電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第612回

米国で構築されるエヌビディア供給網


関係企業の投資計画が加速

2025/7/25

 2025年前半に最も注目を集めた地域の1つとして、米国が挙げられる。トランプ大統領による関税政策が多くの地域・企業へ影響を及ぼしており、25年後半も引き続き影響を与えるとみられる。その米国において着々と進んでいるが、エヌビディアのサプライチェーンの構築だ。

TSMCは米国でBlackwell生産

 エヌビディアのサプライチェーンは現在、同社のAI半導体を生産するTSMCや、AIコンピューティング機器の製造を請け負うフォックスコンなど台湾が主体である。しかし、エヌビディアはパートナー企業と連携し、米国でAI半導体やAIコンピューティング機器の生産体制を整備する方針を4月に発表し、今後4年以内に最大5000億ドル規模の製品を米国で生産する計画を打ち出した。

 まずエヌビディアのAI半導体を製造するTSMCは、24年末からアリゾナ第1工場(月産2万枚規模)の本格稼働を開始。そして現在までに、エヌビディアの先端アーキテクチャー「Blackwell」をベースにした半導体の生産もアリゾナ第1工場で行われている。

エヌビディアのAIコンピューティング機器も米国で生産
エヌビディアのAIコンピューティング機器も米国で生産
 なお、TSMCはアリゾナ第2工場も整備する予定で、28年の生産開始を予定。また、第3工場も30年までに生産を開始する計画で、TSMCはアリゾナ3工場の整備に650億ドル以上を投じることを表明している。さらに3月には米国での先端半導体製造に1000億ドルを新たに投資すると発表し、アリゾナ州における投資計画は1650億ドル規模にまで拡大している。1000億ドルの追加投資計画には3つの前工程ファブのほか、先端パッケージ施設2棟およびR&Dセンターの建設などが含まれており、今後10年間でアリゾナ州および米国全体で2000億ドル以上の経済効果を生み出すと試算されている。

後工程やHBMも米国で

 TSMCは24年10月に、OSAT大手のアムコー・テクノロジー(米アリゾナ州)と、アリゾナ州内におけるパートナーシップを拡大し、先端パッケージング分野で協力体制を強化する方針を示した。現在、アムコーはアリゾナ州ピオリアにおいて先端パッケージング工場を建設している。約22万m²の用地に、約4.6万m²のクリーンルームを備えた工場を建設する計画で、第1フェーズの稼働は27年ごろ、第2フェーズの稼働は34年ごろを予定。

 こうしたなか、TSMCはCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)といったTSMCの先端パッケージング技術に対応できる設備をアムコーの新工場内に導入する方針を示している。CoWoSはエヌビディアのAI半導体を製造するうえで非常に重要な技術であり、アムコーと協力し、より多様な製造拠点で顧客をサポートできる体制を構築する。

 AI半導体に搭載されるHBM(高帯域メモリー)をみると、エヌビディアのAI半導体にはSKハイニックス製のHBMが主に使用されている。そして、そのSKハイニックスはインディアナ州でHBMを含むAIメモリー用の先端パッケージング生産拠点を整備しており、28年後半の稼働開始を予定している。つまり、エヌビディアのAI半導体に関連する前工程、後工程、HBMの生産・供給体制が構築されつつあるというわけだ。

人型ロボットでの生産を検討か

 こうしたAI半導体の米国での生産ネットワークの構築とともに、エヌビディアは米国におけるAIコンピューティング機器の生産ネットワークについてもパートナー企業と構築を目指している。具体的には、テキサス州ヒューストンではEMS大手のフォックスコン、テキサス州ダラスでは同じくEMS大手のウィストロンと連携する。

 フォックスコンは2工場をリース契約しており、そのうち1工場がエヌビディアのAIコンピューティング機器を製造する拠点になるとみられる。ウィストロンは、新たに米国子会社の「Wistron InfoComm (USA) Corporation」を立ち上げており、土地や施設取得など関連投資額は総額9500万ドルに上る見込みだ。フォックスコンとウィストロンが整備するエヌビディア向けの製造スペースは合計約9万2900m²以上、量産は26年後半~27年初頭から本格化するとみられている。

 そしてさらなる取り組みとして、エヌビディアとフォックスコンが、テキサス州ヒューストンで整備されるフォックスコンの工場で、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)を生産工程に導入するのではないかと海外紙などで報じられている。本件について両社から正式なアナウンスはないが、フォックスコンは、エヌビディアが展開する高性能シミュレーション技術などを活用してロボットをトレーニングし、組立作業を効率化する取り組みをすでに進めている。そして、フォックスコンは人型ロボットを製造するUBTECH Roboticsとの提携を1月に発表するなど人型ロボットに関する取り組みを強化していることから、ヒューストンの工場に人型ロボットを導入する可能性も十分にあるだろう。

 ちなみに、フォックスコンがヒューストンで製造するAIコンピューティング機器は、人型ロボット用AIの性能向上に用いられる機器、つまりは人型ロボットの“頭脳”となる可能性も大いにあり、自らの性能を向上させるための機器を人型ロボットが生産するという、一昔前のサイエンスフィクション小説のような状況がもうすぐ起こるかもしれないと思うと少し怖くもある。


電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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