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第533回

激戦!中国・新エネルギー爆投資


不動産や国民消費は停滞しても、EVとPVは過去最高を更新!

2023/12/22

 2023年の中国経済はゼロコロナ政策の終了による経済成長効果が期待されていたが、実際は不動産市場の停滞や消費低迷、デフレなど経済不調が続いた。7~9月期に生産や消費などで回復傾向がみられ、経済協力開発機構(OECD)も中国経済が7~9月期に「底入れした」との見解を公表した。複数の政策出動により中国経済は「安定してきた」ように見えたが、10~11月は回復上昇トレンドが続かず、相変わらず気を抜くことができないでいる。

 このような状況にもかかわらず、新エネルギー分野では爆投資が続いている。その中でも突出しているのが、EV(電気自動車)とPV(太陽光発電)の2分野だ。中国政府は60年までのカーボンニュートラル(CO2排出量と除去量を差し引きゼロ)と30年までのカーボンピークアウト(CO2排出量が頂点に達し、そこから減少に転じること)を目標としている。そのために、全エネルギー消費に占める非化石燃料の比率を60年までに80%以上に拡大させる。そのために、EVやPVの導入量は今だけでなく、長期にわたって継続投資されるものと予測されている。

中国は10年以上も不動産投資で発展したが近年は停滞中
中国は10年以上も不動産投資で発展したが
近年は停滞中
 今後40年間のクリーンエネルギー分野の投資額は、毎年1兆元(約20兆円)以上になるものと予測されている。新エネルギー分野はまさに長期的に成長が続くことが約束されている。その一方で、足元では低迷している景気対策の格好の投資分野として今年は想定以上に過熱しているようにも見える。

EVは23年に940万台販売へ

 23年のEV市場は4月まで予想以上の停滞が続いた。20年に終了予定だったエコカー補助金が新型コロナによる経済対策として22年末まで延命され、その反動で23年1~4月の新エネ車(EVとPHV)は月間販売50万台程度(22年12月は80万台だった)に落ち込んだ。しかし、地方政府によるクーポン券(購入補助金)の発行や自動車メーカーによる値下げ販売により、5月から販売台数が増加し、6月には月間80万台の販売台数に回復した。

 その後も「値下げ&販売拡大」の流れが続き、23年の新エネ車販売は940万台に達する見通しだ。ちなみに、22年の新エネ車販売は688万台だった。これは年初に自動車工業会が予測していた900万台を超えるもので、前年比37%増を達成する見通しだ。中国の経済(GDP)成長が5%前後にとどまるなか、37%増というのはかなりのインパクトがある。新エネ車が牽引する格好で、自動車販売全体も22年の2686万台から3000万台弱に増える見通しだ。

中国トップのBYDは世界一も視野に入ってきた
中国トップのBYDは世界一も視野に入ってきた
 その一方で、新エネ車メーカーの業界再編も近づいている。1~11月の販売台数が年間目標の80%に達していたのは主要な自動車メーカー15社のうち6社(全体の40%)しかなかった。最大手のBYDなどは高成長を続けているが、中堅自動車メーカーや新興EVメーカーは値引き販売による薄利多売を余儀なくされ、工場投資を回収することもままならなくなっている。中堅自動車メーカーの奇瑞汽車(安徽省蕪湖市)が投資会社のIDGキャピタル(北京市)に買収されようとしているという報道も流れている。24年は新エネ車メーカーの再編が始まるものと予測される。

PV導入量は160GWへ

 中国は1~9月期、129GW(前年同期比2.4倍)の太陽光発電設備を導入した。中国が30年のカーボンピークアウトに向けて太陽光発電の導入を加速している実態がよくわかる数字だ。中国の太陽光発電設備の導入量は年末に向けて四半期ごとに導入量が階段状に増加していくのが通例だ。22年の例でみると、1~3月期に10GW超、4~6月期と7~9月期は20GW前後、そして10~12月期に約30GW超となり、22年の年間導入量は87GWに到達した。

 23年は10~12月の3カ月を残す時点で、すでに129GWに到達している。22年10~12月実績と同等の導入があるとすれば、23年は160GWを超えるものとみられる。これは前年比84%増となり、中国GDPの5%前後の成長や新エネ車の37%増を大きく超える。カーボンピークアウト目標達成のために重要な技術という点ではEVとPVは共通しているが、EVは最終的に個人消費に託されるが、PVはインフラ投資ということで「政策ドリブン」の要素がより強い。

住宅用の太陽光発電の導入も増加していく
住宅用の太陽光発電の導入も増加していく
 しかし、PV業界でも決算内容の悪化が目立ってきている。PV業界でも価格競争が激化し、大手6社が販売シェアを伸ばす一方で、中堅クラスは供給過剰や利益悪化の懸念が噴出している。業界全体として供給過剰能力になっているのは明白で、24年はさらにパネル価格の低下が続くのもほぼ確定路線だ。PVモジュール価格は1Wあたり1元(約20円)未満になるものと予測され、原価割れしてしまう企業も出てきそうだ。また、投資体力のない企業は設備更新ができず、変換効率が高い新型パネル(TOPConやHJTなど)の生産比率が低く、より不利になっていく。PV業界も新エネ車産業と同様に再編が加速するだろう。

24年も新エネ投資は増加継続

 中国の新エネ車市場は、23年の3000万台弱から24年は3100万台(前年比3.3%増)に拡大する見通しだ。「ついに3000万台の大台に乗る」(中国の自動車部品メーカー幹部)と好印象を与えるが、その一方で「低価格の車販売が増える」、「値引き販売を止めることができない」などの意見も多く聞かれる。

 今後の中国の消費市場の伸びしろは、内陸部の3~4級都市に移ると見られている。マクドナルドやスタバですら、店舗の出店先を3~4級都市にターゲットしている。新エネ車販売は23年の940万台から24年は1150万台(前年比22%増)に増加すると予測される。自動車全体では100万台の増加だが、新エネ車だけでみると200万台増加するということは、ガソリン車は100万台の前年割れになるということだ。ますます新エネ車シフトが進み、年間販売台数における新エネ車比率は40%弱に拡大する見通しだ。やはり、新エネ車に牽引役を任せるしかない状況が続く。

 太陽光発電の導入量は23年の160GWから24年は200GW(前年比25%増)に達するのではないかと予測するアナリストが出始めている。上海市は今後、新築住宅に太陽光発電設備の設置を義務・推奨するガイドラインを発表した。23~25年に建設される住宅棟に設置される太陽光パネルの設置導入量は100MW、25~35年は500MW以上とする目標を設定した。

高度成長が終わり、成長エンジンは新エネルギーにシフトく
高度成長が終わり、成長エンジンは
新エネルギーにシフト
 EVとPVの新エネ分野は24年も市場拡大が続く。さらに30年までの右肩上がりの市場予測も出揃っている。しかし、足元では過剰能力と価格低下による業界再編のイエローランプが点滅しつつある。長期的発展が見込めるのに、もう今の段階から淘汰に晒されようとしている。技術よりも市場の優位性、市場よりも資金力が勝敗を分けるカギとなるかもしれない。


電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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