空前のAI投資でメモリーの需要が高まり続けるなか、ブラウンフィールドでNANDフラッシュの生産能力増強を継続しているのがキオクシア岩手(株)(岩手県北上市)だ。代表取締役社長の柴山耕一郎氏に現在の取り組みや今後の展望を聞いた。
―― ご略歴から。
柴山 三重県桑名市で生まれ、名古屋大学工学部で金属工学を学んだ。地元志向もあって、当時ダイナブック向けのプリント配線板の量産工場を立ち上げようとしていた東芝の三重工場に配属された。
1997年に四日市工場に異動してからはDRAMやNANDの生産技術に携わり、歩留まり向上に寄与するインライン検査システムを立ち上げるなど生産技術分野を担当した。岩手に赴任したのは2021年からだ。
―― メモリー市場が空前の活況を呈しています。
柴山 「世界トップになる」という目標を掲げて常に邁進しているが、生産を拡大するという点では今が絶好のチャンスだ。第1製造棟「K1」は製造装置をフル実装してフル稼働の状況にあり、25年9月から第2製造棟「K2」も稼働を開始した。K2は、本格的に装置を搬入し、立ち上げていく段階にある。クリーンルーム(CR)の実装済みエリアはまだ製造スペース全体の一部で、詳細なスケジュールはお話しできないが、残りスペースのCR化を含めて積極的な能力増強を継続する。
―― K2の量産中の製品は第8世代のNAND(218層品)ですね。
柴山 3次元構造のBiCS FLASHで、主にサーバー向けを中心としたAI用途に供給している。メモリーセルとドライバーとなるCMOS回路をCBA(CMOS directly Bonded to Array)と呼ぶウエハー貼り合わせ技術で一体化したもので、当社ではCBAの工程までを一貫して手がけている。顧客から高い評価をいただいており、ウエハー貼り合わせ技術で先行していることが評価につながっている。
―― 現有敷地内での拡張計画について。
柴山 K2の南側にも敷地を保有しており、まだ建設余地はある。ただし、現時点では新棟の建設を議論する段階にはなく、K2の残りスペースに実装していくことが最優先だ。
―― XL-FLASHやOCTRAMといった次世代メモリーを積極的に開発していますね。
柴山 XL-FLASHは、DRAMに代表されるワーキングメモリーと、現在のNANDフラッシュのパフォーマンスギャップを埋めることを目指して開発したストレージクラスメモリーだ。一方、OCTRAMは、酸化物半導体をチャネルに使用する次世代の低消費電力・大容量3D-DRAM技術だ。開発に当社は関与していないが、製造拠点として将来性に大きく期待している。当社としては、第8世代に続いて第10世代の量産をスムーズに立ち上げていくことに、まずは全力を尽くしたい。
―― 26年の事業方針について。
柴山 日本の芸道や芸術における修業過程を示す「守破離」でいうと、当社は「破」に入ったところにある。これまではマザーファブである四日市工場からすべてを学んできたが、今後は既存の型を打ち破り、独自の技術を確立していかなければならない。
現在、当社には派遣社員を含めて約2500人が在籍しているが、その約75%が現地採用、残りが四日市工場での勤務経験者である。前者の平均年齢が29歳であるのに対し、後者は49歳で、普通のマネジメントをしていては現場が回らない。だから「チーム力で戦おう」と呼びかけており、講演会や地域貢献活動など社員の交流が深まるような取り組みを積極的に行っている。
―― 今後の抱負を聞かせて下さい。
柴山 私はI-SEP(いわて半導体関連産業集積促進協議会)およびT-Seeds(東北半導体・エレクトロニクスコンソーシアム)で会長を務めている。これらは“卵の黄身と白身”のような関係にあり、東北における半導体人材の育成や関連産業のさらなる集積、産官学による先端R&Dの活性化を目的に活動している。当社が東北でリーダーシップを発揮することが、日本半導体産業の巻き返しにつながるような努力を今後も続けていきたい。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/特別編集委員 津村明宏)
本紙2026年4月9日号1面 掲載