電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第627回

大分電子工業(株) 代表取締役社長 藤田光興氏


自動化を追求する老舗OSAT
日本OSAT連合会にも参画

2025/5/23

大分電子工業(株) 代表取締役社長 藤田光興氏
 「竹のポリスから テクノポリスへ 脱皮かな」。(株)東芝 大分工場の第5代工場長・藤井昭宏氏の揮毫を今も大事に本社に掲げる大分電子工業(株)(大分県速見郡)は、1969年に東芝が大分市に半導体工場の進出を表明した際に、公募があった後工程の協力会社に真っ先に手を挙げ、当時の本業であった物干し竿メーカーからOSATに転身したという歴史を持つ。以来50年以上にわたって「圧倒的な品質」の確保に取り組み、無借金経営を続ける同社の現状を代表取締役社長の藤田光興氏に聞いた。

―― 貴社の概要から。
 藤田 70年に東芝大分工場が操業を開始したのに合わせて、当社も70年に本社日出工場を竣工して半導体後工程に進出し、72年には近隣の三重町(現・豊後大野市)に三重工場を完成させ、生産能力を拡大した。以来、チップ個片化後のウエハー受け入れ~ダイボンディング~ワイヤーボンディング~封止~マーキング~トリム&フォーム~外観・電気テスト~テープリールへの巻き取りという組立工程を一貫して手がけている。

―― 主な生産品目は。
 藤田 車載や産機、家電やゲームなど向けのCMOSロジックを中心に、パッケージ形態としてTSSOPおよびDIPを製造している。月産能力は、本社日出工場が1500万個、三重工場が6000万個。現在は東芝グループ向けが売り上げの9割以上を占めているが、近年は東芝グループ以外からの受注拡大にも取り組んでおり、徐々に成果が出始めてきている。

―― 品質の高さに自信をお持ちですね。
 藤田 品質とは、言い換えると「いかに人が製品に触れないようにするか」だと考え、できる限りの自動化を進めてきた。
 一例として、制御ソフトから自社開発した複合機「MATRIOTS」があり、マーキング以降の工程を人が触れることなく1台で行える。パッケージに圧力をかけることなく真空吸着で搬送するZレス搬送などの技術で、高品質を実現している。かつて顧客の要請で海外OSATにこの装置を供与したが、現地のメンテナンス力不足で十分稼働させることができず、結果として当社が買い戻したこともある。

―― 貴社エンジニアの熟練度も高いのですね。
 藤田 従業員120人のうち、製造スタッフが80人、技術スタッフが40人という構成だ。技術スタッフに関しては、特定の業務に固定することなく、設備保全、新製品の導入、新規装置の立ち上げといった一連の業務を経験できるようにし、技術の継承に努めている。

―― 足元の状況は。
 藤田 CMOSロジック製品は本来アップダウンが少ないはずだが、2024年夏から需要が低迷し、今も底ばいの状態だ。特に中国向けの産機需要が低迷している。ただ、一部の納期確認品で問い合わせが出始めたものがあるため、早期の回復に期待したい。

―― 地域コンソーシアム「大分県LSIクラスター形成推進会議」の企画委員も務めている。
 藤田 クラスターとしては、TSMCの熊本進出に伴って台湾企業との商談会を企画したり、業界セミナーを開催したりしている。また、産学共同研究の活性化も進めており、当社は大分高専でディープラーニングを研究する木本教授と画像検査にAIを活用する開発に取り組む。

―― 今後の方針は。
 藤田 まずは、東芝製品のIATF車載認証取得に注力し、東芝製品の拡販に最大限の協力をするとともに、新規取引先の確保に向けたアプローチを行っていく。先端半導体メーカーが300mmでの生産にシフトしていることもあり、6インチや8インチによる生産は、必要ロットが小さい産機の顧客にとって便利だ。そうしたニーズを当社の後工程にもっと取り込んでいきたい。また、現在は米国の相互関税の影響がまだ不透明だが、日本で生産を拡大したいというニーズが必ず出てくるとみており、そうした需要もきっちりと捉えたい。そうした期待感も含め、先ごろ設立された「日本OSAT連合会」に当社も参加させていただいた。

―― 人材や設備投資などに関しては。
 藤田 市況が厳しい最中だが、装置の老朽化更新は歯を食いしばってでもやっていく。不況下だからこそ地固めをやりたい。4月に地元の高卒者を新入社員として採用したが、学校との関係づくりにも力を入れていく。
 ちなみに、当社は離職率がきわめて低いことも特色の1つだ。京セラの創業者である稲盛和夫氏の「従業員の物心両面の幸せを追求する」を経営方針としており、勤務体系では、24時間操業でありながら、4班ではなく3班3直の勤務体系を敷いている。3班のうち1班は深夜固定シフトなのだが、一定の生活リズムで勤務でき、深夜手当が出るということで、夜勤希望者も多い。こうした制度面もさらに充実させ、人材の確保につなげていきたい。



(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2025年5月22日号6面 掲載

サイト内検索