手研究者の育成を目的に中長期的な視点や潜在的な市場および技術調査、そして我が国を取り巻く業界の経済動向までを議論する場と位置づけられている。

 そこでは様々なことが語られたが、元来がプラズマ、スパッタなど真空技術に関連する材料がメーンテーマであり、この間の歴史や技術の進展などが良くわかり有意義な催しであったと思う。そしてまた、多くの方々が成長目覚ましい半導体産業の将来に貢献する研究開発が最重要との意見が多かったのだ。

 世界の半導体市場はここに来て再びの高成長が見えはじめた。今や事実上の半導体の世界チャンピオンである台湾TSMCの10月度の売上は過去最高を記録した。ひたすら下がり続けたNANDフラッシュメモリーの価格も下げ止まりから反転し、上昇の機運が出始めたのだ。こうした動きを見て、設備投資の拡大に向けて装置メーカーの投資も再開されてきている。

 米国ガートナー社によれば、2024年の世界半導体市場は前年比16.8%増の6240億ドル、日本円では91兆円になるという。生成AIを活用したサービスが広がり高性能半導体の比率が増え、量も拡大する。これに影響され、超高速メモリーや次世代のCPUも引き合いが強まる。

 さらに25年については、前年比15.5%増の7210億ドル、日本円では105兆円になる、というのであるからただ事ではない。特にDRAMとGPUは作りきれないとまで言っているのだ。

 稀代の円安レートであることを勘案しても、半導体はついに100兆円突破が見えはじめた。経産省はかつて、30年までには世界半導体は100兆円時代に入ると見ていたが、アナリストも評論家も予測の修正をしなくてはならないだろう。現状における半導体予想は所詮、スマホ、パソコン、データセンター、家電などをベースにしているがここに来ては自動車向け半導体の急拡大、AI向けチップの本格化を読み込まなければ、どうにもならない。そして、かつて世界出荷15億台まで行ったスマホが12億台となり、今後は高成長をあまり期待できないことも考えなければならない。一方でスマートグラス、スマートウォッチ、ウエアラブルデバイスなどのメタバース向け端末もきっちりと見ないと予想を間違える。

 さらに言えば、世界経済の強烈なリード役であった中国の現状も鑑みないとダメなのである。不動産バブルの崩壊で、中国の役人は給料30%カットになっており、大学を出ても4割の人しか就職できないという有り様なのだ。これに代わってアジアの大国を目指すインドの半導体の一大強化策も捉えなければならない。

 秋の枯葉が散る東大の浅野キャンパスに立ち尽くし、新聞記者もやたらな記事は書けないな、と反省しきりな筆者ではありました!


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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