電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第633回

日本OSAT連合会 事務局長 林力氏


国内OSATの交流促す
「量に対して質で対抗」

2025/7/4

日本OSAT連合会 事務局長 林力氏
 日本の半導体後工程産業がにわかに注目を集めている。きっかけは2025年4月に発足した「日本OSAT連合会」だ。半導体サプライチェーンの安定化が求められるなか、前工程では国内でも大型投資案件が立ち上がり、大きな注目を集めている。一方で、後工程はIDM、OSATともに現在の立ち位置から「期待」よりも「懸念」が高まっている。「国内OSATの存在感が薄い」「全体像が見えない」と危機感を露わにするのは、連合会発足の仕掛け人である林力氏。同氏は、日清紡マイクロデバイス傘下の後工程生産子会社である、佐賀エレクトロニックス(株)(現・日清紡マイクロデバイスAT(株))で社長を務めていた人物。国内の後工程産業に精通、かねて連合会発足の構想を温めていた。同氏に設立の経緯および連合会の役割について話を聞いた。

―― まずは連合会発足の経緯から教えて下さい。
 林 後工程技術が重要性を増すなかで、その一翼を担う国内OSATは全体像が見えにくい、存在感が薄いと感じていた。同業者同士がコミュニケーションを図れる場を作りたいという思いが強まり、コロナ禍もあって少し遅れてしまったが、連合会を発足するに至った。政府が半導体に力を入れていることもある意味追い風になった。

―― 連合会の構成は。
 林 国内OSAT十数社にまずは直接声をかけて、そこから有機的につながっていき、正会員企業は6月時点で26社まで集まっている。会長はイノテックの社長および会長、TDKの会長などを務めた澄田誠氏にお願いし、私は事務局長という立場で連合会を取りまとめていく。

―― 国内OSATの課題はどこにありますか。
 林 海外に比べてやはりスケールでは劣るのは事実だが、自動車や産業機器、医療など国内の基幹産業を支えるうえで、スケールはそれほど大きな要素にはならないと思っている。量に対しては質で対抗していくことが基本だ。ただ、その質を維持していくために重要な設備の維持・更新が、資金面の問題からできていないことが大きな課題だ。

―― 質の部分で海外とどう差別化を図れますか。
 林 例えば、設備稼働率を考えても海外に比べて、日本は高い水準をキープできる。エンジニアリング能力に根差した設備維持力に差があると思っている。また、歩留まり改善力も海外勢に比べて日本のOSATは急峻な立ち上げを行える。こうした部分が最終的なコスト競争力につながってくる。スケールで劣る分、こうした質の部分でカバーしていく。一方で、エンドユーザーと会話ができていないことも国内OSATにおける課題の1つだ。

―― どういった意味になりますか。
 林 OSAT企業は直接の顧客であるIDM企業からの委託を受けて作っているケースが多く、自動車産業の場合OEMやティア1と直接会話できておらず、手がけたものがどこに使われているか把握できていないケースが多い。昔でいうところのサブコン気質から抜け出せておらず、連合会を通じて「わかって作る生産」を目指していく。

―― 連合会で目指すべき方向性は。
 林 海外に流出してしまっている後工程を日本に戻していけるような取り組みを進めたい。車載用半導体を例にとると、自動車の国内生産台数(約900万台)に対して、搭載される半導体の国内後工程生産比率はおおよそ3割程度(OSAT+IDM後工程)にとどまっている。コストギャップを埋めて「海外でやっているものを日本でやりませんか?」と提案できるようにしていきたい。
 そのためには国内OSAT企業同士で話し合いの場を持ち、互いの強み弱みを把握して選択と集中を図っていかなければならない。当然、その先には生産性改善に向けた投資も必要だ。レガシー半導体にフォーカスを当てた補助金や支援の必要性も連合会を通じて呼びかけていきたい。

―― 連合会発足を機に、国内後工程の再編にもつながると見る向きもあります。
 林 私個人の考えでいえば、そういったシチュエーションを否定するつもりはない。まずは自分の会社を買ってもらうほどの魅力を持った会社に高めていくことが重要だ。



(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2025年7月3日号1面 掲載

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