1938年の創業以来、素材型デバイス創造企業としてのポジションを堅持し、2020年から台湾ヤゲオ傘下のグローバル企業として、世界を舞台にさらなる飛躍を遂げている(株)トーキン(宮城県白石市)。25年12月期の単体ベース売上高は前期比二十数%増の700億円弱、営業利益率20%超を果たし、過去最高益を更新した。同社代表取締役社長兼MSA事業本部長の片倉文博氏に、好業績の背景や増強計画、伸長製品など幅広くお聞きした。
―― 好業績の背景は。
片倉 キャパシタ事業、MSA(マグネティック・センサー&アクチュエーター)事業の両事業でAI関連が寄与している。キャパシタ事業ではAI PC用が好調で、生産は24年比120%とフル稼働を継続できた。ヤゲオグループであるKEMETのメキシコ、蘇州(中国)などの各工場での生産分を含めても稼働率は90%を超えている。数年前に確保したタイの土地活用なども候補に、どこかのタイミングで投資検討もあり得る。
―― MSA事業では大型案件を受注されました。
片倉 3年間の大型プロジェクト(PJ)「Spring-8-Ⅱ」で蓄積リング用磁石を受注し、25年10月から出荷を開始した。3年間で2275台を納入予定であり、このPJ関連で累計売上高174億円規模を見込む。一方、需要が弱含んでいる半導体装置向けピエゾアクチュエーターは、7月以降の回復を見込む。これに伴い、4~6月に減産調整中の白石事業所の生産も7月から元に戻していく予定である。
―― AIサーバー向けもMSA事業を牽引します。
片倉 旺盛なAIサーバー用パワーモジュール向けインダクター(東北大学の牧野彰宏教授が開発したナノ結晶軟磁性合金「ナノメット」使用)の需要に対応するために、24~25年度の2年間累計で約20億円を厦門工場とベトナム工場に投じた。
25年は第1世代品約7000万個を生産した。次の第2世代品も立ち上げ中であり、26~27年の2年間で約40億円を投じて、まずは厦門工場に生産ラインを準備するが、27年度内にはベトナム工場にも生産ライン導入を検討していく。
厦門工場には、ナノメットを使ったインダクター成形に必要な、高温下で機能するプレス機を導入済みだが、26年は25年比倍増の1億4000万個の生産を計画しているため、投資金額の一部をこのプレス機追加導入に投じる予定だ。一方、技術面では先々のパワーモジュールの方向性を見据えて開発に取り組んでいる。
―― 民生用については。
片倉 25年度にリリースした当社独自のSMDインダクター型のアンテナが好調で、業績に寄与している。特許取得済みのプリント基板をアンテナ代わりに使い、磁性シートを用いず回路基板を利用し、かつ通信電磁波部をブーストして、データの送受信が可能な点を特徴とする。また、従来は困難だった自動機での製造ができることへのお客様からの評価も高い。今後、ヤゲオグループの英知も活用しながら、さらに小型薄型化した製品開発にも挑戦し、スマートフォンや車載向けなどへの用途拡大も見据えていく。
―― 車載向けの状況については。
片倉 欧州では電動車向けインダクターの新規受注、国内ではインダクターやリアクトルなどが好調で、25年度の車載向け売上高は前年度比3%増を達成できた。26年度は日系自動車メーカー各社の次期モデル向けのデザインイン活動が始動する年であり、受注獲得を目指す。受注した折には、将来の量産に向けてハイエンド品の生産に長けた白石事業所での生産を見据えていく。また、AEC-Q200準拠のスーパーキャパシタSMDタイプの新製品を27年内に上市予定だ。
Mn-Znベースの当社独自のフェライト材料を使った車載向け分割型EMIコア製品「ESD-SR-XVEシリーズ」も、低~高周波での高いノイズ抑制効果が好評である。そのほか電気自動車の急速充電器など向けノイズフィルター「GTXシリーズ」や、車載以外では新製品の高速駆動ピエゾアクチュエーターのディスペンサーへの展開など、製品ラインアップの幅を広げている。
―― 国内拠点での投資計画はありますか。
片倉 白石事業所に数億円を投じて、医療用ガイドワイヤーの能力を2割増やす投資を実施中である。また、顧客ニーズに対応し、環境規制材料を使用しない新製品を開発中であり、この新製品生産に向けて10億円近い投資を行い、27年量産に向けて26年内に設備導入も計画している。
―― 今後も躍進が期待できそうですね。
片倉 材料からこだわりの技術力・製品群、かつお客様のお困りごとに寄り添った最適提案、デモ実演などでお客様との信頼関係が深まっている。また、自身が社長就任時に目標に掲げたグローバルニッチナンバー1の意識が、今では全社員に浸透していることも頼もしい。
正の循環は人材採用にも波及しており、地元の若手人材獲得にもつながっている。今後も素材型デバイス創造企業として世界に挑戦し続けていきたい。
(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2026年5月7日号5面 掲載