電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第606回

AI半導体の王者エヌビディアはソフトバンクと提携、ラピダスへの生産委託も検討


ニッポンの希望の星プリファードはAI向けGPUに比べて処理速度10倍を開発

2024/11/29

 エヌビディアのCEOであるジェンスン・フアン氏はここにきて日本贔屓であることを徹底的に強調しはじめた。日本は常に大切な存在であり、日本のセガサミーや任天堂などのゲーム会社とともに歩んできた歴史を重視するというのだ。日本という国がなければ、いまや世界半導体のトップに君臨するエヌビディアは、今日ここに存在してなかったとさえ言い切るのである。

 エヌビディアのフアン氏は、ソフトバンクグループの孫正義会長とも対談を行い、AIの発展に向けてロボティクス技術の重要性を説いている。AIとロボティクスが新しい産業革命を生み出すと確信しているのである。日本がロボティクス産業に必要な技術、メカトロ技術とその製造技術を持っていることを徹底評価しているのだ。

日本市場を重要視するエヌビディアのジェンスン・ファンCEO
日本市場を重要視するエヌビディアのジェンスン・ファンCEO
 「ソフトウェアやAIだけではロボティクス産業を創出できない。日本は自動車生産国でロボットも生産している。重工業もあり、エレクトロニクスもある。日本は最適な国なのだ」(フアン氏)

 筆者はこのフアン氏の談話は非常に的確に日本を評価しているなと感心した。最先端の産業ロボットにおいては、安川電機、ファナック、川崎重工業など世界に知られるロボット企業が多くあるのだ。そしてまた、日本の自動車企業はブランド別シェアにおいて世界トップを走っている。さらにいえば、三菱重工業や住友重機械工業などの重化学工業についても優れている。こうした日本の強みとAI技術のクロスオーバーによって素晴らしい世界が待っているというフアン氏の主張に対して、まったく同感なのである。

 「現在、自動車は世界で年間約1億台生産されているが、将来的には世界で人型のロボットが年間10億台生産されるだろう」(フアン氏)

 そしてまたフアン氏はこれまでTSMCにAI半導体の生産を徹底依存してきた。しかし、将来的には最先端半導体の量産を目指す日本のラピダスへの生産委託も十分にあり得ると言っているのだ。

 一方、ニッポンの半導体ベンチャーとして希望の星といわれる「プリファード」は生成AIを利用する時に情報処理に特化した新型半導体の開発に入った。データを高速でやりとりできる設計を採用し、エヌビディアのGPUなど既存の製品と比べて処理速度を最大10倍にするというのだ。26年にもサンプル出荷に持ち込む考えだ。

 日本企業はAI半導体については、エヌビディアなどの海外企業に依存しているが、その領域で何としても開発力を高めたいと、強い意志を示している。そして、プリファードは日本のファブレスであるからして、生産は外部に委託するのであるが、これまたラピダスに発注する可能性も十分にあると言われているのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索