ミネベアミツミグループでアナログ半導体事業の一翼を担うエイブリック(株)は、2024年度の営業利益率が前年度に引き続き30%以上に達し、アナログ半導体企業の中でもトップレベルの営業利益率を継続的に達成している。「価格ではなく付加価値を認めてもらえる製品展開を推進することで、高い利益率を維持できる企業体質にする」と語る、代表取締役社長執行役員の田中誠司氏に事業方針や製品展開などを伺った。
―― アナログ半導体企業の中でも高い営業利益率を誇っています。
田中 24年度は4期連続で売り上げ、営業利益ともに目標値を達成し、競合するアナログ半導体企業の中でも高い営業利益率を堅持できた。これは、エイブリックとしてビジネスを開始してから生産現場の効率化、つまり人員の最適化や経費削減、ムダ取り活動の推進など生産に関する効率化に早期に着手し、成果を上げてきたことが奏功している。さらに、21~22年の半導体需要の高騰期に、長期注文を受けず堅実な受注と生産を維持したことで、在庫調整が他社よりもズムーズに進んだことも要因だ。バブルのような需給状況の渦中に入ってしまうと実需の数量が見えなくなり、その後の反動も大きく受けることになるため警戒して対応した。23年度は多少の反動があったものの、24年度からはエンドユーザーの実需に沿った生産ができているとみている。
―― 24年5月にソシオネクスト社からメディカル関連事業を買収されました。
田中 医療向け高耐圧IC事業では、以前から顧客の要望が高かった製品分野についてソシオネクスト社から事業譲受することができた。これにより、当社には無かった受信および送受信用ICの回路技術を獲得し、急速に市場が拡大しているポータブル/カート型の医療用超音波診断装置向けの製品展開を強化することができた。24年9月に事業の買収を発表し、12月には事業統合して製品展開を開始するなど、多くの社員を投入して急ピッチで事業を立ち上げた。
―― 25年度の事業方針について。
田中 社内の取り組みとしては、①ハイマージンビジネスの拡大、②エンゲージメント(従業員満足度)の向上、③プロダクトマーケティング/事業企画ユニットの本格化、④事故ゼロ・労災ゼロを目標に掲げている。
③については、24年度に中長期の収益目標を達成させるべく、新規に2つの部門を立ち上げた。5月にはプロダクトごとに収益に責任を持ち、製品の企画や戦略を立てるプロダクトマーケティングを、10月には製品戦略をベースに全社の事業戦略を実行して目標収益を達成する、事業企画ユニットを新設した。これらは、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回して戦略を具現化する組織で、中長期の収益達成のためにキーとなる。また、キャリア形成型人事制度も今年度から本格導入し、個人が望む働き方と企業が求める能力とのマッチングをすることでともに成長していけるプラットフォームを作っていく。
―― ①の詳細を。
田中 新製品を開発する際に、例えば競合他社の販売価格を100とすると、80で売るような製品展開をせず、付加価値により120で買っていただけるようなビジネス形態を構築中だ。これには、顧客との早期段階から密な連携が重要で、医療やスマートフォン向けは構築できており、他の事業にも拡大している。
顧客のニーズを早期につかみ、それを叶える技術力が当社にはあると自負している。そして、新製品(過去5年間に上市した製品)の売上比率を、27年度には24年度比で約2倍まで拡大し収益に貢献させていく。
―― 25年度の目標を。
田中 注力製品群としては、引き続き①リチウムイオン保護IC、②車載向け電源IC、③医療向け高電圧IC、④磁気センサー、⑤クリーンブーストを五本柱とし、25年度の売上高は前年度比でおおむね10%増を目指す。事業ごとにばらつきがあるが、五本柱においてはおおむね2%から60%増になる見通しだ。⑤は、これまでは水検知関連で国内の引き合いが多かったが、今年度からは海外展開にも注力する。
(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2025年7月31日号1面 掲載