電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第536回

村田製作所が見せる「軌道修正」


環境変化対応と新たな柱立ち上げを推進

2024/1/19

 村田製作所は2023年11月末、恒例となっている「インフォメーションミーティング」を開催し、22~24年度を期間とする「中期方針2024」の進捗を説明した。期間のちょうど半ばに位置する今回の説明会では、数値目標など大筋に変化はないものの市場環境の変化を踏まえた軸足の見直しや、新規事業として育成しているソリューションビジネスの進捗が示された。厳しい市場環境のなかで、こうした「軌道修正」を着実に図って新たな柱を打ち立てられるかが、25年度以降の中長期的な成長を実現できるか否かのカギを握っているといえよう。そこで本稿ではインフォメーションミーティングで示された村田製作所の最新戦略に迫りたい。

 なお、24年1月1日に発生した能登半島地震では北陸地域における村田製作所の複数の拠点が被災し、本稿執筆時点の1月10日時点では一部拠点が操業再開できずにいる。以下の本文では地震の影響は加味されていないことをお断りしておく。

スマホ成熟化でシフトチェンジが急務に

 村田製作所は中期方針2024において、最終年度の24年度に売上高2兆円、営業利益率20%以上、税引き前投下資本利益率(ROIC)20%以上の目標を掲げる。これに対し、23年10月時点の23年度通期見通しは売上高1兆6200億円、営業利益率17%、ROIC12%と開きがある。コロナ禍に伴うリモート需要の活況で高成長を遂げた21年度をピークに、22、23年度の業績は漸減傾向と厳しい状況を強いられている。これは需要が落ち込んでも再成長に向けた投資を継続していることも一因だが、中期方針策定時点から事業環境が大きく変化していることが一番の要因といえる。

 まず、村田製作所の成長の原動力となってきたスマートフォン市場に陰りが見える。最大手のiPhoneは高機能化を先導する存在ではあるものの、台数ベースでは頭打ちとなっている。ボリュームゾーンとして存在感を高めていた中国系は低調が続いており、本格回復の見込みは遠のいている。また、端末の二極化も進んでおり、ローエンド機の販売台数が回復しても高付加価値な部品の需要増には結びつきにくくなってきた。

 一方、自動車市場におけるCASEは加速の一途を辿っている。電子部品市場に限らず、エレクトロニクス業界全体でCASE市場に傾注する動きが拡大している。村田製作所が自動車市場において劣後しているわけではないが、スマホやPC市場の高成長が見込めなくなった環境変化において成長持続を図るためにはシフトチェンジが必要になっている。


「3層目」創出へのこだわり

 村田製作所は中期方針2024において、「3層ポートフォリオ経営の推進」を掲げている。1層目が積層セラミックコンデンサー(MLCC)をはじめとした主力のコンポーネント部品、2層目が無線通信モジュールや電池、車載MEMSなどのモジュール・システム製品、そして3層目がソリューションビジネスである。この3層ポートフォリオは中期方針2024年の策定当初から前面に押し出されていたもので、かねてその狙いについても述べられているが、村田製作所の経営戦略を探るうえで重要なポイントのため改めて触れておきたい。

 そもそもコンポーネント部品メーカーとして創業した村田製作所は、ラジオからテレビ、オーディオ機器、PC、携帯電話とエレクトロニクス機器の発展に伴って市場に求められる部品を供給して成長してきた。顧客とすり合わせて用途提案を行うスタイルである、2層目のビジネスが立ち上がったのは80年代だが、特に2000年代から10年代にかけて、携帯電話とスマホの普及を背景とした無線通信技術の高度化、市場拡大により無線通信モジュールが主力製品の1つにまでポジションを高め、村田製作所の成長を牽引する事業となった。中島規巨社長がこの事業でキャリアを重ね、第2の柱とも言うべき製品の確立で貢献してきたことはよく知られている。

 だがスマホ市場の成熟などの環境変化で、これまでの2層構造では高成長の持続が難しくなっている。そこで第3の柱として3層目のソリューションビジネスを立ち上げ、3層のポートフォリオの確立により30年に向けた中長期的な成長を可能にする事業体制を確立しようとしているのだ。

MLCCは車載ニーズへの対応を強化

 ではそれぞれの事業における取り組みについて述べよう。まずは既存の柱である1、2層目からだ。1層目はMLCCをはじめ高シェアを誇る製品を多数擁しており、基本的に製品ラインアップが変わるわけではない。ただし、前述の通りスマホ市場の頭打ちや自動車CASEの加速といった、市場環境の変化への対応が必須だ。

