三菱電機(株)の高周波光デバイス製作所(兵庫県伊丹市)は、1959年に半導体専門の北伊丹工場として設立され、InPやGaAs、GaNといった化合物をベースとする高周波デバイス、光デバイスの技術開発から量産を担う総本山として発展してきた。先ごろデータセンター(DC)における通信のさらなる高速化に不可欠なEML(電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザーダイオード)の生産能力を、2028年度に24年度比3倍に拡大する投資計画を発表した。4月に所長に就任した山内康寛氏に、これまでの取り組みや今後の展望を聞いた。
―― ご略歴から。
山内 96年に当社に入社して以降、一貫して当製作所で高周波光デバイス事業に携わってきた。当初は生産技術でパッケージングやテスト技術といった後工程を担当し、17年に製造管理部のアセンブリテスト企画・技術グループマネージャーの任に就き、以後は21年に光デバイス部次長、22年に光デバイス部長を拝命して、4月から所長に就任した。ずっと生産量を増やすことに取り組んできたため、「時間を価値に変える」をモットーとして、効率よく業務を回すことと投資のタイミングを見極めることに最大限の注意を払ってきた。
―― 高周波光デバイス製作所の概要について。
山内 甲子園球場約2.7個分に相当する10.4万m²の敷地に、光デバイスの量産拠点であるNVL棟、高周波デバイスを生産するU棟、実験や技術開発を行うC棟などを配し、従業員約780人が在籍している。設立当初はSiトランジスタを製造していたが、79年からGaAs FETの生産を開始し、87年には光通信用DFBレーザーを開発したほか、衛星放送受信用HEMTの生産も開始した。24年時点でDC用EMLチップを累計6000万個、5G基地局用GaNモジュールを累計100万個出荷した。
―― 光デバイスの需要が拡大しています。
山内 光通信の技術トレンドとして、生成AIの普及によってVCSEL(面発光型レーザー)の動作速度が限界にきており、適用デバイスがEMLへ変化し始めている。30年以降はAI機器の消費電力低減に向けてCPO(Co-packaged Optics)や光電融合といった技術の実用化が見込まれている。こうした背景から、当社の高周波光デバイス事業においても、光デバイスの構成比が8割を占めるまでに伸びている。
―― 製品ロードマップについて。
山内 FTTH(Fiber To The Home)では、現在主流の10G-PON向けに10G高出力EML-CANを提供しているが、50G-PONを実現するため、出力と速度を5倍にした50G SOA(半導体光増幅器)付きEML-CANの需要が28年ごろから立ち上がってくるとみて開発を進めている。
DC向けは、800Gから1.6Tへの移行が始まった。これにあわせて当社は、24年から200G対応のEMLとPD(フォトダイオード)を商品化して出荷中で、28年以降に見込まれる3.2Tへの高速化に対応可能な400G対応のEMLとPDを開発中だ。
―― EMLを大幅に増産する予定ですね。
山内 23~24年度にかけてEMLチップの生産能力を20年度比5倍に拡大する投資を実施したが、先述の技術トレンドやDC向けの旺盛な需要に対応するため、26年度に24年比1.5倍、28年度には26年度比2倍に拡大する投資を決定した。28年度には24年度比で3倍となる計算だが、増産に必要な製造装置やInPウエハーの調達についてはおおよそめどがついている。
―― NVL棟を増強することになりますね。
山内 NVL棟は、2階がエピ成長、1階がウエハー工程、B2階がチップテストで、レーザーバーの分割までの工程を手がけている。InP/GaAsウエハーは3インチで、増産に向けて大口径化する選択肢もあるが、まずは3インチで増やしていく。この2~3年間で製造基盤を強化し、30年まではDC向けEMLの需要拡大に対応したい。さらに増産が必要であれば新棟が必要になるが、DCの次に何の需要が出てくるのかを常に注視していく。
―― 光電融合やCPOといった技術へのの関わり方を教えて下さい。
山内 技術開発をさらに進め、広くコラボレーションをやっていきたいというのが基本スタンスだ。いずれにせよSiだと200Gまでが限界で、以降はInPが不可欠になる。実現に向けて「蒔く種を増やす」活動を続けていきたい。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2025年8月28日号1面 掲載