(株)村田製作所(京都府長岡京市)は、スマートフォン(スマホ)向け高周波部品の減少などで2025年度は減収減益を計画する。一方、成長回帰に向けた布石は着実に打つ方針だ。代表取締役社長の中島規巨氏に話を聞いた。
―― 足元の動向から。
中島 米国の関税施策を受け、3~4月に前倒し需要があったが、5月は一服している。業績への直接の影響は軽微だが、セット台数が1%減ると50億円程度の減収となるため動向を注視していく。スマホや自動車市場では、積層セラミックコンデンサー(MLCC)、インダクターなどの値下げ要求が強まっている。また、大手スマホのプラットフォーム変更の遅れも高周波部品の減少につながる。一方、中国の自動車メーカーからMEMS慣性センサーの需要が強まっている。ソフトウエアデファインドビークル(SDV)向けに高機能なセンサーが求められていると考えられる。ゲーム機の新モデル向けも好調だ。
―― AIサーバー向けが成長領域になる。
中島 MLCC、インダクターなどに加え、下期から電源モジュールが本格拡大する。小型薄型で低消費電力が特徴の数~数十Vの品をラインアップする。国内外で増産を進めており、供給拡大を目指す。また、高圧対応の電源モジュールも26年以降に投入していく。
―― コンポーネント部品の戦略を。
中島 MLCCは全方位展開する方針を堅持し、ボリュームゾーンも押さえていく。中台の競合の特性やコストを分析し、現時点では勝てると判断している。ただ、一部の工程で外部リソースを活用するなど、必ずしも完全垂直統合にはこだわらない。一方で、先端製品は自社の一貫生産により競争力を確保する。インダクターはスマホなど民生で圧倒的に強いが、自動車・産業向けはトップではなく伸びしろがある。このほか、データセンターや自動車、医療機器ではシリコンキャパシターが優位性を発揮できる。
―― 高周波部品の巻き返しに向けては。
中島 次世代フィルターの「XBAR」は、Wi-Fi7向けに採用されている。25年内はスマホ以外に搭載されるが、26年にはスマホにも供給を予定する。5Gの発展形「5.5G」で必要な技術と認識している。高周波モジュールは中国で競争が激化し、苦戦している。一方、北米のハイエンド向けはプラットフォームの変革がカギだ。現在、3種のモジュールを提案しているが、うち送信用は搭載フィルターが多くシェアアップに寄与する。26年の変革に向け取り組んでいる。
―― 電池事業は。
中島 25年度の黒字化を必達とするが、5%の利益率を目指したい。パワーツール市場は在庫調整が進んで健全化した。また、再エネ用の蓄電システム向けにも展開を図り、将来的には2桁の利益率を目指す。全固体電池は、得意とする積層技術の転用を目指している。自動車向けは米国のスタートアップと協業する方針である。
―― MEMSはSDV向けで伸長が期待されます。
中島 現状の自動運転レベル2(L2)は既存のMEMSとアルゴリズムでカバーしており、当社の高機能MEMSはL2+以上が主戦場になるとみていた。技術の進展遅れで減損を行ったが、SDV向けの伸びで今後の利益貢献に期待が出てきた。
―― ソリューションの取り組みは。
中島 製造現場における予防保全や作業者のバイタル管理など、当社に期待される分野に大分収斂されてきた。東南アジアでは、交通監視用のトラフィックカウンターが増えている。
―― 設備投資計画を。
中島 25年度は前年度比895億円増の2700億円を計画する。中期的な需要に対し、先行投資して機会損失を防ぐ。また、福井県越前市の新研究拠点や島根県安来市の新工場の建設にも資金を投じる。海外ではインドで工場を賃借した。現地の法規制などの対応が目的だが、将来の現地生産も視野に入れる。
―― 25~27年度の中期方針について。
中島 前中期方針ではAI普及の影響を加味することができず、目標達成に至らなかった。新中期方針ではITインフラが大きく伸びるのを前提に、必要な手立てを急いでいる。今後はITインフラに加えて、スマホなどエッジデバイスにもAIが活用されていくため、双方での拡大を目指す。
(聞き手・副編集長 中村 剛)
本紙2025年6月26日号1面 掲載