電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第537回

国内ロボット新興企業の資金調達額が拡大


テレイグジスタンスとソフトバンクの連携に注目

2024/1/26

 年初における恒例ともいってよいが、「2024年の注目」といった話題が様々なところで挙がっている。そのなかの1つとして、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される、いわゆる「2024年問題」がある。この問題をはじめ、少子高齢化や、労働人口の減少に伴う人材不足で長時間労働が常態化しているといった労働環境の問題が、2024年はより色濃くなるといわれている。

 そのなかで省人化につながるロボティクス技術への期待値が高まっている。スタートアップ・ベンチャー企業への関心も高まっており、23年におけるスタートアップ・ベンチャー企業の資金調達などをみても多くのロボティクス関連企業が出資を得た。

 出資を得たロボティクス関連企業をみると、10億円以上の資金調達を実施した企業も多く、100億円以上の資金調達を実施した企業も2社あった。特にTelexistence(株)(テレイグジスタンス)は、ソフトバンクグループ(株)やEMS世界最大手のフォックスコンなどから約230億円の出資を得たことで大きな注目を浴びた。


ファミリーマートへロボットを導入

 テレイグジスタンスは、社名にもなっている「テレイグジスタンス」(遠隔存在)という技術を活用したロボティクス製品の開発を進めるスタートアップ企業。東京大学名誉教授の舘暲(たち すすむ)氏が世界で初めて提唱したもので、遠隔地にあるロボットのセンサー情報をオペレーターが受け、ロボットを自分の分身のように操作し、まるで遠隔地に自分が本当にいるかのような高い臨場感をもたらす技術だ。

 その研究開発成果の社会実装を目指し、17年1月に設立されたのがテレイグジスタンスで、ロボットの活躍の場を工場の外に広げ、社会の基本的なあり方を変革することを目指しており、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター、物流施設などを主なターゲットに据えている。そのうちコンビニについては、ファミリーマートと連携し、ファミリーマートの300店舗に、AIロボット「TX SCARA」を導入する取り組みを進めている。

テレイグジスタンスの「TX SCARA」
テレイグジスタンスの「TX SCARA」
 TX SCARAは店舗バックヤードでの飲料補充業務を自動で行うシステムで、通常時はAIがシステムを自動で制御し、補充作業の約98%は自律で行う。陳列失敗時には遠隔操作モードに移行し、インターネットを通じてオペレーターが遠隔地からロボットを制御して迅速に復旧させる。これにより1日800~1000本行われている飲料陳列業務をTX SCARAで代替する。

 テレイグジスタンスは、ファミリーマートへの導入状況などの詳細についてアナウンスはしていない。だが、電子デバイス産業新聞の姉妹紙『商業施設新聞』の23年10月3日号において、ファミリーマートのリクルーティング・開発本部開発推進部TX導入マネジャーである江川賢氏がインタビューに答え、TX SCARAの導入状況について「1号店として21年8月にファミリーマート経済産業省店に導入し、同年12月に2号店として相模原市の大型物流施設内の店舗に導入した。現在、約120店に導入している。基本的に既存の直営店を中心に導入を進めているが、先進的な取り組みを導入したいというFCオーナー様もおり、一部のFC店でも稼働している。25年3月期までに300店に導入する計画だ」と述べている。

ソフトバンクの次なる手に注目

 こうしたなか今後、注目されるのはテレイグジスタンスの出資者であるソフトバンクグループ、および同社のロボティクス事業グループ企業であるソフトバンクロボティクス(株)の動きだ。ソフトバンクグループはソフトバンクロボティクスを通じて、TX SCARAの量産をサポートするなどテレイグジスタンスとは出資前から関係性があるが、出資によってより様々な連携が出てくることが予想される。

 ソフトバンクグループは、出資した企業の技術をグループ内の企業で応用展開するといった戦略をとることが多い。つまり、技術力の高い企業に出資したあと、その技術を活かしてソフトバンクグループ内で新たな製品を生み出し、ソフトバンクグループのネットワークを活用して販売を拡大する戦略をとっている。例えば、ソフトバンクが提供しているスマートフォン決済サービス「PayPay」も、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資しているインド最大の決済サービス事業者「Paytm」と連携して開発されたものである。

 こうした取り組みはロボティクス関連製品でも同じで、ソフトバンクグループは小型2足歩行ロボット「NAO」を手がける仏アルデバランロボティクス社への出資を機にロボティクス分野へ参入し、人型ロボット「Pepper」(ペッパー)の開発につなげていった。そして、AIソフトウエア「Brain OS」を手がけるブレイン・コーポレーション(米カリフォルニア州)への出資を経てAI清掃ロボット「Whiz」を商品化。また、ロボットベンチャーのBear Robotics(米カリフォルニア州)へ出資し、同社との共同で開発したものが配膳・運搬ロボット「Servi」である。さらに、ロボット技術を活用した自動倉庫システムを手がけるオートストア社へ21年に出資し、22年から物流倉庫分野のロボティクス事業を開始した。

 こうした傾向をみると、1つの可能性が浮上する。ソフトバンクロボティクスによる小売業向けロボティクス事業への参入だ。つまりテレイグジスタンスの技術を活用して、ソフトバンクロボティクスが小売分野のロボティクス製品を開発・提供するというものであり、24年にこうしたアナウンスがあってもおかしくはない。23年5月に新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行したあと、小売業の活動が活発化していることを鑑みると、小売業における人手不足もこれまで以上に深刻化することが予想され、関連するロボティクス分野の動きも高まってくるだろう。


電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島 哲志

サイト内検索