電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第569回

経産省の半導体ばらまき補助金の投入が始まった!


キオクシア、ローム・東芝連合、村田製作所まで拡大のサプライズ

2024/3/1

 何かと言えば、台湾TSMCの熊本新工場に対する経産省の補助金がいつもいつも取り沙汰されているのだ。TSMCの熊本第1工場は1.2兆円を投入し、2月24日に開所式を開催した。引き続き第2工場の建設に着手するが、こちらは2兆円と値が張るのである。あわせて、3.2兆円の大型投資になるが、政府筋はこれまた半額近い補助金を用意したいと言い出している。

 ところがどっこい。最近になっては、日本企業に対してもかなりの補助金をつけることを前面に打ち出している。キオクシアと米ウエスタンデジタルによる最先端半導体メモリーの量産を支援することを決めたのだ。両社の投資額は7290億円であり、経産省は約2400億円を補助する。四日市工場は月産6万枚、北上工場は月産2万5000枚の生産能力を予定しており、ともに2025年9月の初出荷を目指すのである。

 そしてまたロームは、宮崎新工場を含めてSiCパワー半導体に対し、5000億円の巨大投資を構えている。なんといったら良いのだろう。ロームの現在の売上とほぼ同じくらいの設備投資をしてしまうのであるからして、サプライズというほかはない。しかして、この裏には東芝がいるのである。ローム・東芝連合が巨大投資を構えるのであれば、経産省は「それはとても良いことね!」とばかりに大型補助金を考えたいとしているのである。

 さらに加えて、政府は半導体ばかりではなく、特定重要物資に先端電子部品を加えたいと言い出した。これは、積層セラミックコンデンサーが念頭にあるのだ。具体的には、村田製作所が出雲村田製作所に積層セラミックコンデンサーの新生産棟を建設するが、この投資470億円に対し、補助してもよいと考えているようだ。

経産省は半導体分野に次々と補助金を投入している
経産省は半導体分野に次々と
補助金を投入している
 これは実に画期的なことなのである。一般電子部品の企業の設備投資に政府が補助金を出したことはない。こうなれば、コネクターなど他の電子部品にも政府の補助金がつきはじめるのかもしれない。

 設備投資ばかりではなく、NTTなどの次世代半導体開発に対しても大盤振る舞いともいうべき補助金を正式発表している。支援する対象は情報伝達を光に置き換える光電融合素子であり、なんと452億円を補助すると言ってのけたのである。

 確かに、この技術はNTTが世界の先頭を行っているわけであり、なんとしてもここを強化したいという思惑が見え隠れする。これに関連して、半導体パッケージ基板の新光電気工業さらには、光半導体開発に注力する東北大学などにも補助がついていくことになりそうなのである。

 半導体による国家づくりに対して、自民党政府は大きく舵を切ったとも言えるわけだが、あの政治献金の闇隠しの解明をちゃんとやらない限り、多大な税金を半導体や電子部品に投入することを反対する国民も、いないとは言えないだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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