2025年1~3月期、DRAM市場で史上初めて業界No.1に浮上したSKハイニックス。13年ごろは韓国政府の法定管理下に置かれていたハイニックスをSKグループ(代表取締役会長・崔泰源、ソウル市中区)が電撃的に3.4兆ウォン(約3579億円)相当のCD(譲渡性預金)で買収した。当時は中国系がハイニックスの買収を目論んだが、韓国世論に押されて叶わなかった。売却先が現れず困っていたところ、SKの崔会長は大型ディールを成功させた。
それから5年後、SK(京畿道利川市)の18年通年連結営業利益率はなんと51%を記録し、SKグループが韓国財閥ランキング第2位というビッグジャンプを果たすのに大きく貢献。そしてまたSKは、人工知能(AI)向け高帯域幅メモリー(HBM)という化け物の登場により、メモリー半導体市場の構図を大きく揺らしている。
SKはHBM3開発に全力投球
メモリーの全盛期であった18年ごろ、サムスン電子(京畿道水原市)とSKはHBM3ビジネスを巡り悩んでいた。開発難易度は高い反面、売上高は少なかったためだ。これにサムスンはHBM3よりはモバイル向けDRAM中心に開発人材を投入した。つまりは、HBMビジネスのタスクフォース(TF)チームを解体水準に軽視してしまった。「HBMはGPUと一体化するため、開発タイミングを逃すと市場から淘汰されてしまう」(当時TFチームの1人)という強い意見も黙殺された。
その一方、SKの方はHBM3の開発に全力投球したのである。「規模の争い」であった汎用メモリー市場では巨艦サムスンをキャッチアップするのは容易ではないため、比較的に小さい市場のHBMで突破口を見出すと決議した。しかし、当時にSKは、HBMの検証過程でTSMCの消極的な対応に苦労していた。HBMをチップレットとして最終的にパッケージングするTSMCは、SKのやり方に非協力的であったのは事実だ。
NVIDIAは、SK以外の供給先を増やす意志が強かった。HBM2E(第3世代)まではNVIDIAのティア1供給メーカーであったサムスンは、HBM3開発にはどういうわけか消極的であった。ところが、21年10月にSKはHBM3開発に成功し、22年6月から量産に突入。NVIDIAからの高い信頼を得ることになる。
サムスンはHBM設計を見直すべきだ
HBMはGPUと混載してパッケージするため、最初に最適化に成功したHBM製品が「スタンダード・標準」となった。そして、一足遅れて供給しようと強請ってもNVIDIAは絶対受け入れないのが定説だ。サムスンが22年ごろに経験したHBM市場の原理なのだ。汎用メモリーは半導体技術協会(JEDEC)の標準どおりに作れば、後追い走者も製品供給は可能だが、HBMは極めて異なることが分かる。
23年にメモリー市場を不況が襲い、サムスンのHBM問題が浮き彫りになった。当時、サムスンの半導体部門は四半期ごとに営業赤字を余儀なくされた反面、SKはHBMの需要爆発により23年末から売上高が急増したのである。24年にサムスンはHBM開発チームを大々的に補強、開発したHBM3E(G5)の場合、NVIDIAへの納品は単価が問題となっている。SKに加えてマイクロンまでHBM市場でしのぎを削っていることから、NVIDIAがサムスンに有利な単価を提示することはないとみられる。
「サムスンはHBMの設計を見直さなければならない」と、25年1月に「CES2025」(米ラスベガス)にてNVIDIAのジェンスン・フアンCEOは指摘している。一時、「サムスンのHBMは後工程が問題だ」との主張が大勢であった。しかし、サムスンは24年秋口からDRAMの開発方法を原点から見直している。
ソウル証券街の半導体専門アナリストは、こう指摘する。「サムスンの費用中心の製品戦略に問題がある。生産コストに合わせてDRAMを設計すると、電力や熱といった特性が軽視される」という。大量な生産能力で汎用メモリー市場を席巻してきたサムスンの半導体戦略は、HBMのような高付加価値メモリーには通用しないことが分かる。また、インテルのCPU時代には技術標準と汎用性、互換性などが重要だったが、NVIDIAはAIシステムの性能を高めるために独自技術を使用することから、メモリーも技術的な多様性と柔軟性が必要ということだ。
今年のHBM市場は350億ドル見通し
世界半導体市場統計(WSTS)は、25年と26年のメモリー半導体市場の成長率をそれぞれ11.7%(1848億ドル)、16.2%(2148億ドル)と、半導体市場の成長率(それぞれ11.2%、8.5%)より高いと予測している(グラフ参照)。
このようにメモリー市場の増加率が比較的優位にあるのは、ひとえにHBMの影響が大きく作用するためだ。HBM市場を牽引するSKとマイクロンの業績が過去最高を記録している。HBMの需要が爆発的に増えた結果だ。マイクロンは、25会計年度第3四半期 (25年3~5月期)に売上高93億100万ドル、営業利益24億9000万ドルを計上したと、6月25日(現地時間)に明らかにした。売上高は前年同期比36.6%増、営業利益は同164.6%増と急増した。サンジェイ・メロートラCEOは「HBM売上高が前四半期比で約50%成長した」とし、「HBMに牽引されて当社のDRAM売上高は過去最高(71億ドル)を記録した」と述べた。
NVIDIAやAMDなどにHBMを供給しているマイクロンは、とりわけ第4四半期(6~8月期)の見込みとして売上高は前年同期比38%増、前四半期比15%増の107億ドルを計画している。また、26年のHBM市場についてメロートラCEOは「HBM市場規模は24年の180億ドルから25年には350億ドルに拡大する」とし、「26年にもHBMのビット増加率はDRAM全体の平均を大きく上回る見通し」と強調した。
SKは25年1~3月期のHBM市場シェアで70%強と断トツを誇る。1~3月期の同社売上高19兆7870億ウォン(約2兆828億円)のうち、DRAMは80%を占めている。AI半導体業界No.1のNVIDIAの戦略的なパートナーだ。エフエヌガイド(ソウル市江西区)の資料によれば、SKは4~6月期の業績見込みは売上高20兆2940億ウォン、営業利益8兆8397億ウォンだ。売上高と営業利益ともに過去最高を達成する見通しだ。24年10~12月期に9兆ウォン近くの営業利益を計上したSKは、25年4~6月期にも記録を更新するか注目される。同社はDRAM部門の営業利益のうち、約50%がHBMから発生したといわれている。
SKはHBM市場におけるさらなるシェア堅持のため、韓国清州市(忠清北道)に半導体後工程工場を建設する。AI半導体の需要が急増する状況下、パッケージとテスト工程の生産能力を引き上げて、後工程の競争力強化を狙う。SKは最近、社内公知を通して、かつて買い入れたLG電子工場の建屋を撤去し、P&T(パッケージ&テスト)7の建設計画を明かした。撤去は25年9月に完了する。このP&T7は、現在、同社の利川と清州工場などに分散されている後工程の第7番目ラインで、テスト専用ラインに活用される可能性が高い。SKは現状、HBM3EをNVIDIAに供給中で、25年の年間注文量はすでに消尽された状態だ。同社は25年3月に業界で初めて大口取引先に次世代のHBM4(G6)のサンプルを供給しており、25年内の量産を目指している。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴 在漢