電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第601回

次世代HBM用ボンディング技術


メモリー主要3社、当面は既存技術を活用

2025/5/9

SKハイニックスのHBM4 12層製品サンプル
SKハイニックスのHBM4 12層製品サンプル
 現在の半導体市場は、AI中心に大きく成長しており、それに伴ってAI半導体の注目度がますます高まっている。メモリー市場では現在、次世代HBM(High Bandwidth Memory)の開発が非常に活発で、引き続きSKハイニックスがトップシェアを維持している。HBMは2013年から半導体市場に登場し、第1世代(HBM)、第2世代(HBM2)、第3世代(HBM2E)、第4世代(HBM3)、第5世代(HBM3E)まで市場に投入されており、現在は第6世代HBM4の開発の最中にある。HBMはチップの層数によってパフォーマンス(帯域幅や容量)が向上するため、DRAMチップの間隔(ギャップ)を詰めてHBMの総厚みを薄くする新しいボンディング技術の重要性が高まっている。

フラックスレス(Fluxless)ボンディングが急浮上

 HBMの高積層化のための新しいボンディング技術のうち、近年フラックスレス(Fluxless)ボンディング技術が注目されている。まだ研究開発の段階で評価されているが、業界では次世代ボンディング技術として高く評価されており、主要メモリー3社もフラックスレスボンディング技術の導入を検討している。

 3社のうち、サムスン電子とマイクロンはHBM製品の積層技術として絶縁接着フィルム(NCF)を重ねてから熱・圧力を加えてチップを結合するTC-NCF方式を採用している。一方、フラックスレスボンディングは、「MR-MUF(Mass Reflow Molded Under Fill)」と呼ばれる技術で、フィルムを使わずに液状の封止材料を活用する。MR-MUFはDRAMを1つずつ積む度に熱で接合した後、各チップ間に封止材を注入する。封止材は各チップを支える「アンダーフィル」と外部汚染防止などの役割を果たす。

 既存のMR-MUFにはバンプに残存する酸化膜を除去するためにフラックスを塗布した後、洗浄する作業を行っている。だが、HBM4から以前に比べてDRAMの積層数が多くなればバンプ間の間隔も減ることになる。この場合、フラックスがしっかり洗浄されず、チップの信頼性に損傷が生じる可能性が高くなる。このような問題により、業界では新しいボンディング技術を考案している。

メモリー3社の採用動向

 サムスン電子とSKの韓国メモリー2社は、次世代HBMボンディング技術のうちフラックスレスを検討しているが、実際に適用されるかは未知数。現在、サムスン電子は既存ボンディングであるNCF技術の高度化とともに、次世代ボンディング技術である「ハイブリッドボンディング」に対する研究開発も並行している。

 ハイブリッドボンディングはバンプなしに銅配線を直接付けるため、HBMの厚さを減らすことに有利となるが、まだ技術的成熟度が不足している状況といえる。これにより、サムスン電子は今後の次世代技術としてNCF、フラックスレス、ハイブリッドボンディング、この3つの技術をすべて検討し、今後の計画を立てるとみられる。

 SKハイニックスも既存技術に加え、ハイブリッドとフラックスレスボンディング技術を検討している。SKハイニックスの場合、MR-MUFを採用してきたことから、フラックスレス技術の適合性が高い。だが、これまでMR-MUF技術を持続的に扱ってきたことで、フラックス洗浄に対する技術的ノウハウがかなり蓄積されたと評価されている。業界では、現在はMR-MUFでも十分に対応できるが、DRAMの積層数が上がってチップ間の間隔がさらに狭くなることになれば、ハイブリッドやフラックスレスボンディングを使わざるを得ない状況になるとみられている。

 マイクロンもフラックスレス技術の導入を検討中だ。業界筋によれば、マイクロンは25年第2四半期からフラックスレス装置に対する品質テストを行う見通しで、26年から量産予定であるHBM4からはフラックスレスボンディングを適用する可能性が高くなっているという。品質テストにはK&S、ASMPT、ハンミ半導体など世界各国の主要ボンダーメーカーが参加する計画だ。

JEDEC、HBM4の積層高さを775μmに緩和

 JEDEC(半導体技術協会)は、HBM4の標準規格を775μmで決定したと最近発表。これは当初検討していた720μmより高まった数値となる。高さが既存の案どおりに決定されたとすれば、メモリー社が使うDRAM接着方式では具現化が難しいことに加え、新しい次世代工程などを導入しないといけない問題を考慮し、業界の意見を反映して高さ規定を緩和した。これにより、メモリー3社はしばらく既存技術を高度化してHBM4を量産するとみられる。だが、HBM5など長期的には次世代ボンディング技術を採用しなければならないことから、ハイブリッドやフラックスレスボンディングの導入に関しても体制を強化すると予想される。

 今後量産見通しのHBM4からの競争はより激しくなると予想される。SKハイニックスはすでにHBM4の12層製品のサンプルを提供しており、サムスン電子は25年下期からHBM4の量産に向けた準備を進めている。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 嚴 智鎬

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