MOCVD装置で世界トップの独アイクストロンは、8月1日付で日本法人(東京都品川区)の代表取締役社長に町野友康氏が就任する人事を行った。町野新社長に現在の取り組みや今後の展望を聞いた。
―― ご略歴から。
町野 1997年に半導体商社に入社し、最初は航空宇宙分野の営業としてJAXAや防衛省などに足を運んだ。アイクストロンとの関わりができたのは2006年からで、装置の営業を担当させていただき、その縁があって12年に当社へ入社し、その後はマーケティングとセールスを担当してきた。
―― 化合物半導体向けの成膜装置が主力です。
町野 化合物半導体にもシリコン並みの量産規模が求められるようになり、これに対応して当社の装置もカセット・ツー・カセットによる全自動化を一気に進めてきた。それが現在の主力機「G10」シリーズだ。SiC用CVD装置「G10-SiC」、GaN用MOCVD装置「G10-GaN」、AsP系MOCVD装置「G10-AsP」はすべて日本の顧客にも導入済みだ。
―― 引き合い状況は。
町野 一時に比べてパワー用途の引き合いは落ち着いている。SiC用はEV市場の減速が影響しているが、EVプラットフォームの400Vから800Vシステムへの移行やEV以外への用途展開を注視している。GaN用は低~中耐圧向けで日本でも導入が進み、RF向けにも多用されている。
これに対してAsP系は引き合いが強く、追加オーダーをいただいている。データセンター向けにInP系レーザーダイオード(LD)の需要が旺盛で、日本の顧客がこの分野で高いシェアを有していることも関係している。この分野のLDはエピの均一性がきわめて重要で、ここに当社のプラネタリーコンセプトがフィットしている。in-situクリーニング機構でリアクター内を毎回リフレッシュするため、成膜の再現性が高く波長のずれが起きにくい。かつて顧客は、このずれを計算に入れてレシピを組んでいたが、その必要がなくなった。また、6インチのエピでもいいデータが出ており、拡張性が高いことにも評価をいただいている。
―― 貴社における日本法人の位置づけについて。
町野 日本の顧客は化合物半導体の最先端に取り組んでおり、技術の方向性を見るうえでのキーマーケットであることに変わりはない。加えて、近年はSiCやGaNのフル量産に移行する顧客が増え、顧客の工場に当社のエンジニアが常駐するオンサイト保守契約が本格的に始まった。当社の顧客は大学をはじめとする研究機関も多かったため、オンサイト保守契約はほとんどなかったが、装置を安定稼働させるための保守が増えてきたため体制を強化している。私が入社した当時から10人以上増え、現在は25人が在籍している。
―― 今後の方針は。
町野 さらに保守契約を増やし、充実したサポートを提供していきたい。日本の顧客は技術力が高いため、これまでは装置の保守を自ら行うケースが多かったが、生産規模の拡大で人手が追い付かなくなりつつあり、これを当社がカバーできるようにする。すでに顧客先に事務所を構えるといった対応はとっているが、顧客とのコミュニケーションをもっと密にするといった観点からも、拠点を開設する必要が出てくるだろう。パワー半導体市場の次の回復期が判断のポイントになると考えている。
―― 人材採用が実現のカギになりそうですね。
町野 外資系企業で一定の語学力が求められることもあって、日本人エンジニアの応募が外国人に比べて少ない。AIや再エネ、EVなど化合物半導体が求められる分野は、今後の成長領域であり、かつ先の社会に不可欠な要素であるため、そうしたフィールドでやりがいを感じていただける方に選ばれる企業に成長していきたい。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2025年10月2日号15面 掲載