 例えばMLCCでは、自動車の電動化に対応するため高容量で高信頼のタイプが求められている。こうしたより高度なニーズに対応していくためには、供給体制の強化に加えて材料からの作り込みが必要だ。そのため、村田製作所は23年9月に石原産業とその子会社の富士チタン工業との合弁で、MLCC原材料のチタン酸バリウム製造会社のMFマテリアルを宮城県延岡市に設立した。27年に新工場を稼働させ、供給能力および品質向上を図る方針だ。

 また、車載のみならずスマホなどの通信分野においても引き続きMLCCの需要は増加基調で推移するとみている。このため、年率10%の増強体制は堅持しており、23年3月にタイで新棟を竣工した。

EV向けノイズ対策用MLCC
EV向けノイズ対策用MLCC
 自動車の電動化で伸びる部品には、ほかにインダクターがある。こちらもより小型で電気特性に優れる製品が求められており、23年8月にベトナムで新棟を建設して生産能力を高めた。


無線通信は差異化技術の本格採用に期待

 2層目は無線通信モジュール、MEMSセンサー、電池など多様な製品がある。なかでも代表格は前述の通り近年の村田製作所の成長を牽引してきた無線通信モジュールだが、スマホ市場の成熟化により転機を迎えている。その対策として、村田製作所は長年にわたり差異化技術を蓄積してきた。例えば近年M&Aにより取得したXBARやDigitalET技術だ。

 これらは無線通信がミリ波5Gへシフトするうえで切り札となる技術に位置づけられていたが、市場拡大が想定より遅れているため目立った効果を発揮できずにいる。しかし、村田製作所が無線通信市場で優位を発揮するうえでこれらの技術の競争力が失われているわけではない。iPhoneのプラットフォーム変更がブレークスルーの契機になると見込まれるが、24~25年にかけて本格的な採用拡大が予想されるという。そうなれば、一時停滞していた無線通信モジュールが再び成長エンジンとしての地位を取り戻すだろう。

 また、MEMSセンサーは自動運転技術の向上により拡大が期待される。フィンランドの子会社で車載慣性センサーを量産しているが、供給体制構築のため日本の拠点でも生産能力を増強した。高度な自動運転においては必須デバイスともいわれ、さらなる成長が期待できる。

電池は収益改善の取り組み続く

 一方で課題事業とされるのが電池だ。17年にソニーからリチウムイオン電池(LiB)事業を買収して以降、競争が激化している民生向けから電動工具などのパワーツール向けに転換を図ってきた。市場シフトは順調に進み、販売も拡大していたがパワーツール市場が減速して在庫過多に陥り、その調整に時間を要している。パワーツール向けに注力する方針に変わりはないが、製品の種類が多岐にわたることが生産性向上の妨げになっていた。このため標準化を通じて合理化し、収益性を高める取り組みを進めている。時間はかかったものの、25年度には黒字化できる道筋が見えてきたという。

 このほか、エネルギー製品として成長を図っているのが電源モジュール製品。データセンターやサーバーといったデータインフラ領域における省エネニーズに訴求し、事業拡大を図っていく。

ソリューションは社内実証から外部展開へ

 3層目のソリューションは中期方針2024以降の本格立ち上げに向けた「種まき」フェーズに位置づけられるが、それでも徐々に事業化への準備は進みつつある。例えば金津村田製作所(福井県あわら市)は再生可能エネルギー100%工場として太陽光発電所と蓄電池、制御システムを組み合わせたエネルギーマネジメントシステムを導入し、実証を行っている。「クリーンエネパーク」として外部の見学も受け入れており、エネルギー最適化ソリューションとして外部にも提供していく計画だ。

金津村田製作所は再エネ活用のモデルに
金津村田製作所は再エネ活用のモデルに
 ほかにもローカル5Gを利用した製造現場におけるDXの推進にも取り組んでおり、社内実証で得られた成果は外部にも展開していく。さらに、大学生やスタートアップとともに新規ソリューションを生み出す共創プロジェクトも実施。これまでにない革新的な製品、ソリューションの実現が期待される。

戦略投資による次の布石は

 最後に投資戦略にも触れておこう。中期方針2024では3年間に2300億円の戦略投資枠を設けていたが、22年度実績236億円、23年度計画300億円と計画を大きく下回っている。これは市況の悪化によるものだが、回復に向かうと想定される24年度には投資額を増やしたい考えだ。これまでのM&Aは新たな技術の取り込みや開発期間短縮を目的としたものが多かったが、それらに加えてシェア拡大やビジネスモデルの獲得も目的に据えていく方針という。これらは25年度以降の成長に向けた布石といえ、村田製作所がどのような投資を決断していくのかに注目だ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 中村剛

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