独創的なモノづくりに挑み、水晶デバイスで「小型ならリバー」という圧倒的ポジションを確立したリバーエレテック(株)(山梨県韮崎市)。kHz帯の音叉型水晶振動子、MHz帯のATカット水晶振動子で技術改善を重ね、専用ICと特許取得済みのKoTカット・OPAW(直交板弾性波)振動技術を採用した水晶発振器「KCRO-04」で、水晶デバイスの新たな歴史を創ろうとしている。同社代表取締役社長の萩原義久氏に、最新動向、展望などをお聞きした。
―― 現況から。
萩原 直近の2025年4~6月期業績では、売上高が前年同期比14%増の15億円と増収だった一方、営業損失5200万円を計上する結果となった。米国関税政策に伴う一部メーカーの在庫調整により、スマートフォン向け音叉型水晶振動子の受注減少によるプロダクトミックスの変化に伴う売上総利益率低下や、車載向けでも新規生産ラインの稼働率低下などが利益面で響いた。足元は慎重な受注が多く、実需が弱含みなのかお客様の慎重姿勢によるものなのか、今後の市況感は見通し難い。現状は26年3月期通期売上高を前年度比7%増の61億円、営業利益1.5億円(前年度は7500万円の損失)の計画で据え置いている。
―― ICから水晶振動子まで一貫生産の画期的なKoT(Kerfed orthogonal plate waves for zero Temperature coefficient)カット水晶デバイス(KCRO-04)の進捗状況は。
萩原 積極的にサンプル供給を進めている。従来のATカットでは実現できない500MHz以上の高周波帯対応品であり、現状ではデータセンター(DC)に使用する光トランシーバー向けに625MHzで引き合いが強く、リピートの試作要求に対応中である。高周波対応のKoTカット振動子専用設計の発振用ICを自社開発し、特許取得済みの独自の水晶振動子と一体化した当社肝入りの製品であり、ノイズ性能で一線を画す。タイミングデバイスの新たな歴史を創る製品になると期待している。
―― DC向け光トランシーバーへの貢献は。
萩原 DC向け光トランシーバーでは今後、1.6Tbpsへと大幅な高速化が想定されており、KoTカットの超低ジッター、温度特性、低位相ノイズなどの利点が活きる。従来のPLL発振器に比べて、KCRO-04の採用でより回路設計の簡素化、小型化、低消費電力化も図りやすくなる。25年度後半から量産を開始し、28年度から本格展開を見据えていく。現状は当社本社(韮崎)での生産体制だが、ニーズ度合いを見ながら26年度以降に青森リバーテクノでの量産も視野に入れていく。
―― 音叉型水晶振動子の需要も堅調です。
萩原 音叉型では超小型化に貢献する当社独自のMDS(固相拡散接合)封止工法を採用した主力製品の音叉型水晶振動子「TFX-05X」(32.768kHz対応)を補聴器向けに月産数十万個規模で納入しているほか、指輪に様々な機能を入れたスマートリングでの需要が高まっている。1210サイズ、高さ0.35mm、重さ0.8mgという超小型・超薄型・超軽量で貢献できる。また、2012サイズの音叉型水晶振動子「TFX-03」は車載向けに引き合いが強い。
―― ATカット水晶デバイスについては。
萩原 ATカット水晶振動子は、再ポジショニングによる変革の最中にある。その一環としてMDS封止法をATカット水晶振動子にも活用し、24年末に世界で初めて0806サイズのMHz帯ATカット水晶振動子を上市した。欧米の補聴器メーカーなど医療分野で需要が強い。車載向けには2016サイズ品を立ち上げており、25年度内にIATF16949認証を取得予定だ。
さらに5月にはATカット水晶発振器新製品「FCXO-07F」もリリースした。1612サイズで0.9V駆動が可能で、モバイル関係やDCなどの電力消費量抑制に貢献していく。
―― 生産体制は。
萩原 24~26年度累計設備投資額約31億円の計画を遂行中である。うち車載向けATカット品や既存の設備更新などの戦略投資に約24億円を振り向けており、特に主力拠点の青森リバーテクノを増強中である。なお、25年度の設備投資額は6億円、研究開発費は3億円を計画している。
―― 今後の展望を。
萩原 地政学リスクが高まるなか、高信頼性かつ超小型な日本製のステータスが上がるとみている。前述のとおり、水晶デバイスでは超小型が求められる時代となり、車載向けでも出番が到来している。DC向けでは超高周波対応品が求められ、当社のKoTカット品が産声を上げた。今後もリバーらしさを発揮しながら、タイミングデバイスの新たな歴史を切り拓いていきたい。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年9月18日号5面 掲載