国内プリント配線板などの専門展示会「電子機器トータルソリューション展2025」(JPCA Show 2025)が、先ごろ東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催された。来場者数は国内外から3日間合計で4万9760人、出展者は442社/1197小間にのぼった。特に銅張積層板(CCL)やダイレクトイメージング(DI)装置などの海外有力企業の出展も目立ち、製品ラインアップの拡充ぶりや事業拡大のための投資に言及する企業もあった。製品の完成度の高さや価格競争力を持つ中国勢の本格参戦で、これまで比較的、競争優位にあった日本の基板関連産業(製造装置、部材・副資材など)の立場も、いつまでも安泰とは言えない状況だ。思い切った事業戦略が求められている。
プリント配線板市場もグローバルでみれば、AIサーバー関連の需要増に牽引されて、メーン基板や半導体パッケージ基板への旺盛な引き合いにより、ZDテックやユニマイクロン、深南電路など、関連する企業各社の業績は好調に推移している。日本にいると見えにくい部分ではあるが、国内にはサーバーや高性能チップのサプライヤーがほぼ全滅状態のため、関連する電子部品などの好不況の肌感覚がダイレクトに伝わりにくくなっている。変わって、中国や台湾勢は自国市場や大手EMS企業の活躍で、プリント基板などの電子部品からの調達をほぼ中華圏で完結できるサプライチェーンを構築、現在の好況の波にうまく乗っている。
世界の基板産業は右肩成長に回帰
台湾プリント回路協会(TPCA)らが調査した、台湾基板産業の2024年ならびに25年の最新生産・販売レポートによれば、24年の生産額は8168億台湾ドルに達し、前年比6.1%増を記録した。AIサーバーと衛星通信が牽引役として基板業界を盛り立てている。システムの高性能化に伴ってハイエンドHDI(ビルドアップ)基板の需要が急増し、基板市場のなかで最も成長率の高い製品となった。車載エレクトロニクスも上昇し、スマートフォンとメモリーセクターの緩やかな回復も基板産業を下支えした。25年も引き続き、サーバーやエッジコンピューティングにおけるAI関連需要の増加、そして衛星通信市場の拡大により、基板生産額は8541億台湾ドルに達し、前年比4.6%成長を見通している。
世界では投資の動きも活発だ。特にタイを中心としたASEANでは空前の基板投資ブームに沸き立つ。米中対立を背景とした地政学上リスクの高まりを背景に、基板業界でも「チャイナプラスワン」の動きが急加速している。タイ投資委員会によれば、24年までの過去3年間で、中国や台湾からの基板企業らを中心に130件以上の投資計画(9000億円弱)の申請がなされ、投資が実行中という。25年ごろから本格的に生産ラインの立ち上げが相次ぐ。1案件400億円、500億円超の大型案件も数多く、世界最大のZDテックやユニマイクロン、東山精密、深南電路といった大手どころが先を競って同国での生産拠点確保に動いている。
中国では2000年前後から、電子機器システムや基板産業の集積化が急速に進み、中国は世界のエレクトロニクス製品の製造基地へと変貌を遂げた。この間、CCLやめっき薬品などの部材を含む基板業界のサプライチェーンも確立され、中国のエレクトロニクス産業を確固たる地位へと押し上げたのだ。初期のころは、進出した装置・材料などの日系サプライヤーも競争優位を保ち、現地の基板企業らと右肩成長を享受できていた。
しかし、数年前から参入障壁が高いとされていたDIや高性能なレーザー穴あけ機の領域まで、中国の新興企業が手がけるようになり、日系の大手基板メーカーのなかにも積極的にこうした企業からの調達・採用を進めているところが出てきた。汎用クラスの機種では性能面でもそん色ないものが出回り始めており、さらに日系製品より3~5割も安いというのであれば、確実に海外製の導入事例は増えていくであろう。
台頭する中国系基板関連サプライヤー
今回のJPCA Show 2025には、右肩上がりの業績とシェア拡大で自信をつけた中華圏の基板装置関連や部材企業の出展が目立った。非常に高精度な位置決めや高生産性が要求されるDIをはじめ、レーザー穴あけ装置などのマーケットは従来、オーク製作所やアドテックエンジニアリング、三菱電機、ビアメカニクスなどの日本勢のサプライヤーが市場・技術を牽引してきたが、今回はハンズレーザーグループやDTECHなどの中国系新興企業が出展、先行する日系勢を追い上げる構図が見えてきた。依然、ハイエンド機種は日本勢が有利な戦いを進めているものの、いつ足元をすくわれるかもわからなくなってきた。
