電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第603回

半導体フォトマスク市場、1兆円の大台突破へ


外販市場も拡大、EUV登場が好転のきっかけ

2025/5/23

 フォトマスクは半導体露光工程における「原版」の役割を果たすものとして、露光装置、レジストと並んで重要部材の1つだ。多重露光技術の進展に伴い、最先端プロセス向けにマスク需要が拡大を続けるほか、EUVマスク市場も本格的に立ち上がってきた。


 2024年(暦年)の半導体フォトマスク市場は、前年比21%増の9700億円規模になったと推定される。EUVは前年のマイナス成長から一転して大幅なプラス成長を記録したほか、光(DUV)向けも伸長。25年も引き続き成長が見込まれ、いよいよ1兆円の市場規模に到達しそうな勢いだ。


24年は再び成長軌道に

 24年の半導体市況は、AI分野は好調に推移したものの、民生や自動車、産業機器向けの需要が低迷。半導体メーカーの業績も濃淡があったが、半導体マスク市場は開発・試作ニーズの需要に大きく左右されることもあり、好調に推移した。光マスクが主体の成熟世代は、半導体市況悪化の影響を受けて、量産需要は軟調だったものの、開発用マスクのニーズが予想以上に好調だったもよう。

 EUVマスクは23年に一部調整局面となったが、24年は再び成長軌道に入り、需要は好調に推移したものとみられる。EUVはロジック分野における採用企業の増加や微細化の進展、またDRAM分野での本格採用が市場拡大を後押しした。EUVの適用レイヤーを最小限に抑えるといったリソグラフィーコストを見直す動きがあったものの、開発・量産双方におけるEUVマスクの需要は堅調に推移した。

EUV台頭が契機に

 半導体フォトマスク市場は内製市場と外販市場に二分される。内製とは半導体メーカー自らがマスクを自社で製造するもので、TSMCやサムスン電子、インテルなどの大手半導体メーカーは内製マスクを志向している。一方、外販市場とは社内にマスクショップ機能を持っていない半導体メーカーが外部のマスクメーカーから調達することで形成されている。

 2010年代以降、TSMCやサムスンの勢力拡大を受けて、内製市場が大きく拡大。マスク市場全体の約7割が内製で占められるようになり、外販マスク市場は成長が頭打ちになり、厳しい事業環境に置かれていた。

 しかし、EUVリソの登場が外販市場に大きな変化をもたらしている。内製メーカーはEUVマスクを自社で立ち上げるため、投資負担軽減の観点から既存の光マスクのアウトソースを積極的に活用するケースが増えている。これまで大手企業の光マスクが外販市場に流れてくるのは限定的だったが、その様相が大きく変わり始めている。

 そして、内製メーカーにおけるマスク生産・調達方針に変化が出てきたことに加えて、大きいのが外販市場にEUVマスクそのものの需要が立ち上がってきたことだ。27年から2nm世代の量産を目指すラピダスは、マスクに関して全量外部調達を基本としており、国内大手のテクセンドフォトマスク(旧トッパンフォトマスク)、大日本印刷(DNP)がその供給元として名乗りを上げている。長らく、EUVマスクの需要は外販市場では立ち上がらないというのが定説であったが、ラピダスの誕生がこれを大きく変えた。

EUV向けペリクル、CNTが本命に浮上

リンテックはEUV用CNT製ペリクルの量産化にめど
リンテックはEUV用CNT製ペリクルの量産化にめど
 EUVマスクは現状、保護膜の役割を持つペリクルを装着していないケースが主流だ。しかし、コンタミやパーティクルの懸念からDUVと同様にペリクルを装着した方が望ましいとの声も強まっており、EUV向けのペリクルの開発が活発化している。

 EUVリソに適合する透過率や耐久性、耐熱性を持ったペリクル素材として現在注目されているのがCNT(カーボンナノチューブ)だ。DUV用ペリクル大手の三井化学に加えて、リンテックなども新規参入を表明しており、市場が活性化している。

 リンテックは、24年に開発中のEUV露光機用カーボンナノチューブ(CNT)製ペリクルについて、量産化の見通しが立ったと発表した。2025年度内に量産体制を確立する方針だ。

 同社グループでは、CNTシートを開発している米テキサス州の研究開発拠点「Nano-Science & Technology Center」において、高耐久のCNT製ペリクルの開発に着手し、23年に要素技術を確立。また、同年10月には産業技術総合研究所(産総研)と量産化技術の共同研究を開始し、24年7月に同社グループが独自開発したCNT製ペリクルの量産機の立ち上げに成功し、量産化の見通しを立てた。

 リンテックは、産総研と次世代半導体デバイス製造向けナノリソグラフィー要素技術の共同研究を行うとともに、同社グループでは量産体制確立に向け、テキサス州のほか、国内の研究所(さいたま市)でペリクルの要素技術の開発を推進。また、半導体関連装置などの設計・開発拠点「伊奈テクノロジーセンター」(埼玉県伊奈町)で独自設計の量産機を開発し、EUV透過率測定装置などペリクル特性の評価装置の開発も行っている。これらの研究開発成果を結集し、25年度内に量産体制を確立する。第1次量産体制の構築までに約50億円を投じる計画だ。

中国マスク製造が活況

 近年、中国ではフォトマスク市場に新規参入する企業が相次いでいる。外販市場では半導体メーカーのマスク製造部門が分離独立するケースが増えている。

 有力外販マスクメーカーの一角を担う山東省済南市のQYマスク(泉意光罩)は、もともと新興ファンドリーのQXIC(泉芯集成電路)のマスク事業部門として設立された。

 QYマスク以外にも、半導体メーカーのマスク製造部門が分離独立した事例は複数ある。DRAM大手のCXMT(長シン存儲科技)から分離したHGマスク(合光光掩膜科技)は約50億元を投資し、安徽省合肥市にマスク工場を建設。中国ファンドリーのシーオン(SIEn、芯恩集成電路)から分離したQFマスク(敬方科技)や、130nm以上対応のZWマスク(中微掩模)、55/45nmの製造が可能なニューレイマスク(新鋭光掩膜科技)などもマスクを生産している。

 外販企業が台頭する一方で、中国のマスク製造企業で最も技術力が高いのはSMICだ。SMICは以前からマスクを内製化しており、ファーウェイのスマートフォン向けに供給しているといわれている7nm対応のアプリケーションプロセッサー向けも内製しているもようだ。


電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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