米中の半導体覇権戦争がエスカレート的に深化するなか、米中の板挟み状態である韓国は米国寄りの姿勢を鮮明にしつつも、国内での大規模な半導体支援策も打ち出している。尹錫悦（ユン・ソンニョル）大統領は人工知能（AI）半導体市場の先取りとAI強国への飛躍に向けて、果敢かつ画期的な支援に取り組む。

　尹大統領は4月9日、ソウル市龍山（ヨンサン）に位置する大統領室にて「半導体懸案の点検会議」を主宰した。「国家総力体系を整えるために韓国政府は、半導体産業の誘致のための投資インセンティブ優遇などを全面的に見直す」とし、「日米台など半導体主要国の投資環境と支援策を総合的に比較分析し、韓国ならではの果敢な支援策を用意している」と意気込んだ。尹大統領は具体的な支援金額はまだ明かさないものの、京畿道龍仁（ヨンイン）半導体メガクラスター建設を言及しつつ、電気と工業用水を政府次元で供給すると述べた。


　前述の半導体主要国のうち、米国は半導体工場の誘致のために天文学的な補助金を支援する。日本も40年ぶりに国家レベルでの半導体支援を進めている。韓国もそれに遅れを取るまいと積極的な支援を通して、グローバル半導体市場における競争優位を狙っている。例えば、国家戦略技術の投資税額控除の適用期限延長を進めるほか、半導体メーカーの負担についてはいままで適用してきた財政支援件数の制限（2件）を廃止する。特化クラスター別の支援割合は従来の5～30％から15～30％へ上方修正するなど予算支援を拡大する。

　AIとAI半導体分野においては、2027年までに総額9兆4000億ウォン（約1兆444億円）を支援する。「韓国がかつての30年間をメモリーで世界制覇した如く、これからの30年間はAI半導体で新しい半導体神話を創り上げていきたい」（尹大統領）と強調した。韓国はとりわけ、高帯域幅メモリー（HBM）にプロセッシング機能を追加した「P-HBM」をはじめ、人工神経網プロセッサーの神経網処理装置（NPU）やニューロモーフィック基盤の韓国型AI半導体などへのR&D投資を増やし、スーパーコンピューティング・データセンターである「Kクラウド」とオンデバイスAIを採用した「スタンドアロンスマートデバイス」などで半導体市場を牽引していきたいとしている。

メガクラスターに622兆ウォン

　韓国政府は、総額622兆ウォン（約69兆円）が投入される「半導体メガクラスター」建設の初期段階における電力と用水などのインフラ施設問題に対する解消を急ぐ。半導体のインフラ構築に協力する地方自治体に財政的な支援ができる法的根拠を備える計画だ。

　韓国産業通商資源省は、冒頭の尹大統領の点検会議において、そうした内容を骨子とする「グローバル半導体サプライチェーンの動向および半導体メガクラスターの推進方向」を議論した。この日の会議では台湾東部沖地震で生じうるグローバル半導体サプライチェーンのリスクなどを点検。また、半導体メガクラスターを迅速に建設するための段取りを尹大統領が直接に確認する場となった。この会議にはメガクラスター建設の関係省庁を筆頭に、サムスン電子やSKハイニックス、ネイバーなどの関連企業も参加した。

　韓国政府は24年1月、半導体メガクラスター建設に622兆ウォンを投じ、16棟の新規ファブ建設に向けた国家プロジェクトを打ち出したことがある。4月9日に発表した措置はメガクラスター建設をスピーディーに建設したいという韓国政府の意思がうかがえる。尹大統領は「国家のすべての力を結束し、世界最大級の半導体メガクラスター建設を必ず成功させたい」と胸を膨らませた。

　韓国政府は半導体インフラ施設の建設が近隣地方自治体の反対などで遅延されるのを防ぐために「先端産業法」を改正する。つまりは、インフラ施設を建設する地方自治体に財政的な支援ができる法的根拠を整えるのが骨子だ。

　メガクラスター敷地内の電力や用水などのインフラ施設は、23年10月に10兆ウォン（約1.1兆円）強規模の公共機関による予備妥当性調査が免除されただけに、関連公共機関（韓国電力、韓国水資源公社など）が速やかに手配する計画だ。

　サムスン電子は47年までに360兆ウォン（約40兆円）を投じる「龍仁システム半導体メガクラスター」には環境影響評価の事前コンサルティング制度の活用、迅速な土地補償制度などで建設期間を最大限に短縮する。SKハイニックスは2045年までに122兆ウォン（約13.5兆円）を投じる「龍仁半導体メガクラスター」で、すでに確保済みの用水27万tのほか追加の用水供給策を迅速に決める。韓国政府はまた、半導体投資のインセンティブ支援策も早期に固める。

　先日の半導体の点検会議で尹大統領は「半導体メガクラスター建設には戦時に匹敵する水準の総力戦で臨みたい」と強い意志を表した。