日本での基板メーカーが相対的に投資を絞り込む一方、前述のようにタイやマレーシアなどASEANで、中国・台湾勢は旺盛な投資を繰り出している。こうした、基板メーカーの“体力差”も加わり、日系の装置・部材サプライヤーは劣勢を強いられているようにも映る。
Han's CNCは基板関連産業の総合サプライヤー
ハンズレーザーグループのHan's CNCは02年に設立された会社だが、国内勢が圧倒的に強みを持つDI装置やレーザー穴開け装置市場で攻勢をかけている。回路ならびにソルダーレジスト用のDI装置のみならず、メカニカルドリルマシンからCO2/UVレーザー装置、ラミネーター、VCP電気めっき装置など、プリント基板の製造工程で主要な装置をほぼラインアップしており、いわば基板の総合プロセスサプライヤーの顔を持つ。同社はメカニカルドリル市場で1200台の出荷実績を誇り、中国シェアは6割を超えているという。またUVレーザー切断機は基板関連市場において中国ではトップシェアを押さえている。ガラスやセラミックなどの無機コア材の加工装置の開発にも注力、ダイレクト・リアクティブ・デポジション(DRD)方式による特殊なエッジ処理を施した装置などを展開する。無機材料の切断した端面を改質して強度の向上やパーティクル発生を抑制した加工が可能という。
DI市場では国内の有力企業と組んで、日本市場を本格開拓する動きも出てきた。源卓微納(MIKOPTIC)は、アドテックエンジニアリングと組んで、国内市場に本格参入する。源卓はソルダーレジスト向けのDIの品揃えを強化しており、中国市場でも存在感を高めている。日本市場でも比較的ラフな回路形成用途ならびにソルダーレジスト用機種を積極的に販売する。
TZTEK Technology社は、CO2レーザー加工機からDI、外観検査装置(AOI)などの一連の装置を揃える。高速高精度なガルバノ機構を搭載、独自のビジョン技術と組み合わせて中国市場で活躍する。815×660mmまでの大判にも対応でき、50μm径までの極小ビアの加工も可能という。X/Yリニアモーター速度は最大1000mm/秒と生産性にも配慮している。さらには回路ならびにソルダーレジスト対応のDIも市場に投入済みだ。ミドル~ハイエンドの機種を揃える。主力はL/S 12μm/12μmだが、L/S 4μm/4μmまでの細線化ニーズにも応える。汎用のパッケージ基板からリジッド基板のみならずFPC基板にも幅広く対応する。
同社は05年、中国・蘇州で設立された企業で年間売上規模は20億人民元(約400億円)にのぼる。全従業員2000人のうち半数がエンジニアや開発スタッフで占められているという。基板の装置関連(DI、CO2レーザー加工機、AOIなど)の売上高は全体売上の2割弱に上るという。
基板ビア加工用ドリルでも有力企業が台頭している。13年設立したばかりの広東鼎泰高科(DTECH)も注目株だ。この世界ではハイエンド品を含めて名実ともにナンバーワン実績を誇る日系のユニオンツールの牙城だが、中国市場においては徐々にローエンドモデルを中心にシャアを拡大しているのがDTECHなのだ。基板市場ではPCBドリルとしてシェアは3割弱に拡大、ルーターと合わせて月間販売数も1億本を突破した。折れにくいドリルの開発にも注力しており、独自の特殊加工した製品などの市場投入も急ぐ。新規に拠点の開設も準備中で、現在基板工場の集積が著しいタイに新たな生産工場の開設を急ぐ。主戦場であるAIサーバー用の高多層基板向けにも売り込んでいる。
思い切った事業戦略が求められる
日系サプライヤー企業も決して手をこまねいているわけではないのだろうが、残念ながら、現在進行中のASEANでの旺盛な投資から日系企業が恩恵を受けている印象は薄い。低コスト・汎用品を前面に押し出す中国勢との真正面作戦を回避しつつ、日系勢は得意とするハイエンドモデル市場をいかに死守していくか、今後、正念場を迎えることになりそうだ。有力な顧客とのコミュニケーションを密にしながら、競業他社よりも一歩先、半歩先に居ることを常に心がけながら、製品の差別化を徹底的に進めるしか手はない。また、国内市場だけに閉じこもるのではなく、タイやベトナムなど、盛り上がる地域での現地サービス網の拡充やアフターケアのサポート体制を着実に構築していくしか手はなさそうだ。相対的に日本の基板装置・部材企業は売上規模も小さく、投資や開発資金の調達に苦労しているところも多いと聞く。他社との資本提携や共同開発といった、一歩踏み込んだダイナミックな事業展開も視野に入れる必要もありそうだ。
電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広